「無題」 (九)―⑨

2012-07-22 14:02:22 | 小説「無題」 (六) ― (十)



           「無題」


            (九)―⑨


 十国峠からは妻が運転を代わってくれた。彼女の運転で車はその

まま伊豆スカイラインを走った。かつて、海岸線の道路を走ったこ

とがあったが、信じられないくらい有料道路の関所があって通行料

をぼったくられて、これからはたとえ裏街道がどれほど遠回りであ

っても、二度とこの道は通らないぞと心に決めた。そして、他のル

ートを探していたら、ま、こっちも有料だけれども、一度だけなら

走ってみようと思った。大体、静岡県は有料道路が多すぎる、と思

っていたら、ついに第二東名まで造ってしまった。さながら幕藩体

制の時代に後戻りしたかのように関所だらけじゃねえか。静岡藩は

道路以外何もない。つまり、ただ通り過ぎるためだけにある藩なの

だ。助手席にふんぞり返って、ある事ない事を運転している妻に語

りかけたが、妻は、返事もせずに運転に集中していた。


                                             (つづく)