29日(土)。わが家に来てから323日目を迎え,新国立競技場の予算が最終的に決定して一安心するモコタロです
やれやれ やっと決まったか! 一時はどうなるかと思ったよ
閑話休題
昨夕、初台の東京オペラシティ・コンサートホールでアジア・ユース・オーケストラ(AYO)東京公演第1夜を聴きました プログラムは①バッハ「トッカータとフーガ ニ短調」、②ショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番変ホ長調」、③マーラー「交響曲第4番ト長調」で、②のチェロ独奏はスティーヴン・イッサーリス、③のソプラノ独唱は坂井田真実子、指揮はジェームズ・ジャッドです
アジア・ユース・オーケストラは1987年に巨匠ヴァイオリニスト,ユーディ・メニューインと指揮者リチャード・パンチャスによって設立され,1990年から本格的に活動し,今年が25周年に当たります 会場入口ではプログラムとともに記念バッチが配られました
自席は1階21列10番,左ブロック右通路側です.会場は8割方埋まっている感じでしょうか それよりも,ビックリしたのはステージ上のカオスです.これ以上は乗り切れないほど多くの若者たちが舞台狭しと配置に着き,各々の練習をしています アジア・ユース・オーケストラ(AYO)はアジア各国で厳しいオーディションを通過し,3週間のリハーサル・キャンプ(夏期講習)に続いて3週間の演奏ツアーを挙行する17歳から27歳までの若者たち103人の集まりです
100ページにも及ぶフルカラーの立派なプログラムに掲載されたメンバー表で国別に人数を数えてみると,多い順に台湾29人,中国26人,香港17人,日本13人,フィリピン,シンガポール各4人,タイ3人,韓国,ベトナム各2人,インドネシア,マレーシア,マカオ各1人といったように,中国大陸からの参加者が多数を占めています 男女比では男子56対女子47という比率です.男女とも上はダーク・グレイのシャツ,下は黒のパンツ(男),黒のロングスカート(女)で統一しています
オケは左奥にコントラバス,前に第1ヴァイオリン,右にチェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリンという対向配置をとります コンマスは女子です.多分,中国出身者ではないかと推測します.AYO首席指揮者ジェームズ・ジャッドがタクトなしで登場します.思わず「待ってました,ポール」と声をかけそうになります.遠くから見るとビートルズのポール・マッカートニーに風貌が良く似ているのです
1曲目はバッハ「トッカータとフーガ ニ短調」です この曲はもともとオルガンのために書かれたものですが,アメリカの大指揮者レオポルド・ストコフスキーがオーケストラ用に編曲した版によって演奏されます.冒頭から100人による音の風圧が客席に押し寄せてきます マスの力に圧倒されます.この規模の演奏は迫力が違います
「対向配置」,「ストコフスキー」ということで思い起こすのは,もともとヨーロッパでオーケストラがクラシック音楽を演奏する時は,第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる「対向配置」を取っていたのですが,アメリカの巨匠ストコフスキーが初めて,向かって左サイドを高音を受け持つヴァイオリン・セクションで固め,右サイドに中・低音を受け持つヴィオラ,チェロ,コントラバスを配置したのです
当時,レコード録音がモノラルからステレオに変わる端境期にあり,ステレオ装置の左のスピーカーから高音部(ヴァイオリン)が,右のスピーカーから中・低音部(ヴィオラ,チェロ,コントラバス)が聴こえるように,楽器の配置を並べ変えたのです ちょうどピアノの鍵盤と逆の配置になるように 現在は,「対向配置」をとる指揮者が多くなっているようですが,”原点回帰”の現象が起きているのかも知れません
さて,弦楽器も管楽器も縮小し,チェロの演奏台がセンターに運ばれます.AYOの公演ではお馴染みのスティーヴン・イッサーリスがジャッドとともに登場し,さっそく2曲目のショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番」の演奏に入ります
冒頭,人をおちょくったようなメロディーがイッサーリスのチェロから紡ぎ出されます イッサーリスはチェロを自分の手足のごとく自由自在に扱います.弓は右手の延長ではないかとさえ思えてきます 出てくる音楽はいかにもショスタコーヴィチのアイロニカルなメロディーで,音の表情が豊かです 第2楽章ではチェロが泣いていました.その後の長いチェロ独奏はイッサーリスの独壇場です.物語を語っているかのようでした
会場一杯の拍手とブラボーに,イッサーリスはアンコールに応えました 聴いた感じでは,同じ作曲家ショスタコーヴィチか,あるいは曲想がプロコフィエフのようだったので,そのどちらかだろうと見当を付けました.後でロビーの掲示で確かめると「プロコフィエフの”マーチ”」と書かれていました
15分の休憩後はマーラーの交響曲第4番です.ここでまたオケが拡大し,フル・オーケストラで臨みます あまりにもステージが窮屈そうなので,第4楽章で歌うソプラノ歌手はいったいどこで歌うのだろうか,と心配になってきました ステージがダメなら2階のオルガンの下か,などと勝手に想像していました
第1楽章冒頭が,予想よりもゆったりしたテンポだったので,「このテンポで大丈夫かな?間延びしないかな?」と心配になりましたが,そこはマーラーを得意とするジャッド.次第にテンポ・アップして安心させてくれました 第1楽章と第2楽章を中心にコンマスがヴァイオリンを独奏する部分がありますが,音が大きく,演奏がちょっと大げさではないか,と思いました.しかし,次の瞬間,100人のオケをバックに独奏するのだから,大げさと思われるくらい大きな音で演奏しなければオケに負けてしまうだろう,と思い直しました.素晴らしい演奏でした
この曲の白眉は第3楽章「静かに,少しゆるやかに」でしょう この楽章でも,ジャッドは極めて遅いテンポ設定で曲を進めました.私はここでも「大丈夫かな・・・・」と心配しましたが,何とかクリアしました.とくにオーボエを中心にクラリネット,ホルン,ファゴット,フルートといった管楽器群が素晴らしく,弦楽器の奏でるメロディーをしっかり支えました
第3楽章が終わりを告げ第4楽章に移る時,ティンパ二が連打されますが,ちょうどその時,ステージの左の扉が開き,ソプラノの坂井田真実子が白いドレスに包まれて登場,チェロの後ろ,ハープの前あたりにスタンバイしました 2階のパイプオルガン下という予想は外れました
坂井田は国立音楽大学出身で,イタリアのボローニャ王立音楽院で研鑽を積んだソプラノです 軽快なオケの序奏に続き「われらは天上の喜びを味わい~」と歌い始めると,もうそこはマーラーの世界です.音楽の都ウィーンでも研鑽を積んだこともあって,素晴らしい歌声でした
この曲は静かに静かに終わるのですが,ジャッドは最後の一音が鳴り終ってから,しばしタクトを下ろさず,両手を挙げたままの姿勢を保っていました.そして,おもむろにタクトを下ろすと,会場から大きな拍手が巻き起こりました あるいは,半数の人は,この曲が終わったことを認識できず,拍手を控えていたのかもしれないな,と思ったりしましたが,そんなことはどうでも良く,とにかく「待ってました!」とばかりにブラボーや拍手が巻き起こらなくて良かったと思います 最後の音が消えてから指揮者のタクトが下りるまでの瞬間こそが,クラシックを聴く醍醐味だからです
AY0メンバーの皆さん,素晴らしい演奏でした.一人一人に大きな拍手を送ります
さて,今夕も東京オペラシティコンサートホールに行きAYOの第2夜公演を聴きます.ベートーヴェンの「第9」が演奏されますが,あの狭いステージのどこに100人近くの合唱団を配置するのか興味津々です