人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

METライブビューイングでプッチーニ「つばめ」を観る ~ エンジェル・ブルー、ジョナサン・テテルマン、エミリー・ポゴレルツ、ベクゾット・ダブロノフにブラボー!

2024年06月02日 00時05分26秒 | 日記

2日(日)。わが家に来てから今日で3428日目を迎え、元不倫相手への「口止め料」を巡って有罪判決を受けたトランプ前大統領は5月31日、「不正な裁判だ。我々は控訴する」との意向を明言したが、評決後に集まった小口現金は3480万ドル(約54億円)にのぼり、トランプ陣営としての1日の記録を更新した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     敗訴しても金集めをする 商魂逞しさは見上げたものだが 裁判費用に消えゆく運命!

 

         

昨日、新宿ピカデリーでMETライブビューイング、プッチーニ「つばめ」を観ました これは今年4月20日に米ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたオペラのライブ録画映像です 出演はマグダ=エンジェル・ブルー、ルッジェーロ=ジョナサン・テテルマン、リゼット=エミリー・ポゴレルツ、プル二エ=ベクゾット・ダブロノフ。管弦楽=メトロポリタン歌劇場管弦楽団、指揮=スペランツァ・スカップッチ、演出=二コラ・ジョエルです

     

「つばめ」はジャコモ・プッチーニ(1858-1924)がジュゼッペ・アダ―ミの台本により1913年から16年にかけて作曲した全3幕から成るオペラ(抒情喜劇)です 本作はウィーンの劇場からオペレッタの作曲を依頼されたことから手掛けられましたが、曲の完成間近になって第一次世界大戦が勃発し、オーストリアがイタリアの敵国になったため、初演は1917年3月に中立国モナコのモンテカルロ劇場で行われ、大成功を収めました

金持ちの銀行家ランバルドに囲われている高級娼婦のマグダは、ランバルドの友人の息子ルッジェーロと恋に落ち、ランバルドに別れを告げる コート・ダジュールで愛の生活を送る二人の元に、ルッジェーロの母から、マグダとの結婚を喜ぶ手紙が届く ルッジェーロは母に、二人の結婚を許してくれるよう手紙を送っていたのだ ルッジェーロは喜び、マグダに手紙を見せるが、自分の過去を悔やむマグダはためらう 彼女はルッジェーロに高級娼婦だったことを告白し、「あなたの家には入れない」と告げランバルドの元に戻っていくのだった

     

私は今回初めてこの作品を観賞しました プッチーニと言えば真っ先に「ラ・ボエーム」「トスカ」「蝶々夫人」「トゥーランドット」に代表される”泣かせるオペラ”を頭に思い浮かべますが、この「つばめ」は、それらの有名曲とは違う(誰も死なないし)、同じ高級娼婦を主人公にしたヴェルディ「椿姫」とも違う、喜劇的な要素と感傷的な要素をミックスした独特のオペラです

「つばめ」というタイトルは、第1幕でヒロインのマグダの手相を見ていた詩人プル二エが「貴女は恋に落ちて つばめのように海を渡り、恋が終わって 再びつばめのように舞い戻る」と予言する場面から取られています

マグダ役のエンジェル・ブルーは1984年カリフォルニア州生まれのソプラノです UCLAで音楽博士号を取得。2007~2010年にロサンゼルス・オペラの若手芸術家育成プログラムに参加後、欧州で国際的キャリアをスタートさせました METライブでは「カルメン」のミカエラ役が記憶に新しいところです 第1幕冒頭のアリア「ドレッタの夢」をはじめ、声に力があり、伸びのある美しい歌唱で聴衆を魅了しました

ルッジェーロ役のジョナサン・テテルマンは1988年にチリのカストロで生まれ、養子縁組の結果、ニュージャージー州プリンストンで育ったテノールです マンハッタン音楽学校とマスネ音楽学校で学びました 2021年にはドイツ・グラモフォンと専属解約を結びました 開演前にMETのピーター・ゲルブ総裁がステージに現れ、「テテルマンは花粉症に悩まされており不調であるが、本日は出演する。ご理解ください」とアナウンスしていましたが、実際に歌い始めると、まったく不調を感じさせない張りのあるテノールを聴かせてくれました

リゼット役のエミリー・ポゴレルツはミルウォーキー出身のソプラノです フィラデルフィアのカーティス音楽院を2018年に修了。ワシントン国立オペラの「キャンディード」でデビュー 2020年からバイエルン国立歌劇場のメンバーとして活躍しています 軽やかな歌唱と俊敏な演技で、マグダの小間使いリゼットを歌い演じました

プル二エ役のベクゾット・ダブロノフはウズベキスタン出身のテノールです 2021年にドミンゴ主宰「オペラリア」で第2位を獲得しました リリカルな歌唱で演技力もありました

     

メトロポリタン歌劇場管弦楽団の指揮をとったスペランツァ・スカップッチは1973年ローマ生まれの女性指揮者です 10歳でサンタ・チェチーリア音楽院に入学し、ピアノと室内楽を学び、ジュリアード音楽院で研鑽を積みました 2022年にイタリア人女性指揮者として初めてスカラ座の指揮台に立ち、25/26シーズンから英国ロイヤル・オペラの首席客演指揮者に就任します 彼女は帝王ムーティの愛弟子で、ムーティに所縁のある東京・春・音楽祭では2018年にロッシーニ「スターバト・マーテル」を、2020年にはプッチーニ「三部作」(「外套」「修道女アンジェリカ」「ジャン二・スキッキ」)を指揮しています 今回の「つばめ」でも、歌手に寄り添いつつ、ヒロインの悩み、悦び、哀しみをオケから引き出していました

【訂正】2020年のプッチーニ「三部作」はコロナ禍の影響で中止となりました。クラシックファンさんからご指摘がありました。お詫びのうえ訂正いたします(2日14:40)。

二コラ・ジョエルによる演出は、アールデコを基調とした洒脱な雰囲気満点の舞台で、とても美しく 見応えがありました METライブビューイングでは幕間に舞台裏の様子が映し出されますが、いかに大掛かりな装置が多くの人々によって準備され、片づけられ、模様替えされていくかが分かります オペラは「総合芸術」と言われますが、陽の当たる表のステージの裏では、名もない多くのスタッフが働いているからこそ成り立っているのだとつくづく思います

     

METライブビューイング「つばめ」の上映は休憩1回、出演者へのインタビュー等を含めて2時間44分です 新宿ピカデリーでは6日(木)まで上映されます

さて、次回の「METライブビューイング2023-2024」は 今シーズン最後のオペラ、プッチーニ「蝶々夫人」です ヒロインの蝶々夫人を歌うのは、”遅すぎるMETデビュー”のアスミック・グリゴリアン 6月21日~27日の上映が待ち遠しいです

 

     

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ステファニー・チルドレス ✕ 鳥羽咲音 ✕ 読売日響でエルガー「チェロ協奏曲」、ドヴォルザーク「交響曲第9番”新世界より”」、シベリウス「フィンランディア」を聴く

2024年06月01日 00時04分32秒 | 日記

6月1日(土)。月日の流れは速いもので、今日から6月です 6月と言えばジューンブライトですね、ってそれじゃ6月の照明だよ

ということで、わが家に来てから今日で3427日目を迎え、トランプ前米大統領が自身の不倫の口止め料を不正に処理したとして罪に問われている裁判で、陪審団は30日、同氏を34件の罪状すべて有罪とする評決を全員一致で下した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     米国に良心が残っていることが証明されたが 恥知らずのトランプは大統領選に出る

 

         

昨日、夕食に「鶏の山賊焼き」「生野菜とアボカドのサラダ」「ブナピーの味噌汁」を作りました 前回は豚肉で山賊焼きを作ったので、今回は鶏肉にしました 鶏肉は揚げ焼きにしてありますが、すごく美味しかったです

     

         

昨夜、サントリーホールで読売日響「第672回名曲シリーズ」を聴きました プログラムは①シベリウス:交響詩「フィンランディア 作品26」、②エルガー「チェロ協奏曲 ホ短調 作品85」、③ドヴォルザーク「交響曲第9番 ホ短調 ”新世界より” 作品95」です 演奏は②のチェロ独奏は鳥羽咲音、指揮はステファニー・チルドレスです

ステファニー・チルドレスは1999年ロンドン生まれ、25歳の女性指揮者 幼少期からヴァイオリンを始め、セント・ジョンズ・カレッジ(ケンブリッジ大学)で音楽を専攻し、指揮者としての活動を開始、2020年にパリで開催されたコンクール「ラ・マエストラ」で第2位を受賞し脚光を浴びる それ以降、世界各地のオーケストラに客演している 2024/25シーズンからバルセロナ響の首席客演指揮者に就任する

     

オケは14型で、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスといういつもの読響の並び。コンマスは元神奈川フィル・コンマスの﨑谷直人、その隣は長原幸太というダブルトップ態勢を敷きます

1曲目はシベリウス:交響詩「フィンランディア 作品26」です この曲はジャン・シベリウス(1865-1957)が1899年に作曲、同年11月4日にヘルシンキで初演され、その後1900年に改訂、同年7月2日にヘルシンキで改訂初演されました なお、この曲は当初、1899年に上演された歴史劇の最後のシーン「フィンランドは目覚める」の付随音楽として発表されましたが、翌1900年にパリ万国博覧会に招かれたヘルシンキ・フィルのために、単独の交響詩に改訂されました

拍手の中、ステファニー・チルドレスが登場し指揮台に上がりますが、ショートヘアでスマートな体型の彼女は、見るからにクイーンズ・イングリッシュを話すクレバーなイギリス人女性というイメージがぴったりです

チルドレスの指揮で演奏に入りますが、ゆったりしたテンポで金管楽器を重量感たっぷりに歌わせます。そうかと思うと速いテンポに移ると一気にアクセルを踏んで、オケを煽り立てます ダイナミクスが明確で、見通しの良い演奏が繰り広げられます 読響のゴージャスなサウンドが生かされた爽快な演奏でした

2曲目はエルガー「チェロ協奏曲 ホ短調 作品85」です この曲はエドワード・エルガー(1857ー1934)が1919年に作曲、同年ロンドンで初演されました 第1楽章「アダージョ ~ モデラート」、第2楽章「レント ~ アレグロ・モルト」、第3楽章「アダージョ」、第4楽章「アレグロ ~ モデラート ~ アレグロ・マ・ノン・トロッポ」の4楽章から成ります

チェロ独奏の鳥羽咲音(とば さくら)は2005年ウィーン生まれの19歳。6歳から毛利伯郎に師事。国内外のコンクールで優勝・入賞を重ね脚光を浴びる 23年8月には読響サマーフェスティバル「三大協奏曲」に出演し絶賛される 22年からベルリン芸術大学でJ・P・マインツに師事

ソリストの鳥羽が 白を基調とした小さな花柄模様の華やかな衣装で登場、チルドレスの指揮で第1楽章の演奏に入ります   鳥羽の演奏を聴いて思うのは、研ぎ澄まされた弱音による抒情的な演奏が並外れて素晴らしいということです    第1楽章冒頭や第3楽章「アダージョ」においてその特徴がよく表れていました   一方、速いパッセージでは技巧を凝らして鮮やかに弾き、どこまでも気品のある演奏を展開しました

満場の拍手に鳥羽は、富岡廉太郎率いるチェロ・アンサンブルをバックに、まるでエリック・サティがタイトルを付けそうな、ドヴォルザーク「私にかまわないで」をチャーミングに演奏、再び大きな拍手に包まれました

昨年の「読響三大協奏曲」でドヴォルザーク「チェロ協奏曲」を弾いた時にも思いましたが、鳥羽は若手屈指の逸材で、将来が楽しみです

     

なお、音楽ライターの飯尾洋一氏が「プログラム・ノート」に次のように書いています

「この曲の初演はオーケストラの練習不足により失敗に終わったが、その時チェロ奏者として参加していたジョン・バルビローリはその後指揮者に転向し、1965年にジャクリーヌ・デュ・プレの独奏でロンドン交響楽団を指揮して同曲を録音した この録音がセンセーショナルな成功を収めたことで作品の真価が広く知れ渡ることになった

その録音が下の写真のCDに収録されています 1965年8月19日の録音です

     

プログラム後半はドヴォルザーク「交響曲第9番 ホ短調 ”新世界より” 作品95」です    この曲はアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)がニューヨークの私立ナショナル音楽院の院長としてアメリカ滞在中の1893年に作曲、同年ニューヨークで初演されました  第1楽章「アダージョ ~ アレグロ・モルト」、第2楽章「ラルゴ」、第3楽章「スケルツォ:モルト・ヴィヴァーチェ」、第4楽章「アレグロ・コン・フォーコ」の4楽章から成ります

この曲においても、チルドレスの指揮はダイナミクスが明快で、緩急強弱自在の指揮ぶりを発揮します 第2楽章「ラルゴ」では、予想通りイングリッシュホルンで「家路」のテーマを吹いた北村貴子が、”いいところ”を全部かっさらっていきました この楽章最後の弦楽トップによる八重奏はしみじみと素晴らしい演奏でした 第3楽章も第4楽章もかなり速いテンポですっ飛ばし爽快な演奏を展開しますが、第4楽章冒頭は、どうしても”鉄道オタク”ドヴォルザークの”ドヤ顔”を思い浮かべます どう聴いたって あの冒頭の音楽は、機関車が発車する時の推進力を表しています

満場の拍手とブラボーが飛び交う中、カーテンコールが繰り返されました この日も事前にレセプショニストに、カーテンコール時のスマホによる写真撮影がOKであることを確かめておいたので 写メしました 写メしながら、チルドレスも鳥羽咲音と同じようにまだ若いし、将来が楽しみだと思いました

     

     

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新国立オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」初日公演を観る ~ セレーナ・ガンベロー二、ダニエラ・ピー二、ホエル・プリエト、大西宇宙、九嶋香奈枝にブラボー!

2024年05月31日 01時37分51秒 | 日記

31日(金)。月末を迎えたので、恒例により5月の3つの目標の実績をご報告します ①クラシック・コンサート=19回、②映画鑑賞=12本、読書=9冊でした ただし、②はNetflixで観た「ミッション・インポシブル:デッド・レコニング」と「三体」(全8話)を含みます。①は5月の3連休の「ラ・フォル・ジュルネ音楽祭」(6公演)が大きな割合を占めました

ということで、わが家に来てから今日で3426日目を迎えビートルズのジョン・レノンが1960年代に使用した12弦のアコースティックギターが、米ニューヨークで29日競売にかけられ、285万7500ドル(約4億5千万円)で落札された  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     落札した気持ちは?  抱きしめたい!  誰のために演奏したい? From me to you

 

         

昨日、夕食に「青椒肉絲」「生野菜とアボカドのサラダ」「舞茸の味噌汁」を作りました 青椒肉絲を作ったのは、先日のカレー用の牛肉が余ったので早めに使おうと思ったからです

     

         

昨夜、新国立劇場「オペラパレス」でモーツアルト「コジ・ファン・トゥッテ」初日公演を観ました 出演はフィオルディリージ=セレーナ・ガンベロー二、ドラべッラ=ダニエラ・ピー二、フェルランド=ホエル・プリエト、グリエルモ=大西宇宙、デスピーナ=九嶋香奈枝、ドン・アルフォンソ=フィリッポ・モラーチェ。合唱=新国立劇場合唱団、管弦楽=東京フィル、指揮=飯森範親、演出=ダミアーノ・ミキエレットです

     

「コジ・ファン・トゥッテ、または恋人たちの学校」はウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)がダ・ポンテの台本により1789年から90年にかけて作曲し、1790年にウィーンのブルク劇場で初演された全2幕から成るオペラ・ブッファです

青年士官のグリエルモとフェルランドは、美しい姉妹フィオルディリージとドラベッラとそれぞれ婚約している 2人は哲学者ドン・アルフォンソにそそのかされ、恋人の貞節について賭けをすることになる 2人は出征するフリをして偽りの別れを演じた後、外国人に変装して姉妹を口説く 最初は抵抗する姉妹だったが、次第に心が揺らぎ始め、ドラベッラがグリエルモに、さらにフィオルディリージもフェランドに口説き落とされてしまう 入れ替わった2組のカップルの結婚式が行われるところに、出征した2人の帰還が告げられる

     

私が新国立オペラの「コジ・ファン・トゥッテ」を観るのは2005年、2006年、2011年、2013年に次いで今回が5度目です また、ダミアーノ・ミキエレットによる演出で観るのは3度目です

ミキエレットによる演出は、舞台を現代のキャンプ場に置き換えています 彼の意図は、舞台を開放的なキャンプ場にすることによって、男女2組の”とりかえばや物語”にリアリティーを持たせることです 彼の演出の大きな特徴は、回転舞台を有効に使ったスピーディーな場面転換により、ストーリーの流れを途切れさせないことです 登場人物が歌っている最中に舞台が回転し、歌い終わると次の場面に移っているケースも少なくありません このため歌(ソロ、重唱)もレチタティーヴォも途切れることなく続きます まさに「ノンストップ・アンサンブル・オペラ」です

フィオルディリージ役のセレーナ・ガンベロー二はイタリア出身のソプラノです Aslicoコンクールに優勝し、ロンバルディアの「愛の妙薬」アディーナ、「ウェルテル」ソフィーでデビュー 幅広いレパートリーでイタリア各地の歌劇場や音楽祭を中心に歌っています 美しく卓越したヴォイスコントロールによって、ソロも重唱も完璧に歌い上げ、聴衆を魅了しました

ドラべッラ役のダニエラ・ピー二はイタリア出身のメゾソプラノです ボローニャ大学で音楽史を専攻し、モデナで声楽を学び、イタリアの歌劇場を中心に歌っています 深みのある魅力的な声で姉より積極的なドラベッラを歌い上げました

フェルランド役のホエル・プリエトはスペイン出身、プエルトリコ育ちのテノールです 2008年オペラリアコンクールに満場一致で優勝し、国際的に活躍しています リリカルな魅力的な歌唱により聴衆を魅了しました

グリエルモ役の大西宇宙は武蔵野音大・大学院、ジュリアード音楽院卒業のバリトンです シカゴ・リリック・オペラで研鑽を積み、50以上の公演に出演。国内外の歌劇場で活躍しています よく声が通り、演技力も十分で、世界に通用するバリトンであることを証明しました

デスピーナ役の九嶋香奈枝は東京藝大卒。新国立劇場オペラ研修所第4期修了のソプラノです 文化庁派遣在外研修員としてミラノに留学。新国立オペラ、二期会を中心に活躍しています 美しく良く通る声で、コケティッシュなデスピーナを魅力的に歌い演じました

ドン・アルフォンソ役のフィリッポ・モラーチェはナポリ出身のバリトンです サレルノ音楽院卒。イタリアの歌劇場を中心に歌っています 哲学者という雰囲気ではありませんでしたが、狂言回し役を見事に歌い演じました。第1幕の姉妹との三重唱は素晴らしかった

三重唱と言えば、このオペラはソロのアリアはもちろんのこと、二重唱、三重唱、四重唱といったアンサンブルの歌唱が素晴らしいのが大きな特徴です 歴史に残る数多くのオペラの中でアンサンブルが最も素晴らしいのはどれか?と問われたら、躊躇なく「コジ・ファン・トゥッテ」と答えます

新国立劇場合唱団は、2人の青年士官が(偽の)出征の際の合唱をはじめ、力強く素晴らしいコーラスを聴かせてくれました

飯森範親指揮東京フィルは歌手に寄り添いながら、それぞれの登場人物の心理を表すかのように雄弁に歌っていました

ミキエレットの演出で他の演出と違って面白かったのは、第2幕終盤で2組の(偽りの)結婚式を挙げたとき、デスピーナがポラロイド・カメラでそれぞれのカップルを写しますが、その写真がもとで姉妹が別の男たちと結婚式を挙げたことがバレてしまうという演出です さらに第2幕のラストは、普通の演出では本当の結婚式を挙げて「めでたしめでたし」で終わるところが、賭けで負けた青年士官の2人、罠にハマった姉妹が怒り狂ってバラバラの方向に走り去り、アルフォンソにいいように利用されたデスピーナも怒って偽の結婚証書(?)を破ってアルフォンソに投げつけて去っていく、という演出になっています つまり、アルフォンソ以外、誰もこの結末に納得していないという演出なのです これを見て私は、「男も女も みんな こうしたもの」が結論ではないか、と思いました

     

ところで、プログラム冊子(1200円)に岡田暁生氏が「作品ノート」を概要次のように書いています

「『コジ・ファン・トゥッテ』はパートナー交換の物語の集大成である ただし『コジ』のストーリーを、現実にはあり得ないロココ風のたわいないお遊びと考えてはいけない 『コジ』ではソプラノ(フィオルディリージ)とバリトン(グリエルモ)、メゾソプラノ(ドラベッラ)とテノール(フェルランド)が『もともと』カップルであることに注目しよう 通常オペラでは、テノールとソプラノが貴族のカップル、バリトンとメゾが庶民のカップルを演じるのが定石だ つまり『コジ』のカップルは、もともとねじれて身分を越境している そしてパートナーを交換することで、逆説的に通常のカップルに戻っているのだ しかし最後の最後に、元のカップルに戻ってハッピーエンドとなることで、身分のねじれもまた再び復活する・・・幾重にもひねられたアイロニーだ

「なるほど、そういう視点もあるか」と一瞬思いましたが、「ちょっと待てよ」と疑問が湧きました。この2組のカップルを「貴族」と「庶民」でくくることはできないのではないか、と思ったのです つまり、グリエルモもフェルランドも同じ「士官」という階級であり、フィオルディリージとドラベッラは実の「姉妹」です 男女とも、どちらかが「貴族」でどちらかが「庶民」であるとは考えられないのではないか、と思うのですが いかがでしょうか

     

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津村記久子著「つまらない住宅地のすべての家」を読む ~ 刑務所から女性受刑者が脱走してこちらに向かってくることから静かな住宅地が活気づいていく

2024年05月30日 00時03分57秒 | 日記

30日(木)。わが家に来てから今日で3425日目を迎え、北朝鮮の金正恩総書記が27日の軍事偵察衛星の打ち上げ失敗について言及し、「失敗は成功の前提であり、挫折や放棄の動機にはならない」として再度の打ち上げへの意欲を示した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     北朝鮮は金王朝が続くことが国の失敗を意味する 未来に成功がない国民が気の毒だ

         

昨日、夕食に「アクアパッツァ」「生野菜サラダ」「大根の味噌汁」を作り、マグロの刺身と一緒にいただきました 「アクアパッツア」はいつものシメジの代わりにアサリを入れましたが、多少本格的になって美味しかったです

     

         

津村記久子著「つまらない住宅地のすべての家」(双葉文庫)を読み終わりました 津村記久子は1978年大阪府生まれ。2005年「マンイーター」(改題「君は永遠にそいつらより若い」)で太宰治賞を受賞しデビュー 08年「ミュージック・ブレス・ユー」で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞受賞のほか、数々の文学賞を受賞

     

ある住宅地の路地に建つ10軒の家で暮らす人々によって物語は進行する 二人暮らしの老夫婦、一人暮らしの25歳男性、一人暮らしの58歳女性、父親と中学3年の息子の父子家庭、一人暮らしの壮年男性、両親と一人息子の3人家庭、40代の夫婦、祖母と母親と小学生姉妹の4人家族、年老いた母親と36歳の息子の母子家庭、祖母と父母と3人きょうだいの5人家庭・・・このように家族構成がバラバラな人たちが、普段は特別な交流もなくそれぞれの生活を営んでいる ある日、2つ隣の県の刑務所から女性受刑者が脱獄し、こちらに向かっているというニュースがもたらされ、住人有志が夜間に交代で見張りをすることになる 犯人は日置昭子という36歳の女性だが、勤め先から10年間で約1千万円を横領した罪で逮捕されたものの、その金には一切手を付けず質素な生活をしていたことから、何か特別の事情があったのだろうと人々の同情を買っていた そんなこともあり、住人有志による見張りには緊張感が見られない それぞれの家は、家庭の事情や秘密を抱えているが、この事件をきっかけに住人同士の交流が生まれ、新たな関係性が築き上げられていく

【以下ネタバレ注意】

日置昭子が刑務所を脱走したのには2つ理由がありました 一つは、親戚の男の子から、入院中の父親はもう長くないという手紙を受け取った。父親は昔会社をやっていて、22年前にある工事の見積もり金額がなぜか契約前に外に漏れて、それより下の額を施主に提示した業者が突然現れ、その仕事で立て直しを図ろうとしていた父の会社は資金繰りが出来なくなり倒産した 自分は誰がその金額を漏らしたのかをずっと考えてきた 自分は父自身を疑っていたが、父は子どもの自分に教えてくれなかった。父に死なれたらその理由が訊けなくなるので脱走した。父親の告白によると、父は工事を奪った会社の社長の妻と不倫関係にあった このため、工事の契約を交わす前の見積金額が相手の女性の知るところになり、自分の父親は仕事を掠め取られることとなったという その女性とは同じ路地に住む10軒の中の1軒で暮らす祖母だった 昭子が脱走したもう一つの理由は、脱走に協力してくれた峠坂さんから、神戸にいる娘に手紙を届けてほしいと頼まれたからです 娘が15歳の時に横領で逮捕された峠坂さんは、それ以来娘とは一度も会っていないということでした 結局この手紙は、昭子の学校時代の同級生で10軒の中の1軒で年老いた母親と暮らす・真下に託され、届けられます

本書には目次の次のページに10軒の「住宅地地図」が掲載されており、それぞれの家庭の家族構成が書かれています 本書は登場人物が多く、それぞれの関係性が複雑なので、この地図を見ながら読み進めていきましたが、これは効果的でした そのため時間が余計にかかってしまいましたが、内容を理解しながら読むうえでは不可欠でした

この小説を読んで一番感じたのは、子どもたちの頼もしさです 親の心配をよそに、彼らは彼らなりに必死に考え、必死に生きていることが伝わってきます

         

これでコンサートのない6日間を、腰痛対策の一環として毎日ベッドに横になりながら読書をしてきた生活も一旦終了します 6日連続で読書感想をブログアップしたのはコロナ全盛期以来かもしれません 3つの目標のうち①クラシックコンサート鑑賞は「聴けばよい」し、②映画鑑賞は「観ればよい」という”受動的”な行為ですが、③読書は「読めばよい」と簡単には言えないところがあります 自分で積極的に読まなければならないという意味では最も”能動的”な行為と言えます 極端な話、コンサートを聴くのは2時間程度、映画もほぼ同じだと思いますが、読書の場合は1冊(300ページとして)読了するのに7時間くらいかかります(長過ぎ?)。これは半端ない拘束時間です。この6日間は朝から晩まで読書ずくめだったと言っても過言ではありません

今日からコンサートに復帰します 取りあえず今日は新国立劇場でオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」、明日はサントリーホールで「読響名曲シリーズ」、日曜日はミューザ川崎で「モーツアルト・マチネ」を聴きます 必携なのは当日のチケットと腰痛対策ベルトです

     

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津村記久子著「やりたいことは二度寝だけ」を読む ~ 庶民派芥川賞作家の初エッセイ集:小説における主人公の名前の付け方ほか / ブログ開設以来5000本目の投稿です

2024年05月29日 00時08分17秒 | 日記

29日(水)。昨日、娘がこんなものを連れて帰りました さて、何でしょう

     

答えは「頭皮マッサージ器」です 赤いボール状のところを持って、白い突起を頭に押しつけてグリグリやるのですが、これがとても気持ち良いのです 頭が空っぽの私でも頭が疲れていることに気づかされます

ということで、わが家に来てから今日で3424日目を迎え、ウクライナ軍のシルスキー総司令官は27日、フランス軍がウクライナへの訓練要員の派遣を計画していると発表した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

     

     フランス軍が直接ウクライナ戦争に加わるわけではないが どこまで行くんだろうか

         

昨日、夕食に「いり鶏」「生野菜サラダ」「シメジの味噌汁」を作りました 「いり鶏」は久しぶりに作りましたが美味しく出来ました

     

         

津村記久子著「やりたいことは二度寝だけ」(講談社文庫)を読み終わりました 津村記久子は1978年大阪府生まれ。大谷大学文学部国際文化学科卒業。2005年「マンイーター(「君は永遠にそいつらより若い」に改題)」で第21回太宰治賞を受賞し作家デビュー 2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞を受賞したほか数々の文学賞を受賞

     

本書は2012年6月に講談社から刊行された単行本のうち数編を除き、2017年7月に順序を変えて文庫化したものです 2005年のデビュー直後から2010年までの約5年間(27歳から32歳まで)に綴られた文章が収められた初エッセイ集です

著者は「あとがき」の中で次のように書いています

「自慢話も、ちょっといい話も、お説教も、他人の不幸も、全部疲れるけれど、何かちょっとだけ読みたい、という時がある方に読んでいただきたい 何も残らないし、ひたすら地味で意味もないけど、読んでる間少し楽になった、と感じていただければこれ幸いである こうだといいなあ、と思っているのは、デパ地下のケーキではなく、スーパーで200円以下で買えるお菓子だ。できれば、最近破格においしい森永チョイスビスケットの裏にチョコレートが塗ってあるやつみたいだと思っていただければ、たぶん泣いて喜ぶでしょう

この「あとがき」の通り、著者は普段着で飾ることなく思ったことを素直に綴っています 当時、著者は午前中に会社勤めをしながら小説を書いていた関係から、平日は、仮眠・本眠・昼寝と1日に3回に分けて寝る生活を送っていたといいます。そんなことから本書のタイトルが出てきたのでしょう

本書には全部で59編も収録されているのですべてをご紹介するわけにはいきません そこで、2日前のブログで、著者の「ポトスライムの舟」の主人公の名前を「ナガセ」とカタカナ表記していることについて書いたので、それに関係するエッセイをご紹介することにします それは「芋美と幸子」というタイトルのエッセイです。超略すると次の通りです

「小説を書く人間も、基本的には登場人物の本名という態のものを考える立場であり、プロダクションの人とはちょっと違う 小説家の芸風にもよるのだけれど、わたしのような夢のない作風だと、よりもっともらしく、本名っぽく、名前を付けなければいけない これがかなり気を使う。姓はまだいいとしても、問題は下の名前である。わたしの書いた小説で、主人公ですら名字しか出てこないことがある理由の一端は、このことにもある 主人公の名前ともなると、最低でも1か月は付き合わなくてはならないので、さらに悩む。主人公の名前を決める際の基本的なコンセプトは、『親に高望みされすぎず、思い入れを持たれすぎず、だからといって投げやりに名付けられたわけではなく、響きに特段のかわいらしさはなく、かっこよくもない名前』である 要するに中庸な名前だ。実はこれが結構難しい。どちらかというと、男性の名前より女性の名前の方が難しい

なるほど、と思います なお、このエッセイのタイトル「芋美と幸子」は次のような文章から付けられています

「わたしがいくらじゃがいもが好きだからって子供に『芋助』とか『芋美』だとか付けたら怒られる、というレベルなどは通り越した名前がある たくさんの子供の名前を見ているうちに、実際に、自分ならこう付ける、という子供の名前を考え始めていた いろいろメモしながら、最終的に、女の子なら『幸子』、男の子なら『清』と決めた

とはいえ、彼女は自分の小説に幸子や清を登場させるかといえば可能性は低いと書いています

破格に美味しい「森永チョイスビスケットの裏にチョコレートが塗ってあるやつ」は食べたことはありませんが、気軽に読めるエッセイ集としてお薦めします

         

このブログが5000本目の投稿となります 2011年2月15日にtoraブログを開設して以来4852日目の記録です 「継続は力なり」を実感します

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