いくつもの夢といくつものいたわりあいが
この街を後に長い影をひいていく
長渕剛さんの『二人歩記』という曲のフレーズです。
また引っ越しするけど、いつになったら一緒に住めるの?
カノジョにそう問われて、自分を見つめている曲です。
古い曲ですが、この曲のように人やモノが増えていくプラスの引っ越しではなく、人やモノが減っていくいわばマイナスの引っ越しのときにも、この曲を思い出していました。
団地でひとり暮らしをしていた母が、姉の家に住まうことになり、部屋の片付けをしました。
母と父がこの団地に住むことになったのは17年ほど前。ちょうど私が離婚して西子を伴って生活を始めるタイミングと重なりました。
やはり結婚していたときに住んでいた部屋を片付け、がらんとした何もなくなった空間にいたときの感覚を思い出しました。
部屋の玄関を出る瞬間、ふっともう一度、部屋を見渡しました。この部屋に初めて父と母が訪れたとき、二人の目にこの部屋はどんなふうに映ったのだろう。入居に際して、何もない部屋をふたりが訪れている様子が浮かびました。
「長い間、ありがとう」
何に対してなのか、わかりませんが、自然と口に出していました。
同時に、自分自身を改めて振り返ると、あのとき西子がいなかったらまったく別の人生を生きていたような気がしています。
「ありがとう、西子」
今度は言葉には出ませんでしたが、そんな思いがよぎりました。
お彼岸に墓参りに行けませんでした。
お盆までには家の墓だけでなく、西子の墓にも行こう。
……と言いつつ、もしかしたら鳴き声のうるさい西子がいなかったほうが、いい人生が待っていたかも? なんて思ったりして。