「無題」
(九)―⑨
十国峠からは妻が運転を代わってくれた。彼女の運転で車はその
まま伊豆スカイラインを走った。かつて、海岸線の道路を走ったこ
とがあったが、信じられないくらい有料道路の関所があって通行料
をぼったくられて、これからはたとえ裏街道がどれほど遠回りであ
っても、二度とこの道は通らないぞと心に決めた。そして、他のル
ートを探していたら、ま、こっちも有料だけれども、一度だけなら
走ってみようと思った。大体、静岡県は有料道路が多すぎる、と思
っていたら、ついに第二東名まで造ってしまった。さながら幕藩体
制の時代に後戻りしたかのように関所だらけじゃねえか。静岡藩は
道路以外何もない。つまり、ただ通り過ぎるためだけにある藩なの
だ。助手席にふんぞり返って、ある事ない事を運転している妻に語
りかけたが、妻は、返事もせずに運転に集中していた。
(つづく)