人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

稲盛財団が芸術団体を支援~日経の記事から / 森沢明夫著「森沢カフェ」を読む ~ ポジティブシンキングに満ちた珠玉のエッセイ集

2020年04月30日 07時21分20秒 | 日記

30日(木)。早いもので4月も今日で終わり 新型コロナウイルス感染は拡大の一方で、収束の見通しが見えません 少しでも 希望がほしいところです

2020年も4か月が経過したことから、1月から4月までの4か月間の3つの目標の実績を振り返ってみました

①クラシック・コンサート=38公演(中止・延期公演=38公演で、全く同数!)

②映画鑑賞=54本(年間目標が160本なので順当な実績か)

③読書=30冊(年間目標が65冊なので予想以上の実績)

これは例年の真逆の実績です 同じ期間で これほどコンサートを聴かなかった年はないし、これほど本を読んだ年もありません すべてが新型コロナウイルスの為せる業です

ということで、わが家に来てから今日で2038日目を迎え、トランプ米大統領は27日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者への治療法として「消毒液の注射」に言及した自らの発言で混乱を招いたことについて「責任はない」との認識を示した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     こんな無責任な男を いつまで大統領にしておくんだ? 米国の国民も情けないな!

 

         

 

昨日、夕食に「スペアリブ」と「生野菜サラダ」を作りました 「スペアリブ」は久しぶりですが、今回は塩胡椒に少量の醤油を加えてみました。美味しかったです

 

     

 

         

 

昨日の日経朝刊によると、公益財団法人の稲盛財団(京都市、金澤しのぶ理事長)は28日、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて公演中止などを余儀なくされている劇団などの実演芸術団体に資金援助すると発表しました 総額は3億円で、財団のホームページを通じ5月17日まで募集するとのこと

こうした支援は本来 国がやるべきものだと思いますが、国のもどかしい対応に民間が動き出したというところだと思います

 

         

 

森沢明夫著「森沢カフェ」(潮文庫)を読み終わりました 森沢明夫氏は1969年生まれ。千葉県出身。早稲田大学卒。2007年「海を抱いたビー玉」で小説家デビュー 「津軽百年食堂」「あなたへ」などの著書がある。「虹の岬の喫茶店」が映画化され話題になった

 

     

 

本書は、月刊「潮」2017年1月号から19年12月号まで連載された「小さな幸せ探検隊」に加筆修正したものです 著者の森沢明夫氏の名前は知らなかったのですが、プロフィールに小説「虹の岬の喫茶店」が映画化され反響を呼んだという解説があったので、「ああ、あの吉永小百合が主演した映画『不思議な岬の物語』の原作者だったのだな、と気が付きました

筆者は「はじめに」で、「人生にはいろいろあるけれど、身の回りをよく見てみると『小さな幸せ』がころころと転がっていることに気が付きます 本書はそういう『小さな幸せ』をテーマにした、短くてゆるいエッセイをまとめたものです」と書いています 収録された74篇のエッセイは最初から順番に読んでも良いし、見出しを見て興味を抱いた作品を読んでも良いし、自由気ままに読むことが出来ます

読んでいると「なるほど。そういう考え方もあるのか 」と思うエッセイが少なくありませんでした いくつかご紹介します

最初は「幸せのハードルは低く」です 例えば、脚を怪我をして自由に歩けなくなった時、病院内を歩いている人を見て、「歩けるって、なんて幸せなことなんだ」と、今まで当たり前と思っていたことに感動する その時、自分の中の幸せのハードルは低く下がっている。ハードルを低く設定して生きていくほうが”お得な人生だ”というわけです そして著者はこう主張します。「幸せのハードルは低く。でも、志は高く

次は「最後に笑うのは誰だ?」です いつも上機嫌で笑っている人の周りには 自然と笑顔いっぱいの、楽しいことが好きな人たちが集まるものです 逆に不機嫌な人の周りには人は近づこうとしないもの 大学生の時、同じ学年に 決して美人ではないけれど、いつもニコニコして高知弁丸出しで話している女子学生がいましたが、いつも彼女の周りには男女問わず人が集まっていました 笑顔は人を引きつける力を持っているということでしょう 著者は成功している人たちを見て「成功して幸せになったから上機嫌なのではなく、上機嫌だった人たちが成功して、いま幸せを味わっているのです」と書いています

次は「字が汚い人は頭がいい?」です 著者は「人は長所で尊敬され、短所で愛されるもの」と思っているが、自分の字は「もはや阿呆な小学生並みにへたくそだ」と告白しています そして、短所で愛されるどころか、字が下手過ぎると相手に対して失礼だと思う、と書いています これを読んで、私は森沢氏に親近感が湧きました。現役で働いている時、労働組合の執行委員や役員を4回ほどやらされましたが、私が書記長をやっている時、自分で書いた「組合ニュース」を組合員に配布していたら、ある組合員から「こんな みみずがのたくったような汚ない字、読めねーよ」とクレームを言われました。すると、たまたま近くにいた総務部長が「組合員だったら、読むように努力しなきゃいけないだろ」と注意したのです 総務部長と言えば、労使交渉でテーブルの反対側に座る使用者側の責任者です 言わば”敵”に同情されたのですから、私は複雑な心境でした 残念ながら現在もなお悪筆は治っておりません

さて 著者は、最近ネットで気になる記事を発見したといいます それには「字が汚いのは頭がいい証拠です。つまり思考のスピードが速すぎて、それに手が追い付かないから、字が汚くなるのです」と書かれていたそうです それを見た著者は、あえて思考の速度よりもかなりゆっくりと自分の名前を書いてみたそうですが、やはり幻滅したそうです 他人事とは思えない森沢氏の試みに、増々親近感が募りました

次は「8割の確率で幸せになる方法」です 著者は「過去の栄光ばかりをしゃべりたがる人は、意識がすっかり過去にとらわれていて、実際に『夢を叶えるための現在』を生きていないことが多いようです」と書きます そして「あなたの過去が現在につながったことは事実です。でも、あなたの未来を創るのは、過去ではなく現在です つまり、あなたが何をするかで、その瞬間から未来が開けていくわけです」として、「たとえいくつになろうとも 未来を語り、そして、夢を追い続けようではありませんか」と結んでいます。ポジティブシンキングの模範のような呼びかけですが、是非そうありたいと思います

最後に「探検隊という生き方」をご紹介します 「探検隊」というのは、著者がイラストレーターのうぬまいちろう氏 と共著の形で刊行した「東京湾ぷかぷか探検隊」から採ったもので、テーマは「遊び心」だそうです    遊び心のない人を「ロックじゃねえなぁ!」と罵倒するそうです ロックな人たちに共通する生きるためのコツは「悩むのではなく、考えること」と「後悔するのではなく、反省すること」の2つだそうです 「たったこれだけで、人生は思いがけないくらい前向きになるようです」と結んでいます 確かに、悩むこと=考えることではないし、後悔=反省ではありません 好きな音楽はクラシックですが、ロックな人生も良いかもしれません

以上のほか、店主の現況が気にかかる「坂道の喫茶店」、マジすか?と言いたくなる「営業しないで売る方法」、正統派読者向け「人はなぜ本を読むのか?」など興味深いエッセイが揃っています 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請が続き「巣ごもり」を余儀なくされている毎日ですが、書店は開いてるはず 皆さん、読書をしましょう

昔:「書を捨てよ、町へ出よう」(寺山修司)

今:「町に出るな、本を読もう」( tora

 

本日、toraブログのトータル閲覧数が550万 P V を超えました( 5,501,377 PV。トータル訪問者数は1,485,501 IP)。これもひとえに普段からご覧くださっている読者の皆さまのお陰と感謝申し上げます    これからも、毎日休むことなく書き続けて参りますので、モコタロともどもよろしくお願いいたします

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「文化を支える 心の栄養絶やさぬため」 ~ 政府は文化活動に対する支援を!:朝日の社説から / 「ミニシアター ~ ネットに活路」 ~ クラウドファンディングの試みも:日経の記事から

2020年04月29日 07時20分42秒 | 日記

29日(水)。NHKの林田理沙アナはこの連休中にワーグナー「ニーベルングの指環」四部作(全15時間)を観る予定だそうです 私は毎日、朝から晩まで音楽を聴きながら読書に勤しんでいますが、ここ数日はBGMにルーマニアのピアニスト、クララ・ハスキルの17枚組CDを片っ端からかけています ハスキル得意のモーツアルトを中心にベートーヴェンやシューベルトやシューマンなどが収録されていますが、中でも一番好きなのはモーツアルト「ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466」の演奏です このアルバムには、この曲だけで4種類のハスキルの演奏が収録されています バックを務めるのは①ベルンハルト・パウムガルトナー指揮ウイーン交響楽団、②イーゴリ・マルケヴィチ指揮コンセールラムルー管弦楽団、③フェレンツ・フリッチャイ指揮RIAS交響楽団、④ヘンリー・スヴォボダ指揮 Musikkollegium  Winterthur  です この中で私が一番好きなのは ②イーゴリ・マルケヴィチ指揮コンセールラムルー管弦楽団をバックに演奏したCDです デモーニッシュそのものの、 背筋が寒くなるほど感動的な演奏です

 

     

     

 

ということで、わが家に来てから今日で2037日目を迎え、トランプ米大統領は27日の記者会見で、健康不安説が流れている北朝鮮の金正恩委員長について「彼がどういう状態にあるかは ちゃんと分かっている。あなたたち(記者団)も恐らくそう遠くないうちに分かることになるだろう」と述べた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     さすがは独裁者同士!  相手の動向は把握しているみたい  コロナ避けて地方か?

     

         

 

昨日、夕食に「ポトフ」を作りました お酒はやっぱりワインですね

 

     

 

         

 

昨日の朝日新聞朝刊に「文化を支える  心の栄養絶やさぬため」というタイトルの社説が載りました 超訳すると、

「安倍首相が他の業種に先がける形で、文化イベントの開催の自粛を要請して2か月になる 音楽や演劇などの公演の主催者、アーティストが順次これに応じ、ぴあ総研の推計では、この状態が5月末まで続けば15万本の公演が中止・延期となり、損失見込みは3,300億円に上る 映画も同様の苦境にあり、文化芸術の存立そのものが根底から脅かされている 中小企業者やフリーランスが多くを支えてきた世界だ。そうした担い手たちが離れていってしまえば、再興は容易でなく、次代の芽も育たない。その先に広がるのは荒涼とした風景だ ところが政府の対応はいかにも心もとない。目につくのは、購入者が払い戻しを求めなかったチケット代を、寄付扱いにできる税金の優遇措置くらいだ。直接の経済支援を行う欧米に比べ、見劣りは明らかだ 文化庁は、危機に直面する今だからこそ、知恵を絞り、各方面にも働きかけて、支援の実をあげる必要がある 文化芸術への寄付全般に優遇措置を広げる、官民による基金を整備するなど、検討すべきことはあるのではないか すでに民間では基金づくりの動きが出ている。行政はそうした活動を支える手立てを講じるべきだ。業界でも様々な試みが始まっている 作品や公演のネットを使った有料配信や、無料配信したうえで寄付を募る企画も増えてきている 新しいファンを開拓し、将来のビジネスに結びつく道を探ってもらいたい 新日本フィルの楽団員の自宅での演奏を合体させた動画は、100万回以上再生された 人々は音楽や映像に励まされて、苦々しい日々を乗り越えようとしている。この事実が文化の意義と大切さを物語る。どんな支え方ができるか、考え続けたい

政府だけに助成措置を求めるのでなく、民間も一緒になって危機的状況を脱するために「官民による基金」を整備するという考え方は十分説得力があると思います 是非、政府にも乗ってほしいと思います

 

         

 

一方、昨日の日経朝刊 企業面には、「ミニシアター  休業の賃料負担重く ~ ネットに活路」という記事が載りました 超訳すると、

「新型コロナウイルスの感染拡大で、経営が厳しくなる映画館など映画産業が対応を急いでいる 中小の映画館は作品のネット配信やクラウドファンディングを開始 大手映画配給は映画館とネットで同時期に公開した 同時公開は映画館を優先する業界の慣例を破ったとの指摘もあるが、長期化する恐れもある休業要請を乗り切るため知恵を絞る 都内に2つある映画館を営業休止したアップリンク(東京・渋谷)の浅井社長は、「劇場の年間売上高は約6億円だが、劇場の賃料約500万円などが重くのしかかる 政府は減収の中小企業に最大200万円、都は休業要請に応じた店舗に1店舗50万円、複数店舗なら100万円を支給するが、劇場の賃料、借入金の返済額には届かない」と語る。そこで始めたのがネット配信だった。映画など60作品以上を2980円で3か月は見放題にした 下高井戸シネマ(東京・世田谷)は3月にクラウドファンディングを始めた 出資額に応じて劇場招待券をつける。出資額は目標を超えた 全国興行生活衛生業組合連合会(東京・港)によると、映画館は全国に560カ所超ある。『休業が続けば、倒産する中小の映画館が出てくる』との見方もある

映画館も生き残りをかけた闘いを強いられていることがよく分かります

それでも私は思います。音楽はやはりコンサート会場で聴きたいし、映画は映画館で観たいと コンサートにしても映画にしても、少しでも早く新型コロナウイルスの影響から脱し、再開されるよう祈るばかりです

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アベノマスク届く / 「小川洋子と読む 内田百閒アンソロジー」を読む ~ 鈴木清順監督「ツィゴイネルワイゼン」の元ネタになった「サラサーテの盤」も収録

2020年04月28日 10時53分11秒 | 日記

28日(火)。アベノマスクが届きました。白い布マスクが2枚です 測ってみたら 縦9.5センチ、横13.5センチでした。私はてっきり1人2枚だと思っていたら「一住所あたり2枚」だったのですね とんだ勘違いをしていました 洗濯可能で何度でも使えると書かれています。3人以上の家族は洗って使い回しするのでしょうか? 元は税金なので ありがたく使わせていただきますが、それはそれとして、医療従事者の人たちの高性能マスクや防護服が心配です 報道によると全国的に不足していて、ゴミ袋を加工して防護服代わりにしている病院もあるそうです 政府には是非そちらを最優先して手当して欲しいと思います

 

     

     

 

ということで、わが家に来てから今日で2036日目を迎え、衆院静岡4区補欠選挙では漢字も読み方も同じ「田中健」氏が2人立候補したが、「NHKから国民を守る党」から田中健氏を擁立した理由について、同党の立花孝志党首は「同姓同名が立候補したらどう票が割れるかテストするため」と説明している  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

      そんな暇なことやっているあんたこそ NHK(日本暇人協会)会長じゃないの?

 

         

 

昨日、夕食に「ドライカレー」と「生野菜サラダ」を作りました ドライカレーは久しぶりに作りましたが、私の定番料理です

 

     

 

         

 

「小川洋子と読む  内田百閒アンソロジー」(ちくま文庫)を読み終わりました 内田百閒(うちだ ひゃっけん・1889-1971)は小説家、随筆家。岡山の造り酒屋の一人息子として生まれる。東京帝国大学独文科在学中に夏目漱石門下となる。陸軍士官学校、海軍機関学校、法政大学などで教鞭を執る 1967年、芸術院会員推薦を辞退。酒、琴、汽車、猫などを愛した。本名は内田栄造。別号・百鬼園。小川洋子は岡山市生まれ。1991年「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞、「博士の愛した数式」で読売文学賞と本屋大賞を受賞するなど受賞多数

 

     

 

本書は、作家・内田百閒の作品から、編者の小川洋子が24作の小説・随筆を編んだオリジナルのアンソロジー(選集)です 内田百閒は名前こそ知っていましたが、作品をまとめて読むのは今回が初めてです

それぞれが、内田百閒の作品+小川洋子の読後感想というスタイルをとっています 旧仮名遣いで書かれているため読みにくく、内容の把握が容易ではありませんでした 読み終わってから小川洋子さんの感想・解説を読んで、「ああ、そういう内容だったのか」と初めて気が付く作品も少なくありませんでした。読解力のなさを痛感しました

それでも、それぞれの作品の文章には独特のリズムがあるということは分かりました ところで、24作の中で唯一知っていたのは「サラサーテの盤」です この作品は、鈴木清順監督による1980年製作映画「ツィゴイネルワイゼン」の元ネタの一つとして使われた短編小説です

「中砂の妻は乳飲み子を残してスペイン風邪に罹り死んでしまった。その後、中砂は芸者上りのおふさと結婚するが、生活はうまくは行かず中砂は病気で死んでしまう その1か月後、おふさが、貸してあるはずのレコードを返して欲しいとやってくる それはサラサーテ自奏の「ツィゴイネルワイゼン」のレコードで、演奏の途中にサラサーテ自身の声らしい話し声が録音されているが、何を言っているのか分からないという盤である おふさは、「毎晩決まった時間に娘のきみ子が目を覚ます。一心に中砂と話している様に思われる。きみ子の良く聞き取れない言葉の中に、決まってお宅様の事を言う。きっとこちらにきみ子が気にする物がお預けしてあるに違いない   中砂がきみ子にやりたい物なのでしょう。それは奥様でなければ分からないことで、奥様はきっとご存知だと思うから来た」と語る   友人に又貸ししてあるのを思い出し、そのレコードを引き取って おふさに届けた。中砂の遺愛の蓄音機にそれをか掛けると、サラサーテの声がいつもの調子よりも強く、小さな丸い物を続け様に潰している様に何か言い出したと思うと、おふさは「いえ、いえ」「違います」「きみちゃん、おいで。早く。ああ、幼稚園に行って、いないんですわ」と口走りながら、顔に前掛けをあてて泣き出した

この結末を読んだ時、おふさにはサラサーテの声がどのように聴こえたのだろうか、と考えてしまいました   おふさが「奥様はきっとご存知だと思う」と言っているのは、生前の中砂と語り手(映画では青地)の妻とは何か関係があったのではないか、ということを暗示しています さらに、きみ子は先妻の子で自分の生んだ娘ではありません。きみ子は本当に幼稚園に行って、いないのだろうか

小川さんはこの作品について、「見紛うことのない傑作。好きな小説は何ですか、と尋ねられた時、迷いなく胸を張って答えられる作品と出会えるのは、何て幸せだろう」と書いています

ところで、気になるのは、サラサーテの自作自演による「ツィゴイネルワイゼン」のレコードに彼自身の声が収録されているのだろうか、ということです NETで調べてみたら、1904年の録音による演奏がSPレコードに遺されていることが分かりました 録音年からすると、蚊の鳴くような小さい音で、ヴァイオリンの音かノイズか人間の声か判然としないように想像できます 今度、中古レコード屋に行った時に探してみようと思います

そういえば、LP・CD中心主義からライブ・コンサート中心主義に方針変更して以来、CDショップや中古レコード屋に行く機会がめっきり減ってしまいました たまに気が向いてタワーレコードなどに行くと、必ず欲しいCDがあり 思わず買ってしまうことが分かり切っているので、出来るだけ行かないようにしてます

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「1808年12月22日、アン・デア・ウィーン劇場のベートーヴェンの演奏会」 ~ 「あの日、あの場所」に行ってみたい:作家・原田ひ香さんのエッセイから

2020年04月27日 07時19分24秒 | 日記

27日(月)。わが家に来てから今日で2035日目を迎え、盛岡市が今月、新型コロナウイルス感染拡大で減収となった事業者に対し、市税の徴収猶予の申請書類を送った際、申請者の記入例を「滞納 太郎」と記し、事業者から「ひどい」と苦情が寄せられた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     早口で読むと「滞納したろう」とも聞こえるからね  チコちゃんにも叱られそう!

 

         

 

昨日の日経朝刊 文化面に作家の原田ひ香さんが「ヒーターの壊れた劇場で」というエッセイを寄せています

「こんなご時世だから、自分が好きな『あの日』について考えることをお勧めしたい 自分が好きな歴史の『あの日あの場所に』自分がいると想像して楽しむのだ」として、「1808年12月22日、アン・デア・ウィーン劇場で開かれたベートーヴェンの演奏会 を繰り返し思い描いている」と書いています この日は、第5交響曲、第6交響曲、ピアノ協奏曲第4番が一気に初演された記念すべき日です 当日のプログラムは次のような内容でした

①交響曲第5番 ヘ長調 作品68「田園」(現在の第6番)

②アリア「Ah、perfido」(作品65)

③ミサ曲 ハ長調 作品86 から「グロリア」

④ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58

 (休憩)

⑤交響曲 第6番 ハ短調 作品67「運命」(現在の第5番)

⑥ミサ曲 ハ長調より「サンクトゥス」と「ベネディクトゥス」

⑦合唱幻想曲 ハ短調 作品80

(作品番号は楽譜出版順)

このコンサートの所要時間は4時間を超えたと言われています 原田さん曰く「地獄のプログラムである」。原田さんは10代の頃、子供のオーケストラでヴァイオリンを弾いていた時にこれらの曲を演奏したことがあるそうですが、「それを全部、同じ日に発表しちゃおう、というところに、ベートーヴェンの性格が良く表れていると思う 過剰でやり過ぎ、悪気はないが、熱意で皆を辟易させる人だったんじゃないだろうか」と分析を加えています

そして、「しかし、この日の地獄はこんなことでは終わらない アリアのソリストの女性はなぜか、当日にドタキャンしてしまった 急きょ決まった歌手は緊張で歌えなくなって退場となった ラストを飾るはずだった合唱幻想曲は、オケが演奏途中で混乱して、ベートーヴェン自身が一度演奏を止め、最初からやり直すというていたらく オーケストラで演奏するのは慣れや練習が必要だ。『運命』や『田園』を演奏した後では体力的にも厳しく集中力も欠いたことだろう」とオケに同情を寄せています

そして、「想像するに、前日のリハーサルからうまくいっていなかったんじゃないだろうか 初演を成功させたいベートーヴェン、けれど(当時としては)難解な音楽、リハーサル1日ではとても時間が足りなかったはずだ。ベートーヴェンはイライラしっぱなしで雰囲気は最悪。アリアのソリストは気まずい雰囲気に耐えられなくなり降板したのかもしれない さらに、演奏の日のウィーンは12月の寒い日だった。それなのに、なんと劇場のヒーターが壊れていたらしい 観客たちは寒さに震えながら、冷え切った関係のオケと指揮者と、長い長い、不完全な演奏を聴かされるはめになった」と当時の苛酷な状況を紹介します

そして最後に、「それでも私はあの日、自分が当日あの会場にいることを夢見ずにいられない 私はその時、何を感じたのか。あの2曲が将来、この世が果てるまで、名曲として残るとはとても見抜けなかっただろうけど」と締めくくっています

このエッセイを読んで、「さて、自分にとって行ってみたい『あの日 あの場所』はいつどこだろうか、と考えてみました

1986年4月末から5月初旬にかけてのゴールデンウイークの時、私は休暇でオーストリアにいました 初めてのザルツブルクでありウィーンでしたが、目的はモーツアルトの墓参りです ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)は死後、ウィーン郊外のサンクト・マルクス墓地の共同墓穴に埋葬されました。没後100年の1891年に、そこから中央墓地に「モーツアルトの墓とされるもの」が記念碑として移転しましたが、実際にはモーツアルトの遺骸はサンクト・マルクス墓地のどこかに埋葬されたままで、現在なお墓地のどこに埋められているのか不明です 私が墓参りに行ったのは中央墓地の方です。墓地の一角にベートーヴェン、シューベルト、ブラームスらの墓が集まった所があり、そこにモーツアルトの記念碑が立っているのです。墓地の入口でおばちゃんが売っていた花束を買い、記念碑の手前に手向けました モーツアルトだけ 遺骨がそこに埋葬されていないのが とても悲しかった思い出があります

 

     

     ウィーン中央墓地 (左からベートーヴェン、モーツアルト、シューベルト)

 

あの時以来、私が行ってみたい『あの日 あの場所』は、モーツアルトが息を引き取った1791年12月5日と、その前後1か月のウィーンになりました その理由は、第一にモーツアルトの本当の死因が知りたいということ、第二にモーツアルトの遺骸はサンクト・マルクス墓地のどこに埋められているのかが知りたいからです

死因については、公式の検死報告書が作成されておらず、埋葬場所も不明なままなため遺体の検証が出来ず、死因を特定できないため「病死説」「梅毒治療失敗説」「毒殺説」など様々な説が唱えられています 「毒殺説」だけでも、サリエリ説、ジュスマイヤー説、コンスタンツェ説、フリーメーソン説など数多くの説があります このうち「ジュスマイヤー説」というのは、日本モーツアルト協会会員の小澤純一氏によると、「貴族批判をしたモーツアルトを抹殺するために、ウィーンの貴族社会が 弟子のジュスマイヤーに圧力をかけ毒殺させた」というものです 「ジュスマイヤーは本来サリエリの弟子であったが、このためモーツアルトに近づき その妻コンスタンツェとも深い仲になるが、目的達成後は彼女に冷たくなった    これが本当とすれば、彼女が当初、『レクイエム』の完成を彼に依頼することを躊躇した理由も納得がいくというわけだが、事実はどうであったか。ミステリー小説に近くなる」としています。さて、本当のところはどうだったのか   死の1か月前からモーツアルトの間近で観察すれば真相が判るのではないか、と思ったわけです

また、葬儀は12月6日説と12月7日説がありますが、どちらなのかはっきりしたいし、当時は誰も霊柩車に同行することが許されず、妻コンスタンツェさえも同行しなかったため、墓地のどこに埋められたのかが分からなくなってしまったことを考えると、霊柩車に同行すれば埋葬場所が分かるだろう と考えたわけです

35歳で天に召された天才モーツアルトほど「死の謎」に満ちた作曲家は他にいません

さて、あなたにとって 行ってみたい『あの日 あの場所』はいつどこでしょうか

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「都、アーティストを支援」~朝日の記事から / 柚月裕子「凶犬の眼」、森沢明夫「森沢カフェ」、須賀しのぶ「革命前夜」、林哲夫「喫茶店の時代」、柚木麻子ほか「注文の多い料理小説集」を買う

2020年04月26日 07時19分43秒 | 日記

26日(日)。昨日、買い物に出かけたとき、道にマスクが落ちていました 捨てたのか、落ちてしまったのかは不明ですが、捨てたとしたら言語道断です 万が一そのマスクに新型コロナウイルスが付着していて、幼児が拾ったりしたらどうなるでしょう? 本人に感染し、家族に感染し、友人・知人に感染し、と感染が拡大し、ひいては外出自粛要請が延長されるのです 毎日 コロナの怖さが喧伝されている中で、そういうことに思いが至らない者は大馬鹿者です

ということで、わが家に来てから今日で2034日目を迎え、新型コロナウイルスの治療法を巡り、トランプ米大統領が「消毒液のようなものを体内に注射できないだろうか?クリーニングのように」と述べたことに対し、専門の医師は危険な行為と批判し、試さないように呼び掛けている  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     試しにトランプに消毒液を注射してみたら? トランプの毒は消えないと思うけど

 

         

 

昨日の朝日新聞 社会面に「都、アーティストを支援」という小さな記事が載っていました

「東京都は24日、イベント中止などで活動の場が減っているアーティストを支援する取り組みを始めると発表した 動画作品を募集し、ウェブ上で発信する場を設ける。審査を経て配信されれば、出演料として1人あたり10万円を支払う。出演者が複数の場合、1作品あたり100万円を上限とする 対象は都内在住、もしくは都内を活動拠点にしている音楽家や俳優、美術家ら。過去1年以上、芸術文化活動による収入で生計を立てていることなども要件となる

フリーのアーティストにとっては大きなチャンスだと思います アーティストにとって、芸術活動によって収入を得ることも大事であるが、何より、多くの人たちにそれを観てもらう、あるいは聴いてもらうことが生き甲斐であり大事なことである、と聞いたことがあります アーティストの皆さん、チャレンジしてみてはいかがでしょうか

 

         

 

早くも手元の本が底をついたので5冊買いました 1冊目は柚月裕子著「凶犬の眼」(角川文庫)です 柚月裕子の作品は文庫化されるたびにこのブログでご紹介してきました

 

     

 

2冊目は森沢明夫著「森沢カフェ」(潮文庫)です この人の本を買うのは初めてです

 

     

 

3冊目は須賀しのぶ著「革命前夜」(文春文庫)です これは帯の”セールス・トーク”に惹かれて買いました

 

     

 

4冊目は林哲夫著「喫茶店の時代」(ちくま文庫)です チェーン店でない昔ながらの喫茶店には興味があります

 

     

 

5冊目は柚木麻子ほか著「注文の多い料理小説集」(文春文庫)です この本は料理をめぐる7つの物語です

 

     

 

いずれも読み終わり次第、このブログでご紹介していきます

ところで、昨年から読んできた文庫本を積み上げたら1メートル20センチを超えていました 60センチずつ2つの山に分けて積んでありますが、地震が来ると崩れる恐れがあります 今までは、ある程度溜まったところで、引き取って読んでくれる人がいるので、手渡ししていたのですが、外出自粛要請が出ているので会うのを控えています できるだけ早く手渡したいと思いますが、都の方針次第です

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今日はプッチーニ「トゥーランドット」初演の日 ~ 1926年4月25日 ミラノ・スカラ座で / 三島由紀夫著「文章読本」を読む ~ 三島文学の美学の本質は格調と気品

2020年04月25日 07時23分16秒 | 日記

25日(土)。東京都から外出自粛要請が出ていることから、最近は余程のことがない限り外出を控えているので、1日最低8000歩のノルマがなかなか達成できません 昨日は午前中 整骨院に行き、2か月に1度通っている理髪店に行き、その帰りに巣鴨地蔵通り商店街を散策しながら帰ってきましたが、それでもやっと6800歩でした

幸い理髪店は都の営業自粛対象に含まれていません。リハツな判断と言うべきでしょうか 入口で両手のアルコール消毒を求められました 理髪用の椅子は5つありますが、使っているのは1つおきの3つだけで「バーバー・ディスタンシング」をとっていました 2か月前には想像も出来ない寂しさでした 大通りにある銀行のキャッシュ・ディスペンサーには、建物に入りきれない人たちが「バンク・ディスタンシング」をとって並んでいました 「おばあちゃんの原宿」地蔵通り商店街は毎月4のつく日、4日、14日、24日は縁日で、商店街の道路には所狭しと屋台が並べられ、顔の踏み場もない、もとい、足の踏み場もないほど混雑していますが、昨日 24日は4のつかない日よりも少ない人通りで、思わず美空ひばりの「愛燦燦」を即興で替え歌にした歌を口ずさんでしまいました

  街  閑散と~  この身に沁みて~ 

わずかばかりの  マスク買えずに  恨んだりして~ 

コロナは  くやしい  憎らしいものですね~ 

それでも  客たちは マスク求めて歩く~ 

人生って  空しいものですね~   

笑いごとではありませんぞ

ということで、わが家に来てから今日で2033日目を迎え、トランプ米大統領は23日の記者会見で、CNNが報道した北朝鮮の金正恩委員長の健康不安説について「フェイクニュースだ」と語った  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     金委員長から受け取ったという「素晴らしい書簡」はどんな内容だったのかな?

 

         

 

昨日、夕食に「鶏の唐揚げ」を作りました いつものように栗原はるみ先生のレシピによる「うまみ醤油」に漬け込んだ鶏もも肉を揚げたので、とても美味しかったです

 

     

 

         

 

昨日はプッチーニのオペラ「トゥーランドット」が初演された日です この曲はジャコモ・プッチーニ(1858‐1924)が1921年から24年にかけて作曲しましたが、第3幕の途中でプッチ―二が死去したことから未完に終わりました 第3幕後半は弟子のフランコ・アルファーノが草稿に基づいて補筆・完成、1926年の4月25日、ミラノ・スカラ座でアルトゥーロ・トスカニーニの指揮により初演されました

この曲が日本で脚光を浴びるようになったのは2006年のトリノ・オリンピックの時でした 開会式でルチアーノ・パヴァロッティがこのオペラの第3幕冒頭のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」を歌い、フィギュア・スケートで荒川静香がその曲に乗って演技して優勝した時です イナバウアー、懐かしいですね

ところで、このオペラは 伝説の時代の北京が舞台で、放浪の王子が絶世の美女トゥーランドット姫に魅せられ、姫が出す3つの謎に挑戦するというストーリーですが、3つとも正解なら結婚、1つでも外れたら斬首という 姫に圧倒的に有利な条件設定になっています   姫はよほど結婚したくないようです

突然ですが、ここでクイズです 姫が出した3つの謎は次の通りですが、それぞれ 答えは何でしょうか

【第1問】 暗い夜に虹色の幻影が飛んでいる。それは暗い人類の無限の上に翼を広げ昇っていく。人はみなこれに祈り、人はみなこれに憧れる。しかしその幻影は人の心に蘇るために夜明けには消えてしまう! そして夜ごとに生まれ そして日ごとに死ぬ!

【第2問】 炎のように揺らめきながら炎ではない! 時には我を忘れることもある! 激しい熱を持って燃え上がる時もある! しかし、安逸がそれを無気力に変える時もある! もしも打ちのめされたり、死んだりすれば冷たくなってしまう! もしも勝利を夢見る時は燃え上がる。その声は微かにお前に聞こえるだけ! そして、それは夕陽の輝きのように煌めくのだ!

【第3問】 氷はあなたに火を与え、その火からさらに冷たい氷を得る! 純白で暗い! もしも彼女があなたを自由にしたいと思えば奴隷にするだろう。もしもそれを受け入れるなら、彼女はあなたを国王にするだろう! 火と変わる氷は何か?

(答えはこのブログの最後にあります)

 

         

 

三島由紀夫著「文章読本」(中公文庫)を読み終わりました 三島由紀夫は1925年東京生まれ。学習院高等科を経て東京帝国大学法律学科を卒業。在学中に処女創作集「花ざかりの森」を刊行。1947年大蔵省に入り、翌48年退官。1949年に刊行した「仮面の告白」で名声を確立し、以後、文筆活動に専念する 「潮騒」で新潮社文学賞、「金閣寺」で読売文学賞を受賞など数多くの文学賞を受賞 1968年「楯の会」を結成し、1970年自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決

 

     

 

この本は、「婦人公論」昭和34年1月号の別冊付録の形で刊行されたものを同年6月に中央公論社から単行本として刊行、さらに昭和48年8月に中公文庫として刊行したものです

この本は次の8章と質疑応答から構成されています

第1章「この文章読本の目的」

第2章「文章のさまざま」

第3章「小説の文章」

第4章「戯曲の文章」

第5章「評論の文章」

第6章「翻訳の文章」

第7章「文章技巧」

第8章「文章の実際ー結語」

附   「質疑応答」

三島由紀夫がこの本を書いた目的は第1章「この文章読本の目的」の中で明確に書かれています 三島はアルベール・チボーデの用語を借りて、文学の読者を「普通読者」と「精読者」の2つに分類し、これまで普通読者(小説といえば何でも手当たり次第に読むような者)だった人々を精読者(本当に小説の世界を実在するものとして生きていくほど、小説を深く味わう読者)に導くのが自分の役割であると宣言しています その上で、第2章以降、文章の種類やその表現方法などについて具体例(著名な作家の作品など)を交えながら解説しています 言わば、これから作家になりたいという人に向けた実用的な文章入門書として書いたということです

私自身としては、別に作家になろうという大それた気持ちはなく、少しでも豊かな文章表現ができるようになればいいなと思って購入したのですが、内容的には大学の文学部あたりで習うような高度なもので(もっとも、文学部の授業を聴講したことがないので、本当のところは分かりませんが)、読むのに相当苦労しました

そんな中、気になった文章をいくつかご紹介します

第3章「小説の文章」の中で、三島は「良い文章」のお手本として森鴎外の「寒山拾得」と泉鏡花「日本橋」の一節を抜粋して紹介しています 無教養な私はいずれも読んでおりませんが、三島は「鴎外の文章は短編小説の文章であり、鏡花の文章は長編小説の文章だ」と書いています。これを読んだ私は、「これはクラシック音楽にも共通するのではないか」と思いました 例えば、モーツアルトのピアノ・ソナタやベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタなどを聴くときは、「それほど長くはかからない音楽だ」と思う反面、マーラーやブルックナーなどの交響曲を聴くときは、「この楽章だけで30分位はかかりそうだ」とか思います これは私が実際にそれらの曲がどのくらいの演奏時間を要するかを経験から知っているからではなく、作品そのものに内在しているものだと思います 文学に言い換えれば、モーツアルトやベートーヴェンは短編小説の音楽であり、マーラーやブルックナーは長編小説の音楽であるということです

第5章「評論の文章」の中で、三島は「評論家は、いわゆる文体を作ることがなかなかできませんでした しかし一人の天才が日本における批評の文章というものを樹立しました」として、小林秀雄を紹介しています。そして、「小林秀雄の文体の特徴は、ヴァレリーと同じようにあくまで論理的でありながらも、日本の伝統の感覚的思考の型を忘れずに固執したという強さであります」と書いています そして、最後に「美の前には 沈黙しかない」という小林秀雄の「モオツァルト」の有名な一節を紹介しています 新潮文庫「モオツァルト・無常という事」はこれまで何冊買って何冊捨てたか思い出せまん 気になったフレーズに線を引き、それを捨て、また新しい本を買って線を引き、それを捨て、ということを繰り返してきました 線が残っていると、新鮮な気持ちで読めなくなるからです 私にとってこの本はモーツアルトを聴く時のバイブルでした

 

     

 

第8章「文章の実際ー結語」の中で、三島は「私はブルジョワ的嗜好と言われるかもしれませんが、文章の最高の目標を、格調と気品に置いています 例えば、正確な文章でなくても、格調と気品がある文章を私は尊敬します」とし、「具体的に言えば、文章の格調と気品とは、あくまで古典的教養から生まれるものであります そうして古典時代の美の単純と簡素は、いつの時代にも心をうつもので、現代の複雑さを表現した複雑無類の文章ですら、粗雑な現代現象に曲げられていないかぎり、どこかでこの古典的特質によって現代の現象を克服しているのであります 文体による現象の克服ということが文章の最後の理想であるかぎり、気品と格調はやはり文章の最後の理想となるでありましょう」と結んでいます

格調も気品もない駄文を書き綴っている私にはキツイ「結語」ですが、それが三島文学の美学なのだと思います

         

【クイズの答え】①希望、②血潮、③トゥーランドット姫

オペラ好きの方には簡単でしたね

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オーケストラの危機 ~ NHK「クローズアップ現代+」(4月22日)を観て思うこと / 山田ルイ53世が語る「ツッコミ役 周りにいれば」~まさかのマスク2枚:朝日の記事から

2020年04月24日 07時19分39秒 | 日記

24日(金)。昨日の朝日新聞朝刊 オピニオン面「耕論  まさかのマスク2枚」で お笑い芸人・山田ルイ53世さんが、新型コロナウイルス対策で安倍政権が打ち出した「布マスク2枚の全世帯配布」に関して、インタビューに答えています 超訳すると、

「最近の首相官邸の発信には、首をかしげることが多い こんなボケのような発想が何らツッコまれることなく国民に届いてしまう。違和感がある もしかすると、安倍晋三首相の周りにはツッコミの人材がいないのでは、と心配だ いま大変なのは、医療現場だ。大阪市では医療従事者の防護服が足りず、市民から雨がっぱを集めたそうだ。まずは、病院に医療器材をめいっぱい回すと、大きな声で言ってほしかった 星野源さんの『うちで踊ろう』の動画コラボをめぐる騒動も、首相の周辺はだれもツッコまかったの?と不思議でならない 首相のあの姿をSNSで見せられたら、日々の資金繰りに追われている私たち庶民の目にはどう映るだろうか。誰でも簡単に想像がつくことではないか 早速、『安倍首相は貴族か!!』とスポーツ紙の1面にデカデカと見出しが躍った。自称『貴族』の自分としてはくやしい限りだ 政府は国民一人当たり10万円支給することを決めた。願わくば、政治家にはもう少し早くツッコミに励んでほしい

なかなか鋭いツッコミだと思います 安倍首相の取り巻きはイエスマンだらけです 「安倍一強」の情勢下、次の選挙に当選したいから 誰もが首相の言うことに唯々諾々と従っている この点、トランプ大統領の周りはイエスマンだらけで、共和党議員も次の選挙で当選したいから、トランプがいくらフェイク・ニュースを流しても聞かないふりをしている、という状況に酷似しています だから「ドナルド」「シンゾー」と仲が良いのかもしれません こちらから見ると「どーなるど?」「あぁ シンゾー!」ですが

ということで、わが家に来てから今日で2032日目を迎え、トランプ米大統領は22日 「米艦隊が海上でイランの小型機から嫌がらせを受けた場合は、その全ての小型機を撃沈し破壊するよう米海軍に指示した」とツイッターに書き込んだ  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     この強気で好戦的な姿勢も 11月の大統領選を見据えた したたかな戦略なんだろう

 

         

 

昨日、夕食に麻婆豆腐を作り、餃子を焼きました 餃子はまた焼くのに失敗しました。本当は羽が付く予定でしたが跡形もありません。でも味はとても美味しかったです

 

     

     

    

         

 

22日(水)午後10時からのNHK総合テレビ「クローズアップ現代+」で「”イベント自粛”の波紋 文化を守れるのか」を放映していました    新型コロナウイルス感染拡大を受け、オーケストラ公演や演劇などライブイベント中止が相次ぎ、多くの関連企業が経営難に陥る厳しい状況にある中、業界の代表者やアーティストたちにインタビューをしています ここでは、クラシックに絞ってご紹介します

「中止・延期となったイベントは少なくとも81,000件。5月末までにライブ・エンタメ市場9,000億円の約4割が消失するという試算もある」という説明の後、画面には上岡敏之指揮 新日本フィルによるマーラーの交響曲の演奏が映し出されます 次いで新日本フィルの林豊専務理事がインタビューに答え、「このまま公演中止が続けば、公演する場すらなくなるということですから、消滅するということ、楽団を解散せざるを得ないということ、そういった文化がなくなるということですよね」と目の前に迫った危機を訴えます 演奏する側から、新日本フィルのパーカッショ二スト 石橋知佳さんがインタビュー答え「集まっちゃいけない、人と接する機会を減らさなきゃいけない だけどオーケストラって たくさんの人数が集まるものですから、真逆なんですよね、今の状況と ちゃんと復帰できるかどうかと、そう言った悩みとかかなりあります 考えるだけで胸が押しつぶされるような状況なので、自分たちとしては、技術が落ちないように待つしかない状況なんです」と語り 涙ぐみます   この発言は 石橋さんだけでなく、オーケストラで演奏するすべての人たちに共通する本音ではないかと思います  演出家の宮本亜門氏は「一番危険なのは、芸術家、工芸家たち、あらゆる文化に関わる人たちが自分で自分を否定してしまうこと。つらい長い時間になるかもしれませんが、踏ん張っていきたい なぜなら、そのあと最も必要になるのが演劇・アート・音楽・文化だと思うからです 今とても試されている、次の生き方を。文化は最も必要なものだと思っています」と語ります

この放送を観て あらためて思ったのは、第一に、いかにオーケストラというものが自転車操業的な不安定な経営状況にあるかということです 2月末から公演自粛に入り、まだ2か月も経過していないのに”経営危機”が叫ばれているからです それは、オーケストラが「人こそ財産」だからだと思います。オケのメンバーが演奏して初めて収入が得られ、人件費や経費が出て行くわけです。NHK交響楽団や読売日本交響楽団や東京都交響楽団などは、それぞれNHK、読売グループ、東京都という経済面でのバックアップ体制があるので まだマシですが、新日本フィル、東京交響楽団、日本フィル、東京シティ・フィルをはじめとする多くの自主運営オーケストラは、まさにチケット収入が総収入のほとんどであると言って良いかも知れません したがって、演奏が中止になれば延期か払い戻しを余儀なくされ、途端に経営が圧迫されることになります だからこそ、一刻も早く新型コロナウイルスが収束し コンサートができるようになることが不可欠なのです

なお、各オーケストラには会員制度や支援制度があるので、それを拡充させる努力も必要だと思います 例えば新日本フィルには特別支援企業や支援団体が7つあり、法人賛助会員が70社以上あります。こういう時こそ、これらの支援企業は今まで以上のサポートをしてほしいと思います

第二に、政府は文化活動への理解と共感を持ったうえで、今回の危機を乗り越えるために資金援助を惜しまないでほしいということです その際、オーケストラは「人こそ財産」であることに鑑み、人に対する援助をしてほしいということです

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パレルモ・マッシモ劇場来日公演中止 ⇒ 1年後に延期 / B.C.J 5月公演12月に延期 / 向田邦子とミリー・ヴァーノン「スプリング・イズ・ヒア」 ~ エッセイ「水羊羹」から

2020年04月23日 07時26分29秒 | 日記

23日(水)。「コンサートドアーズ」のホームページによると、6月に来日予定のパレルモ・マッシモ劇場公演は、新型コロナウイルス拡大の影響により中止、1年後の2021年6月に延期となりました 私はランカトーレの歌うベッリーニ「ノルマ」公演(6月19日・東京文化会館)を聴く予定でした 「ノルマ」が聴けるなら1年後でもいいかな、と思って詳細を見ると、上演演目も出場歌手もまったく違っているのです

2020年6月18日「ナブッコ」 ⇒ 2021年6月17日「ラ・ボエーム」

 〃 6月19日「ノルマ」  ⇒ 〃 6月18日「仮面舞踏会」

 〃 6月20日「ナブッコ」 ⇒ 〃 6月19日「ラ・ボエーム」

 〃 6月21日「ノルマ」  ⇒ 〃 6月20日「仮面舞踏会」

 〃 6月23日「ガラ・コンサート」 ⇒ 〃 6月22日「ガラ」

歌手陣はランカトーレ、エヴァ・メイ、グレギーナ、カサロヴァ等が降り、ゲオルギュー、グリゴーロ、フリットリなどが出演するようになっています 一方、チケット代は各ランクとも数千円高くなっています これについては「今回の公演は出演者の違いにより料金が異なりますが、追加料金なしで振替公演をご鑑賞いただけます」と書かれています   延期のドサクサに紛れてチケット代を上げて「払い戻すよりも 振り替えた方が得ですよ」とアピールする意図が見え隠れしていますが、厳しい情勢下 どこも大変でしょうからあまり文句は言えません

いずれにしても、私にとっては「ノルマ」が聴けないのならいくら格安でも意味がありません   払い戻しをしてもらうことにしました 払い戻しの受付は5月11日~6月10日となっています。忘れないようにしなければ

また、バッハ・コレギウム・ジャパン(B.C.J)のホームページによると、5月24日(日)午後3時から東京オペラシティコンサートホールで開演予定の「第138回定期演奏会:創立30周年記念」は中止とし、12月に延期する方向で会場その他を調整中とのことです    日程等 詳細が決まり次第HPその他で公表するとしています

ということで、わが家に来てから今日で2031日目を迎え、来夏に延期になった東京五輪・パラリンピックの追加経費について、国際オリンピック委員会(IOC)は20日、「安倍晋三首相が現行の規約に沿って日本が引き続き負担することで合意した」との見解を公式サイトで発表したが、大会組織委員会は21日、掲載内容を否定しIOCに削除を要求、その後IOCのサイトから消えた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

                     世論調査で安倍内閣を支持しない理由の常連第1位「人柄が信用できないから」

 

         

 

昨日、夕食に山陰地方から届いたアジを塩焼きにして、カツオのたたき、アサリの味噌汁と一緒にいただきました 肉料理に偏りがちなので 魚料理を増やさなければと思っています

 

     

 

         

 

昨日、当ブログでご紹介した向田和子編「向田邦子ベスト・エッセイ」の中に出てくる「水羊羹」について書きます

「水羊羹」はエッセイ集「眠る杯」に収録されている4ページの短いエッセイです 冒頭で「脚本家というタイトルよりも、味醂干し評論家、または水羊羹評論家というほうがふさわしいのではないかと思っております」と見得を切り、水羊羹に関するウンチクを傾けます 曰く「水羊羹の命は切口と角である」、「宵越しさせてはだめ」、「香り高い新茶でいただく」、「お代わりをしては駄目」、「クーラーでなく自然の風の中で」、「BGMはミリー・ヴァ―ノンの歌う『スプリング・イズ・ヒア』か、ベロフの弾くドビュッシー『版画』が良い」etc.

これを読んだ私は、俄然、ミリー・ヴァ―ノンの歌う『スプリング・イズ・ヒア』とはどんな曲かが気になって、夜も寝ないで昼寝をしました    さっそくCDショップに飛び込んで買ったのが「MILLI  VERNON  『Intriducing』」(1956年2月録音)です  

 

     

     

 

向田邦子はミリー・ヴァ―ノンについて、「この人は1950年代に、たった1枚のレコードを残して、それ以来、生きているのか死んだのか全く消息の判らない美人の歌手ですが、冷たいような甘いような、けだるいような、なまぬるいような歌は、水羊羹にぴったりに思えます」と書いています

CDの「解説」を音楽ライターの高田敬三氏が書いていますが、エッセイ「水羊羹」は1977年の「クロワッサン誌」に掲載され、後に「眠る杯」に収録されたとのことです 高田氏は2004年の夏に雑誌の仕事でニューヨークに行った際、そのミリー・ヴァ―ノンに会ったそうです 彼女は車椅子生活だったが 元気で、元ドラマーの夫のサポートを受けながら生活していたとのことです

「スプリング・イズ・ヒア」はアルバムの3曲目に収録されています 曲目解説によると、この曲はロレンツ・ハート作詞、リチャード・ロジャース作曲、1938年のミュージカル「アイ・マリード・アン・エンジェル」の中のナンバーで、「春が来たけど 心は弾まない。恋人がいないから」という 春の憂鬱を歌った楽曲です

実際に聴いてみると、バラード調のメロディーを歌うミリー・ヴァ―ノンのグルーミーな声は、「けだるいような、なまぬるいような」雰囲気をまとっていましたが、冷たさは感じませんでした

この曲はかつて、NHKの向田邦子の特番でも取り上げられたり、彼女の遺品展でも流されたりしたことから、このレコードが評判になり、中古レコードも値段が暴騰したそうです 向田邦子がエッセイで取り上げなければ、ミリー・ヴァ―ノンは日本で知られることはなかったかもしれません

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向田和子編「向田邦子ベスト・エッセイ」を読む ~ 「である調」による男性的で独特なリズムを持った文章の魅力を満喫する

2020年04月22日 07時18分05秒 | 日記

22日(水)。わが家に来てから今日で2030日目を迎え、新型コロナウイルス対策担当の西村康稔経済財政・再生相は21日の記者会見で、パチンコ店を対象に休業要請の強化を検討していると明らかにした  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     そろそろ強化してもいいコロナと思った? とっくに強く要請してると思ったよ

 

         

 

昨日、夕食に「ちぎり厚揚げと豚バラの和風炒め」を作りました 本当は炊き込みご飯に合うのですが、今回は白米でいただきました

 

     

 

         

 

向田和子編「向田邦子ベスト・エッセイ」(ちくま文庫)を読み終わりました 向田邦子は1929年東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒。出版社の記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など。1980年「花の名前」等で第83回直木賞受賞 主な著書に「父の詫び状」「思い出トランプ」「あ・うん」などがある

 

     

 

向田邦子の作品は小説、脚本、エッセイなどほとんどすべて読んでいます 数年前 CD置き場の確保のため900冊ほどの本をBOOKOFFに売り飛ばした際には、クラシック関係の書籍、星新一のショートショート(息子が小学生5、6年生の時 全作品を読み切った)とともに本棚に残しておきました

私が向田邦子の作品を読むようになったのは、娘が向田さんの出身校である実践女子の高校に推薦入学したのがきっかけです 最初に読んだのは「父の詫び状」でしたが、彼女独特の文章表現の魅力にはまってしまい、それから彼女の作品を片っ端から読み進めていきました

この本に収録されているのは、向田邦子の末妹・和子さんと、この本を企画した杉田淳子さんが、これまで出版されたエッセイ集「父の詫び状」「眠る杯」「無名仮名人名簿」「霊長類ヒト科動物図鑑」「夜中の薔薇」「女の人差し指」「男どき女どき」の中から50篇の珠玉のエッセイを選び出し、「家族」「食いしん坊」「犬と猫とライオン」「旅」「仕事」「私というひと」という項目に分けて編集したものです

これらの作品は少なくとも1度は読んだはずですが、かなり前に1度読んだきりのエッセイは内容をすっかり忘れていて、初めて読んだような新鮮な驚きがありました 私は本を読んでいて 特に気に入った文章や気になるフレーズがあると、本の上の角を折る(犬の耳のように見えることから「ドッグイヤー」と呼ばれる)癖があるのですが、この本でも自然とそれをやっていて、読み終わったらドッグイヤーだらけで、いかにこの本が気に入ったフレーズに溢れているかがあらためて分かったように思います

思わず引き込まれてしまう向田邦子の文章の大きな特徴は、「ですます調」ではなく、「である調」で書いていることです この本に収録された50篇だけを取り上げて見ても、「ですます調」で書かれているのは「マハシャイ・マミオ殿」「ないものねだり」「1杯のコーヒーから」「花束」くらいしかありません それ以外はすべて「である調」です。極めて男性的で断定的な書き方と言っても良いかもしれません。そして、その文体は小気味の良いリズムを持っています これが向田邦子の文章スタイルの大きな特徴です さらに、もう一つの大きな特徴は そこはかとないウィットがあり、最後の1行で読者を唸らせることです。それは、時に大笑いを呼び起こします 「中野のライオン」はその典型でしょう。電車の中で読まなくて良かったと思います

エッセイに書かれているのは、自分の家族や転勤先の学校の友達や先生たちとの思い出などが中心ですが、向田邦子という人は、よほど記憶力が良いのだと思います それだけでなく、小学生の頃から人間観察力が並外れていたことが分かります さらに、それを自分自身の言葉で語り、読者に共感させる能力を備えています 彼女の文章は真似しようと思っても真似できない独特のスタイルを持っています

エッセイ集「眠る杯」に収録された「水羊羹」は、「私は・・・脚本家というタイトルよりも、味醂干し評論家、または水羊羹評論家というほうがふさわしいのではないかと思っております」と本人が書いているように、水羊羹の正しい食べ方から、食べる時のBGMに至るまでの蘊蓄を傾けていますが、これについては、音楽が絡んでいる話なので、後日あらためて書いてみたいと思います

エッセイ集「霊長類ヒト科動物図鑑」に収録された「ヒコーキ」は、「スチュワーデスの方に一度本音を伺いたいと思っていることがある。あなたがたは離着陸のとき本当に平気なのですか。自転車や自動車が走り出すときと全く同じ気持ちなのですか。ノミが食ったほどにも、こわいとは感じないのですか」という書き出しから始まります そして、25年くらい前、大阪に行く時に友人が話してくれたエピソードを紹介します 「いざ離陸というのでプロペラが廻り出した。一人の乗客が急にまっ青な顔になり、『急用を思い出した。おろしてくれ』と騒ぎ出した。『今からおろすわけにはいきません』。止めるスチュワーデスを殴り倒さんばかりにして客はおろしてくれ、おろせと大暴れして、遂に力づくで下りていった そのあと飛行機は飛び立ったが、離陸後すぐにエンジンの故障で墜落した。客は元戦闘機のパイロットであった」。この話を聞いて大阪行きの飛行機に搭乗した向田邦子は「プロペラが廻り出すと胸が絞めつけられるようになった」と不安に襲われましたが、無事に大阪に着いたそうです 「このときの気持ちが尾を引いているらしく、私はいつまでも離着陸のときは平静でいられない」と書いています

1981年8月22日、台湾・台北松山空港発高雄行きの遠東航空103便(ボーイング)が台北を午前9時54分に離陸して14分後、台北の南南西約150キロメートルを巡行中に突然空中分解し山中に墜落した。この事故で乗員6名、乗客104名の合わせて110名が死亡した。原因は機体の金属疲労と言われている

この日が向田邦子の命日となりました。享年52歳。その才能を思う時、あまりにも早すぎる死でした 離陸の時、彼女はどんな思いを抱いていたでしょうか

 

     

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井上ひさし著「十二人の手紙」を読む ~ 手紙に隠された十三の仕掛け

2020年04月21日 07時18分51秒 | 日記

21日(火)。わが家に来てから今日で2029日目を迎え、トランプ米大統領は18日の記者会見で、北朝鮮の金正恩委員長から「素晴らしい書簡」を最近受け取ったことを明らかにしたが、北朝鮮は19日に外務省対外報道室長の談話を発表し、「最近、北朝鮮最高指導者は米大統領にいかなる手紙も送っていない。朝米首脳の関係は余談のように持ち出す話題ではない」とするコメントを発表したというニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

       フェイクを平気で言いふらして 国の信用を失墜させるのがトランプの悪い癖だ

 

         

 

昨日は寒かったので、夕食に「クリームシチュー」と「生野菜サラダ」を作りました。シチューは鶏もも肉を使いました

 

     

 

         

 

井上ひさし著「十二人の手紙」(中公文庫)を読み終わりました 井上ひさしは1934年生まれ。上智大学フランス語科卒。「ひょっこりひょうたん島」など放送作家として活躍後、戯曲・小説などの執筆活動に入る。小説では「手鎖心中」で直木賞、「吉里吉里人」で日本SF大賞および読売文学賞受賞など、数々の文学賞を受賞 戯曲では「道元の冒険」で岸田戯曲賞を受賞するなど受賞多数

 

     

 

この本は「婦人公論」1977年1月号から1978年3月号まで連載した短編小説を、1978年6月に刊行したものです この本は次の短編小説から構成されています

「プロローグ 悪魔」

「葬送歌」

「赤い手」

「ペンフレンド」

「第三十番善楽寺」

「隣からの声」

「鍵」

「桃」

「シンデレラの死」

「玉の輿」

「里親」

「泥と雪」

「エピローグ 人質」

これらの短編は「赤い手」を除き、最初から最後まで複数の人物の手紙の文面によって書かれています 「赤い手」だけは主人公の女性の「出生届」「転入届」「洗礼証明書」などの届出書類が羅列され、最後に女性の手紙が登場します

いずれの作品も、巧妙な”仕掛け”が施されていて、読み終わった後に「してやられた」と思うのです。扇田昭彦氏による「解説」を読むと、「かつて井上ひさし氏は、氏の戯曲の上演に際して、『芝居は趣向。これが戯曲を執筆するときの私の、たったひとつの心がけである。芝居においては、一が趣向で二も趣向、思想などは百番目か百一番目ぐらいにこっそりと顔を出す程度でいい』と書いたことがあるが、この『十二人の手紙』でも、趣向家としての井上氏の面目は躍如としている」と書かれています 言うまでもなく、その「趣向」(仕掛け)は作品によって異なります

例えば、最初の「プロローグ 悪魔」は、故郷から単身で上京し小さな商事会社で働くことになった柏木幸子が、両親や弟・弘や恩師の上野先生や友人の光代に当てた手紙で構成されています 最初のうちは、ほのぼのとした気持ちで読み進めていくのですが、途中から”何でも言える間柄”の光代に当てた手紙の内容に大きな変化が現れます 実は妻子ある社長・船山太一と愛し合うようになったという内容に。そして社長夫婦が自分のことを「悪魔」と呼んでいることを知り、彼らの子どもの首を絞めたという内容に

「シンデレラの死」は、高校を中退して地元の新潟県長岡市を飛び出した塩沢加代子と、恩師の青木貞二先生との手紙のやり取りが綴られていますが、最後に登場する四谷警察署の警察官の手紙を読んで、読者は愕然とします。「してやられた」と この作品は極めて戯曲的と言っても良いかもしれません

「玉の輿」は主人公の長田美保子が酒造会社に嫁ぎ、死産のうえ離婚するまでが、恩師の高橋忠夫先生に宛てた手紙や「結婚挨拶状」など13通の手紙で綴られていますが、このうち11通は巷に流布している手紙の「例文集」からの引用だというオチに、またしても「してやられた」と愕然とします

そして筆者の”仕掛け”は最後の「エピローグ 人質」で集大成を迎えます ここでは、これまでの12の物語に登場した人物たちが、米沢市のホテルに閉じ込められた人質となって再登場するのです さらに、その犯人は「プロローグ 悪魔」に登場した人物だったのです。彼は身内の敵をとるため、その相手を含めた宿泊者全員を人質に取ったのでした 彼が相手を追い詰めていくプロセスはほとんどミステリー小説です もっとも、それを言うなら、この本に収められた全ての小説が極上のミステリー小説と言うべきでしょう

 

     

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