31日(日)。わが家に来てから234日目を迎え,ご主人の晩酌に付き合うモコタロです
発泡酒ばかりじゃなくてさ たまには本物のビールにしてよ!
閑話休題
昨日、すみだトリフォニーホールで新日本フィルの「新クラシックへの扉」コンサートを聴きました プログラムは①モーツアルト「歌劇”イドメネオ”序曲K.366」、②同「ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595」、③エロール「歌劇”ザンパ”序曲」、④ボワエルデュー「歌劇”バグダッドの太守”序曲」、⑤オーベール「歌劇”フラ・ディアボロ”序曲」、⑥オッフェンバック「”天国と地獄”序曲」です 指揮は下野竜也、②のピアノ独奏は菊池洋子です
自席は1階11列25番,センターグロック右から2つ目です.後方に空席が目立ちますが,このシリーズは金・土の2日連続公演で,平日割引がある金曜公演の方が聴衆が多いのではないかと推測します
コンマスは豊嶋泰嗣.ポピュラーなオペレッタ序曲集に豊嶋コンマスの登場とは,新日本フィルの力の入れようが伝わってきます ステージ上には2曲目のピアノ協奏曲用のグランド・ピアノが蓋を閉めた状態で置かれています.指揮者・下野竜也が登場,さっそく1曲目のモーツアルト「歌劇”イドメネオ”序曲」が開始されます 冒頭の力強い堂々たる音楽は彼の歌劇「ドン・ジョバンニ」序曲を思い起こさせます オペラの筋書きは,愛し合いながらも”運命”のため引き裂かれたイダマンテとイリアが,イダマンテの冒険を経て結ばれるという物語です.序曲はオペラのエッセンスを表出します
ピアノの蓋が上げられ,ソリストの登場を待ちます.菊池洋子が淡いベージュのドレスで登場,ピアノに向かいます モーツアルトの最後のピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595は1791年3月頃に完成し,作曲者自身のピアノ演奏により初演されました この年の12月に彼は息を引き取ったので,結果的に晩年の作品となりました
例によってモーツアルトのピアノ協奏曲の第1楽章は序奏部が長く,主役のピアノはなかなか登場しません 菊池は序奏の間,じっとピアノに対峙し,出番を待ちます.その佇まいの美しいこと そして,いよいよピアノが女王のように登場します.2002年第8回モーツアルト国際コンクールで日本人として初めて優勝した彼女の演奏は軽やかです 第2楽章は天国の音楽です.そして歌曲「春への憧れ」のテーマを採用した第3楽章に移ります モーツアルトは,この曲の初演の時,ピアノを弾きながら,まさか自分が9か月後にこの世に別れを告げるとはよもや思っていなかったでしょう.そんなことを考えると,明るいメロディーを聴きながら,なぜか哀しくなります
休憩後は前半とはガラッと変わってフランス・オペレッタ序曲集です オケを見渡すと,先日の「室内楽シリーズ」コンサートで紹介された3人の新人がスタンバイしています.第1ヴァイオリンの古日山倫世,第2ヴァイオリンの松崎千鶴,ヴィオラの脇屋冴子です これからも応援したいと思います
最初の曲「ザンパ」序曲を作曲したエロールは,モーツアルトの死と入れ替わるように1791年にパリで生まれています 「ザンパ」という名前の海賊が主人公ですが,身代金代わりに美しい娘を要求するものの,彼女の婚約者に邪魔をされて終わるという他愛のない物語です 曲は冒頭から威勢のいい曲ですが,後半にはどこかで聴いたことのあるメロディーが聴かれます
2曲目は,ベートーヴェンとほぼ同じ時代を生きたボワエルデューによる「バグダッドの太守」序曲です 内容は,バグダッドを治める太守(長官)と婚約した娘アディーナ,彼女と相思相愛のセリーモなどが登場し騒動が起きるがハッピーエンドで終わる物語です 冒頭は静かな出だしで,途中から賑やかになってくる序曲です
曲の合間にマイク片手に下野が解説します
「今日の後半の曲は,何の脈絡もないように見えるかも知れませんが,実はすべてフランス・オペレッタの序曲で,ニ長調で書かれています 理屈抜きに楽しい曲を楽しんでいただけたらと思います 私は子供の時,ジュニア・オーケストラでトランペットを吹いていたのですが,それが私にとって”クラシックへの扉”でした 今日プログラムに載せた曲はすべてその頃に自分が演奏した曲です.リハーサル前にそう言うと団員の皆さんから反発を食らうおそれがあるので,今まで黙っていました クラシック音楽というと敷居が高いのでとっつきにくいという方もいらっしゃるでしょうが,新日本フィルの”新クラシックへの扉”シリーズはいいですね 次の曲は,パリでワーグナーと人気を争ったスター作曲家オーベールの「フラ・ディアヴォロ」です.物語は海賊たちを主人公にしたコミカルな作品です この曲は,大正時代に人気を博した浅草オペラのヒット作でもあり,劇中で歌われる『岩にもたれて(ディアヴォロの歌)』は田谷力蔵が歌ってヒットしました.ところで,まったく関係のない話ですが,浅草の通りには,由利徹,渥美清,萩本欣一など浅草で活躍した芸人たちの肖像が飾られていますが,唯一『予約中』と書かれているのがありますが,誰かご存知ですか?・・・・(ビート)タケシさんです」(会場から の声が)
演奏された「フラ・ディアヴォロ」はこのオペラのエッセンスを凝縮したような楽しいものでした 最後はオッフェンバックの「天国と地獄」序曲です.あの有名は「フレンチカンカン」で世界中に知られている曲です ところで「天国と地獄」というタイトルは日本独自の表現で,原題は「地獄のオルフェ」です
この曲はオペラの序曲ながら,管楽器,弦楽器の聴かせどころ満載の曲です 重松希巳江のクラリネット,古部賢一のオーボエ,木越洋のチェロ,豊嶋泰嗣のヴァイオリンによる独奏は流石です
客席が最大に盛り上がったところで,下野が「おかわりです」と言ってアンコールに移りました 「天国と地獄」の後半「フレンチカンカン」をもう一度演奏します.曲が終盤に移った時のことです.何を思ったか,下野がどこからともなく,チア・リーダーが両手に持つ色とりどりのボンボンを取り出して,第1ヴァイオリン奏者のS氏とT氏に手渡し,自らも両手に持って男3人でカンカン踊りを始めたのです
両手でボンボンを振り,足を上げ,ぐるっと回転し,踊りまくります.すぐそばで見ながら演奏せざるを得ないオケのメンバーは笑いをこらえるのが辛そうです 第2ヴァイオリン首席の吉村知子などは受けに受けて,演奏に支障をきたすほどです 私は思わず「第3機動隊はどうした 本所警察はまだか 騒乱罪で現行犯逮捕だ」と叫びそうになりましたが,じっと我慢しました.笑いを
それにしても,指揮者の権限は絶大ですね 家庭に帰れば養うべき家族が待っているプロのヴァイオリン奏者を,地位も名誉もかなぐり捨てさせてカンカン踊りに駆り出すのですから 二人にとっては「顔で笑って 心でカンカン」,「天国と地獄」ではなく「天国から地獄へ」だったかも知れません お陰様で”超”楽しいコンサートを体験できましたが,今回のコンサートをきっかけに二人が”ひきこもり”にならなければよいが,と心配します
「客を喜ばせるためなら手段を選ばない」という強権的なプロ意識のもと,強引に「新クラシックへの扉」を開け放った2001年ブザンソン国際指揮者コンクール優勝者・下野竜也の知られざる一面を垣間見ることが出来た貴重なコンサートでした