昼どきを過ぎて一時間、富士商会へ訪れる者は相変わらずいない。バラで売ってくれないかという申し出はあるものの、頑として武蔵は頭を横に振るだけだ。そしてその武蔵が突然に出かけてしまった。 . . . 本文を読む
この物語りは、わたしのライフワーク作品です。ほぼ5年ぶりの再開となります。
何度かの中断を繰り返して、2015年12月23日を最後に長い中断に入っています。
まずいことに、わたし自身がその筋立てを忘れかけてきています。
で、新しい物語りとして始めたいと思います。 . . . 本文を読む
ほとんど90度に近い最敬礼をした後に、指示されたソファに座り込んだ。背筋は伸ばしたままで、両手も膝で揃えた。どんな仕草で難癖をつけられるかもしれない、と生きた心地のしない五平だった。それに対し、武蔵も背筋こそ伸ばして両手も膝に揃えられてはいるが、少し口元が緩み緊張感もとれているように感じられた。 . . . 本文を読む
新橋の地で焼失を免れた木造の商家を前にして、ガクガクとした体の震えを抑えきれない五平だった。
隣に立つ武蔵からもピリピリとした緊張感が伝わってくる。
奥歯をぐっと噛みしめて握りしめられた拳が、心なしか震えている。 . . . 本文を読む