31日(日)。はやいもので、今日で3月も終わり、今年度も終わりです
昨日、池袋の東京芸術劇場で第2回音楽大学フェスティバル・オーケストラのコンサートを聴きました これは、国立音楽大学、昭和音楽大学、洗足学園音楽大学、東京音楽大学、東京芸術大学、東邦音楽大学、桐朋学園大学、武蔵野音楽大学のピックアップメンバーからなるオーケストラで、秋山和慶が指揮をします
プログラムは①R.シュトラウス「祝典前奏曲」、②レスピーギ「交響詩:ローマの松」、③マーラー「交響曲第5番嬰ハ短調」です
自席は1階O列24番、センターブロック右サイド通路側です。会場は出演する学生の家族・知人と思われる人が多く見受けられ、ほとんど満席状態です 私のように「秋山和慶」と「マーラーの第5交響曲」をキーワードにチケットを買った聴衆は少数派ではないかと想像します 舞台いっぱいに並べられた椅子に学生が順序良く座っていきます。100人は軽く超える奏者が所狭しと配置に着きます。2階を見上げると、このホールのリニューアルとともにオーバーホールが終わったパイプオルガンの「モダン面」が堂々たる偉容を誇っています 本日31日の”お披露目”の前日に音が聴ける訳で、すごくラッキーです オルガン奏者を真ん中にして、その左右にもトランペット奏者12人がスタンバイします
コンサートマスターの登場です。プログラムには3人の名前が書かれており、3曲を交代で務めるらしいことがわかります 順番で行けば最初の曲のコンマスは東京音大の龍野満里絵さんです
1曲目のR.シュトラウス「祝典前奏曲」は1913年にウィーン・コンツェルトハウスのこけら落としを祝うために作曲したものです たったの11分程度の曲ですが、楽器編成は最大限と言ってもよいほどあらゆる楽器が総動員されます
指揮者・秋山和慶が颯爽と登場し、タクトが振り下ろされます。冒頭、パイプオルガンの輝かしい音が会場に響き渡ります 管楽器も弦楽器も打楽器も、すべてを総動員してロマン派音楽の極致を行く”誇大妄想的”な前奏曲を演奏します 聴いていて「ああ、なるほど、シュトラウスだなあ」と感心します。迫力満点の曲でした
コンマスが桐朋学園大学の藤田尚子さんに代わり、管楽器の配置の入れ替えがあり、2階のトランペット奏者も6人に減り、再び秋山和慶の登場です
レスピーギの交響詩「ローマの松」は、1924年に古都ローマの各地に残る4つの松を題材として作曲されました。音響だけによる情景描写の曲です 最初の「ボルゲーゼ荘の松」から色彩感豊かな管弦楽が展開します。すべての楽器がキラキラ輝いているようです 8大学のピックアップ・メンバーらしく実力者揃いのようです 第3曲の「ジャ二コロの松」では鶯の声が笛で再現されますが、イタリアの青空のもと、松の枝で鶯が気持ちよさそうにさえずっている様子が目に浮かんできます 第4曲の「アッピア街道の松」のフィナーレは圧巻でした。大管弦楽の音の渦に巻き込まれ、どこかに連れていかれそうな気分です
休憩後、再びオケがスタンバイし、3曲目のコンマス、東京藝大・下田詩織さんが登場します。その直後のことです。2階左サイドのバルコニー席のご老体がフラッシュを炊いて舞台を撮影したのです 最初は主催者側のカメラマンかと思ったのですが、普通に自分の席に着いたので一般人であることが分かりました。多分、舞台上に孫息子か孫娘がいるのでしょう
この人(A氏)が家に帰った時の会話を想像してみました。
A氏:きょうの演奏会でオーケストラの写真を撮っておいたよ。ほら、良く撮れてるだろう
まご:あの光、おじいちゃんだったの 恥ずかしいから止めてよね 放送で”許可のない録音、写真撮影はご遠慮ください”って言ってたでしょ。今度あんなことしたら、もうコンサートに呼ばないからね
A氏:オー・マイ・ガー
こういうおじいさんは”大胆不敵”とは呼ばれても”大胆素敵”とは呼ばれません
さて、3曲目のマーラー「交響曲第5番嬰ハ短調」が始まります。冒頭、トランペットにより”葬送行進曲”のファンファーレが響き渡ります 吹いているのは女子学生です。私は何度もこの曲を生で聴いていますが女性が冒頭のトランペットを吹いた演奏はこれが初めてです。それが、何とも素晴らしい演奏なのです 相当なプレッシャーだと思うのですが、肝が据わっているというのか、堂々たる演奏を展開します。第1楽章はこのトランペット奏者が大活躍します
文字通り「嵐のように、大いなる激しさで」の第2楽章を経て、第3楽章はまるでホルン協奏曲です この楽章に入る前に、女性ホルン奏者が舞台の前に出てきて指揮者の前の席に座ります。最近こういう演出が目立ってきました。このホルンが豊かな音量で演奏も素晴らしいのです
そして第4楽章「アダージェット」に入ります。この楽章はハープと弦楽器のみで演奏されます 美しい演奏を聴きながら考えたのですが、マーラーは前の3つの楽章でフル活動した管楽器を休ませるためにこの楽章を弦楽器だけで演奏するように作曲したのではないか、ということです。まあ、考えすぎでしょうが
そして、間を置かずに第5楽章「ロンド・フィナーレ」に入ります。管楽器、弦楽器、打楽器、それぞれがフル回転でフィナーレに向かって疾走します 途中、女性のティンパ二奏者が勢い余って右手からバチが離れてしまい、宙を舞いました が、幸い近くに落ちて事なきを得ました。誰にも”バチが当たらなくて”良かった とにかく圧倒的なフィナーレでした
終演後、秋山は第3楽章で見事な演奏をした女性ホルン奏者を前に出るように促し、握手をして聴衆の拍手を求めました その後、管楽器、打楽器、弦楽器を順番に立たせて賞賛していました
あらためて8大学の精鋭たちの実力の高さと、それを取りまとめて見事な演奏を展開した指揮の秋山和慶の素晴らしさを再認識しました
ところで、若い俊英たちを見ながら「この人たちの何人かは大学院に進み、何人かは海外留学をするのかも知れないけれど、いったい何人の人が”就職”できるだろうか」と心配になりました。毎年何百人もの音大生が卒業していく訳ですが、有力な”就職先”であるプロのオーケストラはどこも財政事情が厳しく、欠員補充しかしないと聞いています。それこそ世界的なコンクールに入賞して”ハクをつける”ことでもしないと”普通の就職”さえ難しいのかもしれません 「好きなことをやれていいな」とは思うものの、近い将来を考えると、他人事ながら彼ら彼女らの行く末がすごく心配です