金平正紀 協栄ジム会長と話せた日

　今から20年前の今日91年11月4日に小倉の西日本総合展示場で行われた
鬼塚勝也の世界タイトル前哨戦を観戦に行き、協栄ジムの故・金平正紀会長と
話をした日である。

　鬼塚勝也といえば私が蒲田で修行中だった88年4月にデビューしたのだが、
偶然にも4月18日のデビュー戦を観戦したのを皮切りに4試合連続で前座で
見たし全日本新人王を獲得した試合と初のメインを張った試合の6試合を生
観戦したのだった。

　私が帰郷している間に東洋王座を剥奪されたばかりの杉辰也をTKOで
下した後に日本王者になり3度の防衛に成功して世界ランキング1位にランクを
上げ、世界戦の前哨戦として出身地の小倉での凱旋興行になったわけだ。

　当日の もう1つの楽しみは金平会長が復帰していた事。
　何せ当時ですら海老原博幸から始まり西城正三・具志堅用高・上原康恒・
渡嘉敷勝男といった5人の世界王者を育てた大物で、82年に毒入りオレンジ
事件で永久追放されていたのが89年になって復帰してセコンドなどで見かけて
いたので1度会ってみたいと思っていた。
　
　興行は関東地区で鬼塚の試合が生中継されるので数試合の前座数試合の後に
鬼塚戦が行われ、それから前座試合を挟んで最後にWメインの日本Jウエルター
級タイトルマッチのスラフ・ヤノフスキー対古川真一が行われた。

　鬼塚が朴を7RTKOで下し会場が盛り上がったまではよかったが観客の半分
ぐらいが日本タイトルマッチがあるのに帰途に着き、中継の解説をしていた白井
義男と具志堅用高も手土産を手に観客席に手を振りながら会場を後にしたの
には驚いた。

　最後に行われたヤノフスキーの防衛戦は格の違いを見せ付けて挑戦者を
圧倒し、あっさりと2RでKOしてリック吉村から奪ったタイトルの2度目の防衛に
成功。

　ヤノフスキーは花道でカメラを構える私の前でファイティングポーズを取って
くれたのは嬉しかったものの、残念ながら後ろから押されて照準がズレてしまうと
いうハプニングがあった。

　興行終了後に お目当ての会長がリングサイドで関係者と話をしていたのを見計
らって近づき記念写真を頼むと
‘鬼塚じゃなくて私なんぞでいいのかね？’
と嬉しそうに応じてくれた。

　写真撮影終了後に鬼塚について‘デビュー戦から見ていて世界を取れるの
ではと思った’と告げると
‘なかなか君も見る目があるなぁ’
と言われたので、
‘私は理容師をやってますが止めてトンカツ屋を始めて
出前持ちにボクシングをさせましょうか’
と言うと
‘問題は海老原のような出前持ちが来るかですな’と大笑いされたのだった。

　金平会長の眼力は素晴らしく鬼塚が翌年4月に世界王者になったのに続き6月
には勇利アルバチャコフが93年10月にオルズベク・ナザロフが世界を獲ったし、
死ぬ間際には病室で後援者に坂田健史を‘将来世界王者になる男です’と予言
して見事に的中させている。

　凄いなと思ったのが本来ならスポンサーが付かずに海外挑戦となる勇利の挑戦
試合をミッキー・ロークの試合をメインにした興行を打ち、前座で勇利の世界戦を
組んだ事。
　
　後に氏は
‘ミッキー・ロークがホテルから会場の国技館に移動するリムジンをチャーターする
だけで1億かかるなど赤字だったけど、勇利を世界王者にするには安いものだった’
と語っていたのを聞いて、いろいろネガティブな噂はあったものの自らの教え子を
世界王者にするという執念の凄さが感じられたし だからこそ日本人だけでも6人の
世界王者を輩出する事ができたのだと思った。