明日に向けて(1188)台湾のおばあさんたちを訪ねて3-性暴力問題に男性はいかに向かいあうべきか
守田です。(20151210 14:30)
前回の続きです。
ところで9年前に僕は男性としてこの性に潜む暴力性に向かいあい続けなければならないけれども、どこかで自信を持って言い切れない自分がいると書きました。
今はどうかと言うと、さすがに9年を重ねてきて、もう一つか二つ、前に進めたものを感じています。だからもちろん今は自信を持って言い切れるし、むしろ今はそこに男性自身の解放もあるとも確信しています。
この間、折に触れて語ってきましたが、軍隊「慰安婦」問題の背後にあるのは、旧日本軍の並外れた構造的虐待体質でした。
兵士たち、とくに二等兵、一等兵などの末端の兵士たちは、毎日、毎日、殴られるのが普通でした。訓練も過酷で命を落とすものがでることもしばしば。それも体罰などが続いた末のことでした。
「きさまたちは軍馬よりも安い。一銭五厘(召集令状=赤紙の代金)で補充が効く」などと言われ続けました。
その上、多くの戦線で酷い人殺しを強制されました。度胸試しだといって捕虜となった人々を刺殺させられたり、さまざまな虐殺を命令されました。
このため、日本軍兵士たちは一度野に放つと、とんでもない狂暴性を発揮するようになりました。とくに民家を見つけると略奪に走り、男性を殺し、女性を強姦しました。強姦してから殺すこともしばしばでした。こうした体質が特に南京で猛爆発しました。
兵士たちの暴走に手を焼いた軍部は、南京虐殺の捉え返しから「慰安所」という性奴隷施設を創設しました。軍部が特に問題にしたのはレイプそのものよりも兵士が性病にかかることでした。かくして軍は処女の女性・・・幼い少女たちを狩り集めたのでした。
繰り返しますがこのように旧日本軍性奴隷問題の背後には、日本軍の構造的虐待体質が横たわっていました。だから日本軍下級兵士たちの中には、本来、上官や軍上層部、政府中枢に向けるべき憤怒のエネルギーが堆積していたのでした。
しかし兵士たちは軍部によってそれを女性たちに向けさせられ、性暴力を振るってしまいました。あるいはアジアの多くの人々を虐殺する形で晴らさせられてしまいました。だからそれはますます自らへの虐待を強める力へと転化していったのでした。
かくして兵士たちは、太平洋戦争の中でまったく勝つ展望のない過酷で不条理な戦を強いられました。弾薬も足りず、それどころか食糧すら満足に供給されませんでした。太平洋戦線で死亡した兵士の実に半数以上が餓死してしまったのでした。
その大半は若者です。しかも二十歳前後の。まだまだ子どもたちです。しかし彼らは殺人鬼になってしまいました。いやされてしまったのでした。
この歴史をこそ正さなければなりません。女性の虐待の背後には必ず男性の虐待がある。反対に女性の尊厳が輝くときにこそ、男性の人権もより守られ、尊厳も輝いていくのです。ここには深い連動性があります。
女性たちが不当に虐げられている世の中で男性が幸せなわけがない。またそんな不当なことがまかり通る世の中では必ずや男性もまた理不尽な虐待ピラミッドの中におかれるのです。男性はこのことにこそ気が付くべきです。
僕自身はそのため、旧日本軍兵士たちの罪を背負っていきたいと思っています。なんというか、背負ってあげたいと強く思うのです。
もちろんそれは彼らが犯した罪を容認するものでは断じてありません。彼らは被害者に懺悔しなくてはならない。だとしたらそれを力強くサポートしてあげたい。彼らもまた国家の犠牲者なのですからその痛みにも寄り添いたい。
しかも彼らは虐待者、性暴力者、虐殺の共犯者にされてしまった犠牲者なのでした。それで彼らの魂が安らかに眠れるはずなどないと僕は思うのです。だから彼らの深き罪から彼らの魂を救うためにも、おばあさんたちの尊厳を取り戻したいと強く思います。
同時にだからこそ、あらゆる戦争に僕は反対し続けます。僕は自衛の戦争も、自衛権の行使にも反対です。
自衛権の行使だってなんだって人殺しをするためには人殺しの訓練をさせなければなりません。そのためには「人を慈しみたい」、いわんや「人殺しなどしたくない」という人間的心情をこそ潰さなけばならない。それでないと人間は人間を殺せないのです。
だから、国を守るためだろうがなんだろうが、僕は若者たちに人殺しの訓練を課すことに反対です。「誰の子どもも殺させない」・・・これこそが最も正しい答えだと僕は思います。
同時にすべての男性のみなさん。この日本という国は、女性の、議員数や会社の役職者数、平均給料などからはかった社会的地位がなんと世界の中の100番以下の国なのだそうです。
そのことは私たち男性が「国際水準」からみて、いかに劣った愚かな存在であるのかをも物語っています。
こんな状態は僕はごめんです。こんな不名誉なあり方から解放されたい。だから私たちは私たち男性の課題として、すべての女性の地位の向上に尽力すべきです。
そのための大切な道しるべをたくさん作りだしてくれたのが性奴隷問題被害者のおばあさんたちだと僕は思います。
その勇気ある姿を知ってください。同時に、それぞれに優しく、かわいらしく、お茶目な、彼女たちの横顔を知ってください。
すべての女性と男性の真の解放のために、おばあさんたちの思いをみんなで何度もシェアして、前に進みたいと思います。
連載終わり
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2012年秋に台湾のおばあさんたちを訪問した際の連続記事のアドレスを記しておきます。ぜひご参照下さい。
明日に向けて(546)福島原発事故は戦争の負の遺産とつながっている(上)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/430fed7c5227f1b2f3d950199e350215
明日に向けて(548)台湾のおばあさんのこと・・・福島原発事故は戦争の負の遺産とつながっている(中)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/fa4f3e76c32de1f65b67cffe2748f976
明日に向けて(550)台湾・霧社事件と原住民と「慰安婦」・・・福島原発事故と戦争の負の遺産(中)の2
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/55a668ec4dca3c065a944501eb8a6219
明日に向けて(551)タロコ族のアマアたちのこと・・・福島原発事故と戦争の負の遺産(中)の3
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/55e1cbf5935c0ab7a2b77d1e7fc82387
明日に向けて(552)タイヤル族のアマアのこと・・・福島原発事故と戦争の負の遺産(中)の4
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/e2098433faf74f20876ba368ec669018
明日に向けて(554)呉秀妹阿媽のこと・・・福島原発事故と戦争の負の遺産(中)の5
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3c59c0d525331d84de324393a823f2f4
明日に向けて(574)台湾の呉秀妹阿媽が逝去されました・・・。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/770f6a19030ae52e12772bae2126321b