明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(93) どうして放射線の害は子どもにより大きく出るのか

2011年05月04日 14時30分00秒 | 明日に向けて5月1日~31日
守田です。(20110504 14:30)

福島県下の幼稚園、小中学校等々が、高い放射線が飛び交っているにも
かかわらず、開校されています。笑顔の子どもたちが被ばくしており、一刻も
早く助け出したいです。

こうしたことから子どもたちを守っていくために、ここで、どうして放射線の害は、
子どもにより大きく出るのか。子どもが受ける放射線量を、同じものを浴びた
大人の3倍から10倍と捉えるのはなぜかということをまとめておきたいと
思います。


まず確認したいのは、次の点です。細胞の放射線感受性には、①細胞が
未分化なものほど、②細胞分裂が盛んなものほど高いといえることです。

この内容を説明します。
私たちの生命は、精子と卵子が出会って受精卵ができることから始まります。
受精卵は次々と細胞分裂を経て増えていきますが、次第に細胞分化という
変化を起こします。分化とは、細胞がある役割を担うものに変化することです。

例えば、筋肉になる細胞は、その役割を果たすために、それに見合った機能や
形になっていく必要がある。こうして筋肉になることを、「筋肉の細胞に分化
した」と呼びます。

この場合、似たような臓器や組織は、ある一つの細胞から生まれてくることが
多い。このあるひと固まりの集団のもとになる細胞を「幹細胞」といいます。

例えば血液には、赤血球、白血球、血小板などがありますが、これらは同じ
幹細胞から生まれてくる。血を造る細胞ですので、これは造血幹細胞と
言われます。

幹細胞には二つの特徴があります。自己複製能力を持っていることと、異なる
細胞に分化する能力を持っていることです。このため幹細胞は、自分で自分を
複製しながら、一方で、さまざまな役割を持つ細胞にも分化していくのです。
このことで私たちには非常にたくさんの機能が備わっていくわけです。

ところがここが放射線によって回復不能なダメージを受けるとどうなるでしょうか。
例えば造血幹細胞では、造血作用が壊されて、血液のがんである白血病が
発症したり、造血幹細胞がつまっている骨髄のがんである、多発性骨髄種などが
発症します。

同じように、他の幹細胞がダメージを受けると、その細胞がつかさどっている
細胞分化に支障がでる。細胞分化がうまくいかず、多くの場合、その部分での
ガンなどが発症しやすくなります。

胎児の場合はもちろん、子どもの場合もまだまだ細胞分裂だけでなく、細胞
分化も激しく起こっており、それが「細胞が未分化」という意味になりますが、
そのため当然にも放射線の影響を受けやすいわけです。分化の元が
ダメージを受けてしまうからです。


一方、私たちの体内では細胞分裂が繰り返し起こっていますが、これも
より年齢が小さいほど盛んです。細胞分裂では、細胞の核の中にある染色体が
まず二倍になり、二つに分かれ、やがて細胞そのものが二つになっていくと
いう過程を経ます。

ところが放射線は染色体の中にあるDNAを傷つけてしまうのです。DNAが
そのままの状態で分裂が行われると、正しい分裂ができずに、間違った
分裂がおこり、細胞が死んでしまったり、ガン細胞に変わったりします。

このため細胞分裂が活発に行われているときほど、DNAの損傷のダメージは
大きくなります。

一方で細胞には、活発に分裂を繰り返していくものと、それほど分裂を
しないものがあります。例えば皮膚では基底細胞が、毛根では毛母細胞が、
腸では腺か(せんか)細胞が、骨髄では骨髄細胞が盛んに細胞分裂します。

また血管、肺、肝臓の細胞のようにゆっくり細胞分裂しているものや、神経
細胞のようにあまり分裂しないものもあります。そのため、神経細胞や筋肉
細胞に比べて初めにあげた細胞の方が、放射線に対する感受性が高くなります。

このように細胞によっても放射線の感受性は違いますが、いずれにせよ、
子どもは細胞分裂が活発であるため、大人より感受性が高く、放射線の
害を受けやすいことがポイントです。


ここから被ばく量について考える場合、同じ量でも子どもの方がよりダメージ
を受けることを考え、子どもの場合はより数値を大きく見積もることが必要です。
概ね3倍から10倍と考えられています。

放射線の感受性は、性差や個人差もあります。女性の方が感受性が高く、また
個人で感受性が高い人もいます。この点も考慮されなければなりません。
放射線の感受性は測ることが難しいので、ある一定の量の放射線により、平均
した値よりもより強いダメージを受ける人がいることにも配慮する必要があります。

ただし子どもの方が、感受性が高いからといって、大人が影響を受けないのでは
まったくありません。放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みをおさえるための
ヨード剤の服用が、40歳以上では必要ないとされていることから、高齢者への
放射線への影響はあたかもないような誤解もありますが、そうではありません。

これまで述べてきたように、私たちが生きている限り、私たちの体内では
新しく血液が作られたり、活発な細胞分裂も行われているのであり、放射線による
ダメージは、当然、大人であっても受けるのです。
それらから放射線被ばくはできる限り避けるにこしたことはないことを
知る必要があります。


まとめます。
子どもは大人よりも、細胞分化も細胞分裂も活発に行っています。
だからこそ、放射線のダメージを大人より激しく受けてしまうのです。

福島の学校では、年間の被ばく許容量が20ミリシーベルトとされてしまって
いますが、3倍から10倍で見積もった場合、60ミリシーベルトから200ミリ
シーベルトの被ばくに該当します。

放射線に関連する仕事に従事する人々が、やむを得ないものとしてがまん
しなさいとされているのが年間50ミリシーベルトであり、しかも5年間の総計で
100ミリシーベルト以上浴びることは許されていません。

そもそも放射線管理区域は、3カ月で1.3ミリシーベルト以上の被ばくをする
地域のことを指しており、そこでは飲食も眠ることも禁止されています。
子どもを連れ込むことももちろんご法度です。

これらから20ミリシーベルトを許容値にするのは子どもに対する暴力で
あり、ただちに止めさせる必要があることは明らかです。
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