明日に向けて

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明日に向けて(1183)パリで大量殺りく、トルコ軍が露軍機撃墜、世界の暴力化を止めよう-1

2015年12月04日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20151204 23:30)

明日に向けて(1173)(1174)(1178)でシリアをめぐる国際情勢を分析し、「今こそ平和の声を」と題した連載を行いました。
その後、僕は台湾訪問の旅に出ましたが、その間にパリで130人以上が殺害されるとんでもない事件が起こりました。フランス軍がただちにISに対する報復爆撃を行いました。
さらに10月31日にあったロシアの旅客機墜落事件もまた爆破によるものであり、ISが声明を出していることからロシアがISに対するさらなる猛爆撃を始めました。
ところがこうした中で24日に領空侵犯を理由にトルコ軍機がロシアの戦闘爆撃機を撃墜。トルコとロシアの間が険悪化しています。

世界の暴力化がますます進んでいます。世界のあちこちから、すでにこれは第三次世界大戦の始まりではないかとの指摘がなされているほどです。
なんとかこの流れを食い止めたい。そのために今、何が起こっているのかを的確に分析し続けていくことが必要です。
僕は明日5日、大阪市西成区で「戦争法」についてお話しするので、同時に今、起こっている戦争についてお話したいと考え、今までスライドを作っていました。
そこでまとめたことを押さえておきたいと思います。

まずこれまでも述べてきたことですが、情勢分析にあたって僕が徹底して避けている言葉があります。「テロ」です。フランスの事件も僕は「テロ」とは呼ばず、攻撃と書いています。同じ意味で「犯行」とも「犯人」「実行犯」とも書きません。
もちろんこうした殺人攻撃に僕は強い怒りを持っています。いかなる意味でも自らの政治思想を貫くための殺人を僕は認めません。ではどうして「テロ」と呼ばないのかと言うと、この言葉は欧米ないし日本からの一方的な言葉だからです。
つまり「テロ」という言葉の使い方には、強い政治性があるのです。いや政治の世界では多くの言葉がそのように使われています。このため一たび客観的な視点に立つためにはこの強烈に価値化された言葉の外に立つ必要があります。
もちろん「それでは伝わりにくいから」ということで「テロ」という言葉を使うこともあり得るとは思いますが、それなら「テロ」を明確に定義づけるべきです。

少し考察すると分かることなのですが、もともと「恐怖」を意味するテラーから派生しているこの言葉には非常に悪いイメージが付加されています。非道で卑劣、人を殺すことをなんとも思わないイメージ、殺人鬼など冷酷ないイメージが連想させます。
しかし一度、欧米に繰り返し侵略され、植民地支配され、攻撃を仕掛けられてきたイスラム圏の人々の立場から考えてみると、これらはすべて欧米のやってきたことに当てはまります。
いや何もそんな遠いところの人々の立場に身をおかずとも、広島・長崎への原爆投下や、東京大空襲を初めとした主要都市への空襲、沖縄地上戦などを思い起こせば、アメリカこそが世界の中でもっとも殺人を犯してきたテロ国家であることが痛感されます。
何せアメリカはこれらの蛮行、明白たる戦争犯罪をただの一度も謝ったことがないのですから。日本で右翼を自称する人々のほとんどが、中国や韓国のことばかり騒ぎ立てますが、アメリカを批判できないことこそ強烈な自虐史観ではないでしょうか。

欧米社会は積年に渡る己の暴力をなんら振り返らないまま、「テロ」への怒りをかきたてています。そして報復の空襲を敢行しています。
ぜひイメージを膨らませて考えて欲しいのは、パリのこの事件が「カミカゼ」と呼称されていることです。旧日本軍の体当たり攻撃とイメージがダブっているのです。
その先にあったものこそ、日本本土への猛爆撃であり、沖縄上陸戦であり、原爆投下だったのです。「カミカゼどもを根絶やしにしてやる」とばかりに。しかしその攻撃で殺された圧倒的多数は子どもであり、女性であり、老人でした。
今日、広島市内の死者の中で群を抜いて多かったのが12才、13才ぐらいのこどもであったことが明らかになっています。「カミカゼ」などに動員された成年男子は、ほとんど町に残っていなかったからです。


さてこのことをしっかり踏まえて今、起きていることを大きく規定していることを見ていきましょう。なんといってもそれはシリアからの膨大な難民の発生です。
これは2011年ぐらいから拡大してきました。直接的にはシリアのアサド政権と反政府派の武装闘争の中で、アサド政権が樽爆弾などによる住宅地への空襲を開始し、人々が戦乱に巻き込まれる中で拡大してきたことです。
この上に、2003年から行われた英米によるイラク侵略戦争の結果、イラク社会が荒廃を極め、その中からIS(「イスラム国」・・・この呼称も問題を孕んでいます。他者に通じる言葉としてここではISを使用します)が台頭したことが重なりました。
その点で大きく中東・アジアという視点に立ち、アフガンをも見据えるならば、2001年911事件以降の米英によるアフガン戦争、イラク戦争こそがこの地域の不安定化、暴力化を作り出してきた大元であることを見ておくべきです。

こうして不安定化を深めるこの地帯のさらなる暴力化のアクセルを踏んだのもアメリカであり2014年夏からのISに対する空襲の拡大です。
当初から言われていたことですが、軍事的に言って空襲ではISを壊滅することは難しいというのが世界の常識でした。地上軍を用い、直接にISを攻撃しないと、巧みに攻撃を避けられてしまうからです。
実は報道の多くが触れないこの先にこそ問題があります。軍事武装集団であるISが容易に逃げられることに対して、IS支配地域に住んでいる人々はそんなに簡単に逃げられない。空襲ではこうした人々こそが犠牲になるのです。
そしてそのことが世界中のムスリムの間にさまざまなルートから伝わっていきます。民衆がアサド政権やISのみならず、圧倒的に欧米によって虐殺されていることがです。

このことが世界中でISに惹きつけられる若者が生み出される根拠となっています。
欧米社会が憎しみをこめてISの戦闘員を「テロリスト」と呼ぶように、彼ら彼女らは積年の憎しみを込めて欧米の殺りく部隊を「十字軍」と呼び、これに抵抗する「聖戦」=ジハードを呼びかけているのです。
しかもその戦法の軸にあるのはそれこそ自らの生還を顧みない「特攻作戦」です。これに対して「神風特攻隊は相手の軍を狙ったのであって市民を狙った攻撃とは違う」という反論が日本の一部からあるようですが、問題はそこにあるのではありません。
日本軍が徴兵社会で成り立っていたことに対し、ISへの各国からの陸続たる参加は主に自主的なものです。背景はさまざまあったとしても、自ら命を捨てる覚悟で参加しているのです。

ここに見られるのは空襲では何も解決しないということです。では地上軍投入なのか。もちろんそうではありません。そもそも今のイラクの惨状やISの登場はアメリカを中心とする有志連合軍の地上軍投入によるフセイン政権打倒の結果です。
繰り返し語られてきたシンプルな道理ですが、憎しみは憎しみをしか生まないのです。軍事で平和な世の中を作り出すことはできません。それがこの2000年代を振り返っただけでも見えてくることです。
にもかかわらずアメリカは軍事攻撃を止めない。軍産複合体としての戦争国家である所以でもありますが、それ以上に世界の多くの人々が、まだまだ軍事に解決を委ねているがゆえに繰り返される過ちだと僕は思います。
だからこそこの流れの逆を歩む必要がある。即時停戦、空襲の中止、欧米による中東侵略への謝罪と補償の実現。それが誠意をもってなされたときにこそ、ISは支持を失うのです。アルカイダもそうです。すべての武闘派がそうです。

にもかかわらず正反対の方向を強めるから事態がどんどん悪化しています。まずフランスについて言えば、9月27日よりシリア空襲=IS攻撃に参加しました。
ちなみにISはイラクとシリアの国境線の無効を主張しています。なぜか。この定規でひかれた国境は、第一次世界大戦でこの周辺一体を支配していた超大国、オスマントルコが倒れたときに、イギリスとロシアとフランスの密約でひかれたものだからです。
この密約を「サイクス・ピコ協定」といいます。1916年5月に結ばれたものでした。ちなみにイギリスはこの他に、中東のアラブ民族の独立を認めたフサイン=マクマホン協定と、パレスチナへのユダヤ人国家建設を認めたバルフォア宣言を結んでいました。
いわゆる三枚舌外交であり、このことが20世紀全般にわたってこの地域が戦乱にまみれる出発点となったのでした。その中心国の一つであり、植民地支配者だったフランスが空襲を開始したというわけです。

続く

以下は講演情報です。

戦争法について
講師 守田敏也

12月5日午後6時から8時

場所 西成民主診療所
〒557-0034 大阪府大阪市西成区松2丁目1−7
http://byoinnavi.jp/clinic/54611

主催 たちばな9条の会

 

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