守田です。(20131007 23:00)
前回の講演文字起こしの続きです。
福島原発事故の真の収束のために私たちは何をすべきか 中
2、今必要なのは避難訓練!
この危機に対してどうやって対処したらいいのか。東京や関東、東北の方とお話しすると、みなさん、4号機や原発サイトが危ないという意識はある程度はあるのですが、お手上げ状態なんですね。そういうことが起こったらどうするかといっても自分が現場にいって止めることはできない。
だからそういう事態になったら、みんなが滅んでしまうのだから、そんなことを考えても仕方がないという風になりがちです。それは間違いです!
僕がずっと主張しているのは、関東、東北は広域の避難訓練をぜひともやるべきだということです。絶対にやるべきです。西日本はどうなのかというと、ここでも原発事故に備えた避難訓練はぜひともやるべきです。
日本中に原発があります。今、すべてが止まっていますが、危険な燃料がプールなどに入っています。原発がすべて廃炉になり、燃料が安全なところに安置されるまで、危機は続くのです。
実は僕は今、兵庫県篠山市の原子力災害対策検討委員会に入って、避難計画を作っている最中です。だけどリアルに避難計画を作ろうとすると、少しでも被曝を減らして犠牲者を少なくするしかなくて、全員が逃げるのはとても無理なのです。
例えば京都府の舞鶴市はもうお手上げ状態になっています。なぜなら舞鶴市は一気に逃げるためには600台のバスが悲痛用で、それなら10時間半で避難が必要とされる13万人が移動できると試算されています。
その場合、600台のバスをどこから持ってくるかが問題になります。それで舞鶴市が京都のヤサカ観光バスに問い合わせたそうです。するとヤサカ観光バスは74台のバスを持っているけれども、常時70台ぐらいは使われているので、緊急に集められるのは4台ぐらいしかないという。
さらに他のバス会社が重大な発言をしました。「協力したいが、運転手に『放射線の高い所に行け』とは言えない」。これは実に重要な問題です。危険な時に誰が迎えに行くのか。
この点は篠山市でも悩んでいます。重篤な病を持った方、障がいを持った方がおられて、すぐに逃げ出すことができません。その方たちを守る絶対的な必要性があります。それだけではなくて、小さいお子さんや妊婦さんなどもすぐには逃げにくい。だからこうした逃げにくい人をいち早く逃げ出す体制を作る必要があります。
しかしそうなると、反対に最後には誰が残るのかが問題になる。その人は自力ではすぐに逃げられるけれども、自ら被曝の可能性をおかしながら、人を助けなくてはいけない。
篠山市の職員の方には「自分がそれを担います」という方が多くおられるのですが、それでも僕はその方たち、とくに若い方たちに業務命令としてその役割を担えと言えるのか、大変、悩んでしまいます。すごく深刻です。
こうした仕事は火事現場で活躍している消防士の方たちなどが現に常に担っています。それに準じることができるかもしれませんが、そこで思い悩んでしまうのは、政府の被曝基準が非常に甘いので、人を助けるために被曝した人の保証がどれだけなされるのか大きな不安があるということです。
というか、実際に福島原発事故で、たくさんの公務員の方が、業務中に被曝されながら、健康調査すら受けていない場合が大変多くあるのではないでしょうか。
いやそれだけではなくて、今、行われている福島第一原発のサイトでの事故収束作業もまったく同じです。多くの方が被曝しながら働いています。その健康補償はちゃんとされるのでしょうか。大きな疑問があり、監視が必要です。
しかしこうしたいざというときのための計画は、各原発の周りで立てておかなければならないのです。原発が稼働していなくたって大災害になる可能性があるからです。悩ましい計画をみんなで作っていかざるをえません。
そうした計画を住民参加で作り、少しでも避難を円滑にすすめるための教育は訓練を行うことが、今、日本中に問われているのです。
3、広がる健康被害
さらにもう一つ、重要な問題があります。健康被害の問題です。福島の方の中には、安倍さんの嘘のうち、「今現在も、未来においても、健康被害はまったくない」と言ったことが一番許せないと言われる方もいます。
なぜかというと、現在まで、原発事故で亡くなられた人は、推定で1300人以上いるのです。これは原発関連死という概念で数えられたものです。
もともと復興庁が「震災関連死」という概念を出しています。震災関連死というのは、津波や地震で亡くなった方ではなく、その時は助かったのだけれど、それ以降に、避難などをしている最中に亡くなられた方のことを指します。
その震災関連死を、今、原発のことで一番頑張って良い記事を書き続けている東京新聞が、原発災害に当てはめて、「原発関連死」という概念のもとにカウントを行いました。
福島の方たちは、津波の被害で避難しなければならなかった方よりも、原発事故のせいで避難しなければならなくなった方の方が多いのです。原発事故がなければ逃げなくてもよかった方です。
その方たちが避難の途中で亡くなったことが「原発関連死」とされているわけですが、これが今年の3月の調査で910人と数えられています。
ただし400人以上の震災関連死の出ている南相馬市などが、原発関連死のもとでの推計をしていません。その部分が未カウントなのですが、市の職員の方に聞くと、ほとんどが「原発関連死」にあたるということで、それをプラスすると1300人以上という数になるのです。
つまり低く見積もっても、東京電力は1300人以上をこの事故で殺したのです。浪江町という原発の近くの町の議会が安倍さんの発言に抗議声明を出しました。浪江町で原発関連死で亡くなった方は271人です。
僕はこの方たちは、高濃度の放射能を被って、その害でも命を縮めていると思います。もちろん避難のストレスそのもののとても大きかったでしょう。人間の死は複合的な要因によってもたらされます。東京新聞は死因まで特定していません。しかし原発関連死ということで1300人以上が亡くなっているという事実が明確にあるのですね。
なのに東京電力は誰一人つかまっていません。訴追はされたけれど無罪になってしまいました。1300人殺したけれども無罪になるというそういう状態がまかり通っているのです。
さらに健康被害はすごく出てきています。この点についても政府はなかなか認めようとしませんけれども、今、起こってきているのは福島の子どもたちの甲状腺のがんです。どれぐらい起こっているのかと言うと、19万3千人を診察して、43人の子どもがほぼがんだろうということになっています。
ところがその検査のあり方をよく見てみると、1次検査をやって危ない子どもをあぶりだして、二次検査で確定していくのですね。ところが二次検査はまだ半分しかやっていないのです。19万3千人のうちの43人ではなくて、19万3千人の半分のうちの43人なのですね。だから単純に考えれば倍になります。
ただしヨウ素がより流れた地域の子どもが後回しにされたりしていて、倍以上になる可能性もあるのですが、この19万3千人のうち、大雑把に考えても80人以上の子どもたちが甲状腺がんになっているのではないかと思われます。
この病気の大人の発症率は子どもの10倍ぐらいありますから、そうすると福島には今、わかるだけでも800人以上の大人たちの甲状腺がんが発症している可能性がある。しかも子どもの検診とてまだ半分ぐらいです。子どもたちも大人ももっとたくさん、患者、犠牲者が出てくる可能性があります。
この甲状腺がんの発症の国際水準は100万人に1人であると言われています。今、福島で起こっていることは100万人に400人以上の数です。にもかかわらず政府はこれは原発のせはないと言い放っています。
しかしもしそうだとしてもこの400人とは何なのか。ほかの深刻な要因があることになります。だからいずれにせよ福島の子どもたちに深刻なことが起こっているのは間違いないのです。
僕自身はやはりこれは原発の放射能のせいだと思います。さらにそれだけではなくて、今の日本の子どもたちは、チェルノブイリの原発事故のときの子どもたちに比べて、大変な量の化学物質の暴露を受けているので、その複合的な要因で病が激発しているのではないかとも思えますが、とにもかくにも、福島の子どもたちの甲状腺がんがどんどん出ていることはもう事実としてあるのです。
最近、話を聞いた東本願寺のお坊さんが二本松で経営している幼稚園の卒園児でも、1人、甲状腺の手術をすでにした子がいると言っていました。
僕の京都の友人で40歳台の女性がいるのですが、彼女の宮城県の高校時代の友達にたまたま電話したら、甲状腺全摘出手術をした直後だったそうです。そういうことがどんどんおこっているのです。
さらに放射能の害は何かしら癌にしかならないような言い方がされていますが、これまでの調査で他のいろいろな病気を引き起こすことも分かっています。
とくにベラルーシーのゴメリ大学でバンダジェフスキーという医学博士が、チェルノブイリ原発事故の犠牲者の遺体解剖をたくさん行ったところ、恐ろしいことに心臓をはじめとしたあらゆる臓器にセシウムが入っていたそうです。
心臓に入ったセシウムは心不全を引き起こします。それで亡くなっている方が多い。僕は東北・関東にいろいろな形で関わっていますが、取材をしていると本当に、突然死の情報が入ってくることが多い。福島だけではないのですよ。
ぞわっとしたリアリティを感じたことをお話しすると、僕は三陸海岸にもボランティアに行っています。そこのある町のお寺さんで放射能の話をさせていただきました。放射線測定をすると汚染がしっかりと確認されてしまうところです。
そのとき前日に和尚さんと打ち合わせをしたのですが、和尚さんが「放射線の害はがんに現れるのですか」と聞かれるのです。それで僕が心不全による突然死の話などをすると、和尚さんがため息をつかれて「それでですか。最近、突然死のお葬式ばかり出すのです」とおっしゃったのです。
こういう話はいくらでもあげられます。あるとき川内村にいた方にお会いしたのですが、その方の知人が、最近、一週間に5回もお葬式に出られたというのです。
それで南相馬の方にお会いした時に、そのことを話したら「さすがにそんなことはない」と言われました。「それではどれぐらい?」と尋ねると、その方も初めて、今年になって出られた葬儀の数を調べてみた。そうしたら12日に1回の割合で出ていたことが分かりました。
みなさん、考えてみてください。これまで12日に1回の割合でお葬式に出たことがあったでしょうか。
あるいは僕が話をしている仙台の方は「うちの両親の悩みは、最近、喪服をしまう暇がないことだ」と言われました。
これらの一つ一つの死について、僕もすべてが放射能のせいだとは思っていません。それこそ避難のストレスによって体を悪くされた方もいるでしょう。あるいは放射能以外の重金属の化学物質の影響もあるのではと思えます。
しかしそうした状態の中で放射能も降ってきていて、それらの複合的な要因で体を悪くされてしまったのではないでしょうか。
続く
(福島民報、2013.10.3)
http://www.minpo.jp/news/detail/2013100311278