守田です(20131009 17:00)
講演文字起こしの続きす。今回で完結です。
明日に向けて(750)福島原発事故の真の収束のために私たちは何をすべきか 下
4、広がる健康被害2
東京でもさまざまな健康被害が出ています。原発事故があったときには、たくさんの子どもたちが大量の鼻血を出しました。町田市で聞いた話ですが、5歳の男の子が「25分から30分ぐらい、水道の蛇口を全開にしたような鼻血を出した」というのです。ほかにもさまざまな報告があります。
こういう鼻血のことはあちこちで聞くのですが、京都に避難してきているお母さんからも直接、聞いたことがあります。小学生の息子さんを避難させるために京都に来られた方ですが、その方はご本人がすごく鼻血を出されたのです。営業中だったそうです。
「それでどうしたの?」と聞いたら、女子トイレに駆け込んで、便器を抱えていたそうです。ティッシュやハンカチなどは論外。鼻血が出るだけ出るのを待ってから、携帯電話で上司に電話して、着替えを持ってきてもらって、家に帰ったといいます。
関東の話しに戻って、データで出ていることを挙げると、茨城県の取手市の小学校と中学校の子どもの集団検診で、心電図異常が前より明らかに増えていることが報告されています。2011年度と2012年度を比較すると、精密検査を要する子どもが28人から73人。2.8倍になっています。
心臓に何らかの既往症ありという診断が2010年度9人に対して、2011年度は21人、2012年度は24人。QT延長症候群といって、心室性不整脈により突然死につながるリスクありという診断が、2010年度1人に対し、2011年度2人、2012年度は24人となっています。
それ以外にどのような健康被害があるのかというと、ざっくりと言って、みなさん、免疫力が下がるからだと思うのですが、いろいろな病気が治りににくくなっています。東京の僕の友人が、「ものもらいがなかなか治らないんだよ」というのです。近畿では「めばちこ」、もっと西では「めいぼ」といいますが、それが治らないという。
それで「体の調子が悪い時は、ものもらいが治りにくいことぐらいあるんじゃない?」と言ったら「違うんだよ。もう半年も治らないんだよ」というのです。あるいは風邪にかかって、なかなか治らない。のど風が何か月も続いたという話もあります。
他によく聞くのは視力の低下です。原爆被害でも白内障になることがあることが明らかにされています。水晶体が放射線に弱いからです。そのために視力の低下が起こる。
記憶の低下を訴える方もたくさんいます。記憶をつかさどる脳の「海馬」というところが、やはり細胞分裂が激しくて、放射線に弱いからですが、そんな中で南相馬の方とお話しした時に、お医者さんが「この地域の認知症が5年進んだ」と嘆いていたと聞きました。介護を考えてもどんなに大変か分かると思います。
こういう事態から予想されることは、東北・関東の医療界の疲弊です。間違いなくそうなります。というか日本の医療はもともと疲弊していたので、それが急速に深まっていく。それを見越してどうやって支えるかを考えていかないといけない。
ところが厚生労働省の官僚の方たちは、とても頭が良いです。というより僕に言わせれば中途半端に頭が良いのですが、明らかに官僚の方たちは、僕と同じような認識を持っています。それは役人たちの打ち出す政策をみているとよく分かります。もちろんそこからやろうとしていることは、僕の考えとは真逆です。
まず生産労働人口の医療予算の確保のために、介護保険の切り縮めを始めました。これまで60分だった枠がいつの間にか45分にされてしまっています。高齢者対策を減らし、生産人口に振り向けようと言うのです。
さらに昨年、「ダウン症児の出生前診断」の新しい技術を認可しました。アメリカで開発されたもので、血液検査で高い確率で分かるというものですが、要するにその検査をして赤ちゃんがダウン症だと分かれば「おろせ」ということなのです。
今まで原発事故による放射線の被害によってダウン症児が増えることがデータで出ています。その場合どうするのか。僕は障がいを持って生まれてくる子どもたちが増えるのだったら、その子どもたちがいかにすれば幸せになるのか。みんなで腹をくくって、いかなる子どもたちも迎える社会を作るべきだと思うのでね。そもそもダウン症児を持ったお母さんと話すと「ダウン症=不幸と言うのは貧困な見方だ」とも言われます。この子たちならではの可愛さがあり、周りに幸せをくれる存在だからです。僕も実際にダウン症のお子さんと周りの人々が作る温かい輪を知っています。
ところが厚労省が考えているのは、いかにして「障がい者を減らすか」です。減らしていかにそこでかかる社会的予算を減らすのかを考えている。
だから実際にはこの検査を受けて陽性となったお母さんたちは「おろせ」というものすごいプレッシャーを背負うことになります。そういう形で周りからプレッシャーを受けて堕胎した女性は、多くの場合、心に傷を負って生きていかなくてはならなくなります。それに対するケアもなにもありません。
そういうことがいろいろな形で進行しています。
今、日本政府はTPPの交渉を行っていて、次々と「聖域」だと言っていた領域も差し出しつつありますが、一番、狙われているのは医療の自由化です。公的保険制度を解体して、自由診療を拡大する。お金のあるなしで受けられる医療が極端に開いていく方向に私たちの国は向かおうとしています。
その中でも一番に狙われているのは、なんと抗がん剤の自由化なのです。つまり今後、がんがもっと増えていくことを分かっているのです。その上でこの領域でのお金儲けが画策されているわけです。
5、東京オリンピック開催は不可能だ!
こうした事態の拡大をみたときに、僕は東京オリンピックの開催など、とてももう無理だと思います。なぜかというと、これからの7年間で、原発がコントロールできていないことも、深刻な健康被害が拡大していることも、とても隠せないからです。
まずはアスリートが不安になります。トップのアスリートの方たちは、とても体を大事にされていますけれど、実はあまり健康であるとは言えないのです。なぜかというと、トレーニングをやりすぎているからです。
マラソンランナーの多くは短命だとも言われています。女性選手では現役のときに生理が止まってしまう方もいます。健康を維持するレベルを超えているのですね。100メートル競走のランナーでも、スタートを失敗すると、自分の筋力で、筋肉の断裂を起こしてしまうことなどがあります。
逆に言うと、あの方たちは、何かの要因で自分の体が壊れてしまうことへの危機感を強く持っていますから、汚染地帯に行くのを非常に嫌がるのです。北京オリンピックでも、アフリカの金メダル候補のマラソンランナーが参加を拒否しました。当たり前です。大気汚染が凄いからです。
それを考えると東京オリンピックは非常に深刻です。たとえばカヌー競技があります。東京湾は今、セシウムの汚染がもの凄いのです。川が関東一円に降った放射能を集めてきてしまっているからです。それが河口にたまっています。
それらは下の方に沈んでいるので、上澄みにいる魚を採ってきてもそれほどものすごい放射線値は出ませんが、台風などでものすごい水が流れ込むと、底にたまっているものが攪拌されてしまいます。その上でカヌーなどをやるのは、選手にとって地獄の思いだと思うのです。
そういう情報はすでに世界にどんどん流れています。その意味で僕は東京オリンピックは絶対に返上した方がいいと思うし、あるい意味ではオリンピックの曲り角にきたのだとも思います。
オリンピックは今、お金儲けの手段になっています。僕が子どもの頃は、アマチュアリズムが支配していて、プロの選手は出てはいけなかったのです。それが1980年代、新自由主義の台頭とともに、オリンピックはお金儲けの象徴になってしまいました。
その一つの頂点が、拝金主義を走る中国で行われた北京オリンピックだったと思います。最近、中国では次のオリンピックにでるための「中国の五輪」が行われいたのですが、大変なことになっています。お金儲け主義が選手の中に蔓延してしまってひどいことになっているのです。
例えば、レスリングでは負けそうになった側が相手にかみつきました。あるいはある競技では、判定をめぐって女子選手が殴り合いを始めたそうです。ドーピングも横行してしまっている。お金儲けのためにさもしくなってしまい、フェアプレーの精神が大きく後退してしまっている。
メダル獲得競争のための選手強化でも、体育予算の著しい不平等配分ばかりが進んでしまっているし、同時に小さいころから集められ、メダルを獲るための訓練だけをさせられた子どもたちの大半が、途中で社会に放り出されることの問題も深刻化しているそうです。
こうしたことを考えても、オリンピックの在り方そのものも問い直すべきときにあるのだと思います。その点も含めて、僕は東京オリンピック開催は不可能であるとともに、私たちの手で返上すべきものだと思います。
6、福島原発の危機にしっかりと向かい合おう
これらのことを考えて、今、私たちのなすべきことは何かというと、福島原発の現場の危機をもっともっと大きくクローズアップすることだと思います。
なぜかというと、今、現場の作業員の方たちはものすごく気の毒な状態にあるのです。作業員の方たちは現場の惨状を知っているから、朝、「じゃあ、今日も地球を守ってくっから」と言って出かけていくわけです。しかしあの方たちが地球を守ってくれていることをほとんどの人が知らないわけです。
光が当たってないわけです。そんなに苦しい現場だったら、士気も下がって当然ではないですか。しかも「なんだよ、ネズミのショートでダウンかよ」とそんなことばかりを言われて、笑われたりする。「東電はだらしない」とばかり見られてしまう。
現実には笑って済ませる状態ではないのです。ぎりぎりの状態であの方たちが現場を維持して、私たちの命を守ってくれているのです。だからそのことに全国から意識を集中していかなくてはいけない。東電幹部ではなく、現場の方たちをみんなで支えていかないといけない。
そのためには現場の方たちが持っている危機感を共有化すべきなのです。そのためにも原発災害訓練をどんどんやるべきなのです。そうやって周りで多くの方たちが避難訓練を始めたら、現場の方たちはやっと、「多くの人たちが自分たちが直面しているものは分かってくれた」という思いを持ち、現場の士気はあがると思うのですね。
僕自身は、地震を止めることはできません。当たり前ですね。誰にもできません。しかし現場の方たちの心を支えることはできると思うのですね。なので、日本中をあげて、日本を守るために、世界を守るために、この原発が危機の中にあるということをちゃんと直視してそれと向き合うことを進めるべきだと思います。
7、憲法9条でしか日本は守れない
にもかかわらず、安倍さんはこの現実とまったく向き合わず、戦争が好きで、火遊びのようなことばかりを行っています。安倍さんのような方を「タカ派の平和ボケ」というのだそうです。軍事アナリストの方が言っていて知りました。
平和ボケで来てしまったから軍事的リアリティを持っていない。戦争においては、敵を減らして、味方を増やすことが常道であるのに、彼は敵ばかり増やしているからです。
しかしそもそも日本はもう戦争などできる国ではありません。なぜか。日本政府は、北朝鮮をはじめ諸外国を本当は信頼したから、日本の海岸中に原発を作ってしまったわけです。54基もあります。これを攻撃されたらひとたまりもない。こんなもの、とても守り切れないですよ。
しかも福島原発事故で、あんなに簡単に壊れることが分かってしまった。原子炉を壊さなくても、燃料プールを壊せば終わりなのですよ。そのことを考えるならば、僕は軍事的リアリティからいって憲法9条を維持することがもっとも大事だと思います。これ以外で、日本の安全は守れっこないですよ。
そういうことも含めて、この原発の危機的状況をみなさんで共有していきましょう。共有することはしんどいことですが、いったん、この危機をちゃんと見据えて、みんなで立ち向かっていく意志を作ることができれば、私たちの安全を、したがって幸せを守る可能性を一番広げることができると僕は思うのです。
そのために僕もこれからも努力していきたいと思います。どうもありがとうございました。
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