31日(日)。早いもので今日で8月も終りです。今週はまた暑さがぶり返すという予報のようです。個人的には、もう夏はいらないです
一昨日に続き昨日、池袋の東京芸術劇場でアジア・ユース・オーケストラ(AYO)の東京公演を聴きました プログラムは①バーンスタイン「歌劇”キャンディード”」序曲、②リヒャルト・シュトラウス「交響詩”英雄の生涯”」、③ベートーヴェン「交響曲第3番”英雄”」の3曲。指揮はAYO芸術監督・指揮者のリチャード・パンチャスです
自席は一昨日と同じ1LBD列4番。会場左サイド中2階といった位置です 会場は1日目と同じ6割程度の入りでしょうか。開演10分前に会場に入ったのですが、すでに何人かは最後の練習に入っていました 5分前にはほとんどのメンバーが出そろい、個々の練習で賑やかになりました。コントラバスを見ると、10人が円陣を組んで手を重ね合わせて固い結束を誓い合っていました。プロのバレーボールでは見られても、プロのオーケストラでは滅多に見られない微笑ましい光景です
ステージ正面には巨大なパイプオルガンが偉容を誇っています。一昨日と同じくモダン面が顔を見せています。電子制御で180度回転させるとルネサンス・バロック面が顔を出します
(パイプオルガン・モダン面)
この日のコンマスは背丈の高い男子です。パンチャスがトレードマークの白いジャケットで登場します 彼はタクトを持ちません。彼のタクトはアイ・コンタクトです 早速1曲目のバーンスタイン「キャンディード序曲」が威勢よく開始されます。テンポが速く目くるめくような曲想ですが、高齢のパンチャスは、それをものともせず精力的に動いて指示を出します オケの面々は超スピードに懸命についていきます。爽快な演奏でした
演奏が終わったところでコンマスが代わるようです。次の曲はヴァイオリン独奏があるので、相当の実力がないと務まらないはず ステージ上のメンバーから歓迎の口笛を受けて登場したのは、ちょっと昔若かった男性ヴァイオリン奏者でした パンチャスが登場し、マイクを手にして紹介が始まりました
「コンマスに迎えたのは1997年、98年のAYOのコンサートマスターを務めた上海出身のチューユンです。現在サンフランシスコ・シンフォニーでヴァイオリンを弾いています」
そして、2曲目のリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」の演奏に入ります。最初の「英雄」のテーマが低弦によって力強く演奏されます 曲が「英雄の敵」「英雄の伴侶」に進むとコンマスのヴァイオリン独奏の出番になります やはりプロのオケで弾いていることもあって素晴らしい演奏です 最後は「英雄の引退と完結」が静かに、そして感動的に演奏されます。全体を通じて感じたのは、リヒャルト・シュトラウスの交響詩は特定の楽器をフィーチャーして目立たせるのではなく、全ての楽器が溶け込んで演奏されるように出来ているのだな、ということです 「一人はみんなのために。みんなは一人のために」という名文句がありますが、それに習って言えば「一人は全体のために」ということになるでしょう 管楽器も、弦楽器も、打楽器も、リヒャルト・シュトラウスの管弦楽の魅力を最大限に引き出していました
プログラムの後半はベートーヴェンの交響曲第3番”英雄”です。パンチャスは”英雄”というテーマで統一性を持たせたことになります コンマスが再度、最初の時の男子に代わります
パンチャスの指示で第1楽章が2つの和音の総奏で開始されます。まさに英雄に相応しい曲想です リヒャルト・シュトラウスの曲と違い、ベートーヴェンではフルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペットなど、それぞれの奏でる音楽が明確に聴こえてきます 弦楽器も分厚い音で指揮者に応えています 第2楽章「葬送行進曲」は最大の聴かせどころです。この曲の初演の時はこの楽章がアンコールされたと言われていますが、分かるような気がします。特にオーボエが良く歌っていました
第3楽章「スケルツォ」ではホルンのアンサンブルがとてもきれいに揃っていて堪能できました 間を置かずに演奏された第4楽章フィナーレでは、このオケの底力が発揮されました。中盤で弦楽の首席4人だけでメイン・テーマが演奏される室内楽的な部分があったのですが、今回初めて気が付きました これは楽譜通りなのかどうか。CDばかり聴いていたのではこういうことは一生分かりません とにかく、新鮮な経験でした
この曲のフィナーレ近くになった時、ヴィオラ席を見ると、ひとりの女子が泣きながら演奏しているのが見て取れました 「あと数分で今年のコンサートツァーも終り、一緒に頑張ってきた仲間たちとも別れることになる」という寂しさから、涙となったのでしょう
オケの総力を結集したフィナーレは圧巻でした。多くのメンバーが泣いています あるいは泣くのを懸命にこらえています。控えのメンバー全員がステージに集まり、パンチャスが再度マイクを持ってスポンサーにお礼を言い、オケのメンバーを国別に紹介します
「中国26人、香港16人、韓国1人、マレーシア5人、フィリピン5人、タイ4人、ベトナム3人、シンガポール1人、台湾29人、日本20人、合計110人です」
国名が呼ばれメンバーが立ち上がる度に、他のメンバーや2階、3階席の若者が口笛を吹いたり足を鳴らして囃し立てます これを見ていると「音楽に国境はない」と思うと同時に「若さっていいな」と思います
パンチェスが続けます
「ここにいるメンバーが集まったのは今から6週間前です。中国をはじめアジア各地の厳しいオーディションを通過した優秀なメンバーが香港に集まり、1日9時間の厳しい練習が3週間続きました その後、上海、杭州、北京、天津、香港、台北、大阪、そして東京と、コンサート・ツアーを続けてきました 昨日と本日の東京公演をもって今年のAYOの活動も終了します。オケのメンバーは明日、解散してそれぞれの国に帰って行きます。AYOには歴史があります。毎年メンバーを変えながらこれからも続けていきます」
この6週間のことを思い出していたのでしょう。多くのメンバーは泣きながら聞いています。そして、アンコールにエルガーの「エニグマ組曲」から「二ムロッド」を思い入れたっぷりと感動的に演奏しました 会場一杯の拍手 とブラボーの中、オケのメンバーは泣きながらお互いに握手をし、肩を叩き合い、ハグをして別れを惜しんでいました ステージから立ち去り難い彼らに温かい拍手が続きました 私も席が立てず、大きな拍手を送りました AYOのメンバーの皆さん、感動をありがとう 何人かは来年も厳しいオーディションを通過して再びAYOに参加して来日することになるでしょう。また来年も聴きに行きます。その時を楽しみにしています