守田です。(20111026 22:30)
放射能除染・回復プロジェクトに参加したご報告の2回目です。その前に僕が
ここで何を書こうとしているのか、伝えたい核心は何かを整理しておきたいと
思います。明日に向けて(302)でも書きましたが、福島市の放射線値は、小学
生の通学路のようなところですら大変、高いです。5μS/hという値がすぐに
計測されました。おそらく市内にはもっと高い値を示すところが多数あるはず
です。
この状態からは避難が必要ですが、必ずしも全員が避難できないので、少しで
も放射線値を減らすための除染が必要です。緊急回避のための除染で、それが
行われれば、安心して暮らせるというものではありません。しかしそこに自分で
移動できる手段のない子どもたちがいる限り、また経済的にもその他の理由でも
とても移動できない大人がいる限り、少しでも被曝を減らさねばならない。
このことを踏まえた上で、しかしお伝えしなければならないのは、除染は非常に
難しいということです。根拠の一つに広域汚染の中の除染に対し、人類はその
経験を余りに少ししか持っていないことがあります。とくに日本では除染の経験
があるのは、部分汚染に対するものだけです。例えば机の上に放射性物質が漏れ
た、あるいは原子炉格納容器から少し外に漏れた、などに対する対応の経験です。
ところが今回は野山が、草原が、道路が、川(土手)が、汚染されてしまって
います。したがって、一か所を除染しても、すぐにまた近くから放射能が移動
してきてしまう。風で運ばれたり、雨水に混じって流れてきてしまう。その
ために除染が非常に難しいことが第一に押さえられる必要があります。あまり
に除染対象が広範囲なのです。
続いて今回、1日目に実際に試みた屋根の上での除染についてお伝えします。
すでにお話したように、僕が参加した除染プロジェクトは、行政の高圧浄水方式
に極めて批判的です。それでは放射能を移動させたことにしかならず、除染に
ならないからです。むしろ内部被曝の可能性を作りだすばかり。効果がない
ことに加えて、作業者や住民の被曝の危険性を作りだすのですから最悪です。
ではどうしてたらいいのか。除染プロジェクトが考案してきたのは、ノリで固め、
はがして取って捨てる方式です。しかも洗濯ノリに使われている安価な素材を使
い、それを汚染カ所に塗布し、その上から紙を張って、乾いたら紙ごと取るとい
うものです。今回は、さらに新しい試みとして、壁紙が採用されることになりま
した。そのために京都からあるメーカーさんも参加。実際に糊を塗り、壁紙を
屋根に貼りました。
このうち僕が1日目に担ったのは除染する家屋の各部屋内の放射線値の計測と、
屋根の上での計測でした。場所は福島市中心部から南東に30分ほど車で向かっ
た地域のあるお宅です。飯舘村にも近いところです。ここにFさんと僕と、静
岡から参加されたSさんで向かいました。まずはお宅の中に入らせていただい
て、部屋の中の放射線値をこまめに測りました。屋根に近い高めのところで、
僕のRADEXを用いて0.82μS/hという値が出ていました。後により信頼性の高い
堀場製作所の計測器と並べて測ったところ、僕の持参したRADEX RD1503・2台は、
双方とも、2割ぐらい低めの値が出ていたので、実際の値は1μS/hに近いと思わ
れます。
続いて屋根に上がりましたが、これが一苦労。平屋1階建てでしたが、やはり危険
な高さです。高所作業に手なれたFさんはひょうひょいと上がって行きましたが、
僕はFさんが持参したロープを、屋根を横断して張り、登山用のハーネス(安全
ベルト)を腰にまき、カラビナにシュリンゲ(テープ)を通して、その先に
ユマール(登高器、ザイルにつけると上には動くが下には動かない)をつけて
屋根の上に。
その状態で、屋根の上をゆっくり移動しながら何か所も計測しました。このとき
に使ったのは、福島大学の方が借り出してくれた表面汚染計測器。銀色の金属で
できた特大のハンコのような検知器が、本体からコードでつながっているもので、
重いし、高価な機械です。これを手にゆっくりと屋根中に移動して計測しました。
そうすると、だんだんと汚染の傾向が見えてくる。まず汚染値は屋根の傾斜に沿
って、高くなっていることが分かりました。屋根が外に張り出した方、場所的に
は近づきにくい所の方が値が高いのです。さらに何度も計測するうちにより高い
ところ、屋根上の、マイクロホットスポットと呼べるところがあるのが分かって
きました。どこかというと瓦の重なりあう部分です。
二枚の瓦が上から下へと並んで、一部が重なっている姿を想像して下さい。その
上の方から雨水が垂れてくる。そうすると雨水は一枚目の瓦の下の端に溜まり、
そこから瓦の厚みの部分を伝わって、次の瓦に垂直方向に落ちていきます。この
落ちる前と落ちる断面(瓦の厚み)の部分が線量が非常に高いのです。さらに落
ちた水は瓦に沿って下に流れるだけでなく、一部は瓦が重なった隙間に毛細管
現象で入り込んでいく。瓦の内側に入ってしまうのです。
ここに溜まるのだから、当然、上からの放水では押し流されない。そのため雨で
ももはやそれほど流されない。この屋根上のマイクロホットスポットは目視する
ことができます。水あかが溜まっている部分で、そこに放射能が含まれているか
らです。黒ずんで見えるところ、流れてきた泥が乾いて付着しているところです。
これはどうやれば取れるのだろうか。
今回は二日目に、業者の方を交えて再び屋根の上に登り、問題の個所の一部に試験
的に糊を塗布し、用意したシートを貼って作業を終え、3日目に糊が乾いたことを
確認してはがしてみる予定だったのですが、残念なことに3日目に雨が降ったため
作業を中止せざるをえず、糊によるはがしの効果を実測できていません。そのため
はがしの効果はまだ分からないのですが、そもそもこの方法では、瓦の重なりの
部分の放射能は取れません。これには他の対処がいることになる。ブラシなどで掻
きださないといけないかもしれない。しかしこの作業は粉塵として放射能の入った
泥を掻きだすのですから、非常に危険です。
これに対して行政の高圧洗浄では、一部、下から水を当てていることもあるようで
すが、これをやると瓦屋根の構造上、瓦が持ち上がって、中に水が入ってしまう。
事実それで水漏れが出ているそうですが、これはもう本当に最悪です。瓦の隙間に
付着した放射能を、わざわざ水で屋内に押し込んでしまうからです。これでは除染
ではなく、汚染です。水漏れした水滴が屋内に入り、防護体制を取っていない住人
にあたれば、内部被曝につながる危険性がある。下から水をあてることの危険性を
強調しておきたいと思います。
このような状態ではどのような除染が考えられるでしょうか。除染プロジェクトと
しての見解としてまとまっているわけではないですが、僕の実感では屋根の葺き替
えをし、下ろした瓦をその場で除染して再利用するのが最も合理的ではないかと思
えます。高所作業で、瓦の間に入った汚染物質を掻きだすのは、技術的にも難しい
とともに、被曝と転落という2種類の危険性にさらされるからです。しかも相当に時
間もかかると思われます。
しかし被災地の全ての家でそれをするとなると、膨大な社会的コストがかかってしま
う。いやコストだけでなく、そもそも大震災後、瓦の修復作業そのものが、圧倒的に
需要過多、供給不足で、何カ月も待たなければならない状態にある。職人さんの数が
全く不足しているのです。これに加えて、放射線防護という特殊な訓練を施した上で
の作業となると、いったい、どれだけの時間とコストがかかるのだろうか・・・。
プロジェクトの山田國廣さんが考えているのは、新たに業者が開発した、高圧洗浄と
バキュームをセットにした洗浄器の利用です。消防車のような2台のポンプ車とセット
でやってくるものだそうですが、洗浄した水をその場で吸い取ってしまうのです。歯
医者さんで使われている「バキューム」を巨大化したものと、洗浄器が一体化したよ
うなものです。これは有効かもしれません。しかしそれでも瓦の重なり部分をどうす
るかという課題は残る。
ともあれプロジェクトとしては、今回の成果は、屋根の洗浄の課題を見つけたにとどま
りました。このことで、高圧洗浄方式の限界と誤りを、よりリアルにつかみましたが、
しかしオルタナティブを進められたわけではない。ここをどう突破するのか、つまり
より被曝の可能性が少なく、高所作業の危険性がなく、なおかつ、時間とお金がかから
ない方法な何か、考案していかなくてはなりません。
課題はあまりに大きい。
こうした試みは、あるいはドンキホーテのようなものかもしれません。しかしこの紆
余曲折が、未来の知恵、人々の幸せにつながると信じたいです・・・。
放射能除染・回復プロジェクトに参加したご報告の2回目です。その前に僕が
ここで何を書こうとしているのか、伝えたい核心は何かを整理しておきたいと
思います。明日に向けて(302)でも書きましたが、福島市の放射線値は、小学
生の通学路のようなところですら大変、高いです。5μS/hという値がすぐに
計測されました。おそらく市内にはもっと高い値を示すところが多数あるはず
です。
この状態からは避難が必要ですが、必ずしも全員が避難できないので、少しで
も放射線値を減らすための除染が必要です。緊急回避のための除染で、それが
行われれば、安心して暮らせるというものではありません。しかしそこに自分で
移動できる手段のない子どもたちがいる限り、また経済的にもその他の理由でも
とても移動できない大人がいる限り、少しでも被曝を減らさねばならない。
このことを踏まえた上で、しかしお伝えしなければならないのは、除染は非常に
難しいということです。根拠の一つに広域汚染の中の除染に対し、人類はその
経験を余りに少ししか持っていないことがあります。とくに日本では除染の経験
があるのは、部分汚染に対するものだけです。例えば机の上に放射性物質が漏れ
た、あるいは原子炉格納容器から少し外に漏れた、などに対する対応の経験です。
ところが今回は野山が、草原が、道路が、川(土手)が、汚染されてしまって
います。したがって、一か所を除染しても、すぐにまた近くから放射能が移動
してきてしまう。風で運ばれたり、雨水に混じって流れてきてしまう。その
ために除染が非常に難しいことが第一に押さえられる必要があります。あまり
に除染対象が広範囲なのです。
続いて今回、1日目に実際に試みた屋根の上での除染についてお伝えします。
すでにお話したように、僕が参加した除染プロジェクトは、行政の高圧浄水方式
に極めて批判的です。それでは放射能を移動させたことにしかならず、除染に
ならないからです。むしろ内部被曝の可能性を作りだすばかり。効果がない
ことに加えて、作業者や住民の被曝の危険性を作りだすのですから最悪です。
ではどうしてたらいいのか。除染プロジェクトが考案してきたのは、ノリで固め、
はがして取って捨てる方式です。しかも洗濯ノリに使われている安価な素材を使
い、それを汚染カ所に塗布し、その上から紙を張って、乾いたら紙ごと取るとい
うものです。今回は、さらに新しい試みとして、壁紙が採用されることになりま
した。そのために京都からあるメーカーさんも参加。実際に糊を塗り、壁紙を
屋根に貼りました。
このうち僕が1日目に担ったのは除染する家屋の各部屋内の放射線値の計測と、
屋根の上での計測でした。場所は福島市中心部から南東に30分ほど車で向かっ
た地域のあるお宅です。飯舘村にも近いところです。ここにFさんと僕と、静
岡から参加されたSさんで向かいました。まずはお宅の中に入らせていただい
て、部屋の中の放射線値をこまめに測りました。屋根に近い高めのところで、
僕のRADEXを用いて0.82μS/hという値が出ていました。後により信頼性の高い
堀場製作所の計測器と並べて測ったところ、僕の持参したRADEX RD1503・2台は、
双方とも、2割ぐらい低めの値が出ていたので、実際の値は1μS/hに近いと思わ
れます。
続いて屋根に上がりましたが、これが一苦労。平屋1階建てでしたが、やはり危険
な高さです。高所作業に手なれたFさんはひょうひょいと上がって行きましたが、
僕はFさんが持参したロープを、屋根を横断して張り、登山用のハーネス(安全
ベルト)を腰にまき、カラビナにシュリンゲ(テープ)を通して、その先に
ユマール(登高器、ザイルにつけると上には動くが下には動かない)をつけて
屋根の上に。
その状態で、屋根の上をゆっくり移動しながら何か所も計測しました。このとき
に使ったのは、福島大学の方が借り出してくれた表面汚染計測器。銀色の金属で
できた特大のハンコのような検知器が、本体からコードでつながっているもので、
重いし、高価な機械です。これを手にゆっくりと屋根中に移動して計測しました。
そうすると、だんだんと汚染の傾向が見えてくる。まず汚染値は屋根の傾斜に沿
って、高くなっていることが分かりました。屋根が外に張り出した方、場所的に
は近づきにくい所の方が値が高いのです。さらに何度も計測するうちにより高い
ところ、屋根上の、マイクロホットスポットと呼べるところがあるのが分かって
きました。どこかというと瓦の重なりあう部分です。
二枚の瓦が上から下へと並んで、一部が重なっている姿を想像して下さい。その
上の方から雨水が垂れてくる。そうすると雨水は一枚目の瓦の下の端に溜まり、
そこから瓦の厚みの部分を伝わって、次の瓦に垂直方向に落ちていきます。この
落ちる前と落ちる断面(瓦の厚み)の部分が線量が非常に高いのです。さらに落
ちた水は瓦に沿って下に流れるだけでなく、一部は瓦が重なった隙間に毛細管
現象で入り込んでいく。瓦の内側に入ってしまうのです。
ここに溜まるのだから、当然、上からの放水では押し流されない。そのため雨で
ももはやそれほど流されない。この屋根上のマイクロホットスポットは目視する
ことができます。水あかが溜まっている部分で、そこに放射能が含まれているか
らです。黒ずんで見えるところ、流れてきた泥が乾いて付着しているところです。
これはどうやれば取れるのだろうか。
今回は二日目に、業者の方を交えて再び屋根の上に登り、問題の個所の一部に試験
的に糊を塗布し、用意したシートを貼って作業を終え、3日目に糊が乾いたことを
確認してはがしてみる予定だったのですが、残念なことに3日目に雨が降ったため
作業を中止せざるをえず、糊によるはがしの効果を実測できていません。そのため
はがしの効果はまだ分からないのですが、そもそもこの方法では、瓦の重なりの
部分の放射能は取れません。これには他の対処がいることになる。ブラシなどで掻
きださないといけないかもしれない。しかしこの作業は粉塵として放射能の入った
泥を掻きだすのですから、非常に危険です。
これに対して行政の高圧洗浄では、一部、下から水を当てていることもあるようで
すが、これをやると瓦屋根の構造上、瓦が持ち上がって、中に水が入ってしまう。
事実それで水漏れが出ているそうですが、これはもう本当に最悪です。瓦の隙間に
付着した放射能を、わざわざ水で屋内に押し込んでしまうからです。これでは除染
ではなく、汚染です。水漏れした水滴が屋内に入り、防護体制を取っていない住人
にあたれば、内部被曝につながる危険性がある。下から水をあてることの危険性を
強調しておきたいと思います。
このような状態ではどのような除染が考えられるでしょうか。除染プロジェクトと
しての見解としてまとまっているわけではないですが、僕の実感では屋根の葺き替
えをし、下ろした瓦をその場で除染して再利用するのが最も合理的ではないかと思
えます。高所作業で、瓦の間に入った汚染物質を掻きだすのは、技術的にも難しい
とともに、被曝と転落という2種類の危険性にさらされるからです。しかも相当に時
間もかかると思われます。
しかし被災地の全ての家でそれをするとなると、膨大な社会的コストがかかってしま
う。いやコストだけでなく、そもそも大震災後、瓦の修復作業そのものが、圧倒的に
需要過多、供給不足で、何カ月も待たなければならない状態にある。職人さんの数が
全く不足しているのです。これに加えて、放射線防護という特殊な訓練を施した上で
の作業となると、いったい、どれだけの時間とコストがかかるのだろうか・・・。
プロジェクトの山田國廣さんが考えているのは、新たに業者が開発した、高圧洗浄と
バキュームをセットにした洗浄器の利用です。消防車のような2台のポンプ車とセット
でやってくるものだそうですが、洗浄した水をその場で吸い取ってしまうのです。歯
医者さんで使われている「バキューム」を巨大化したものと、洗浄器が一体化したよ
うなものです。これは有効かもしれません。しかしそれでも瓦の重なり部分をどうす
るかという課題は残る。
ともあれプロジェクトとしては、今回の成果は、屋根の洗浄の課題を見つけたにとどま
りました。このことで、高圧洗浄方式の限界と誤りを、よりリアルにつかみましたが、
しかしオルタナティブを進められたわけではない。ここをどう突破するのか、つまり
より被曝の可能性が少なく、高所作業の危険性がなく、なおかつ、時間とお金がかから
ない方法な何か、考案していかなくてはなりません。
課題はあまりに大きい。
こうした試みは、あるいはドンキホーテのようなものかもしれません。しかしこの紆
余曲折が、未来の知恵、人々の幸せにつながると信じたいです・・・。
自力で移動できない子供が住んでいる
大人の都合で、用意すれば出来るのに、汚染された物を食べている子供がいる・・・
毎日、心が痛みます
今週末からは座り込みに参加する予定です
少しでも、無関心な大人の意識が高まりますように
いつもコメントありがとうございます。
座り込み、素晴らしいですね。どうか頑張ってください。心から応援しています!
私は、労働組合で活動しておりそれで手一杯ですが、組合活動の現場でも、被曝労働相談をどうするか、行政交渉にどのような内容を盛り込むか、などこれまでの組合運動の脱原発運動への取り組みの甘さを自己批判しつつ、今回のまったなしの課題を考えようとしています。
無理せず、着実にがんばっていきましょう。
福島を考えると気が遠くなりそうです。
守田さま、みなさまの志の高さにただただあたたかい気持ちになります。私もできることをしていきたいです。