「覇権国家・中国」
あまり仮定のことを言いたくはないが、中国は政治的にも経
済的にもそんなに持たないと思う。このまま何年にも亘って今
の経済発展を続けることなどまず出来ないだろう。いや、それ
どこか既に社会のいたるところで経済格差への不満が拡大し
ている。中国の覇権主義は国内に充満する不満を外へ吐き出
させるための装置である。それは、かつての日本帝国が辿った
道を思い起こさせる。覇権主義である限り中国が易々と主張を
取り下げることはないだろう。そして、覇権主義である限り、
まず中国の方から何らかの機会を狙って行動してくるだろう。
かつて私は、台湾がその先例になると思っていたが、すでに台
湾は経済的な利害から大陸に呑み込まれたと思う。地図を見
れば明らかで、中国の尖閣諸島への執拗な接近は台湾との間で
何らかの合意がなけばできないと思うからだ。そこで、南沙諸
島の領有権を巡る中国政府の手口が尖閣諸島でも繰り返される
という専門家の意見は頷ける。蠅でもコソ泥でも狙った獲物の
周りを何度もうろついて確かめるのは略奪者の本能である。中
国はその機会を窺がっているのは間違いないだろう。ただ、私
はこれまでの日本政府の慎重な対応がそれほど拙かったとは思
わない。確かにいくつかの不手際はあったかもしれないが、中
国に尖閣諸島を占領するための武力行使のきっかけを与えるほ
どの軽率な行動はして来なかった。石原前東京都知事が言うよ
うに、自衛隊が上陸して領有権を主張してくれた方が、中国当局
にとっては、国民の政権に向けられる批判を反日運動へとかわす
ことができて、しかも、その国内世論を背景にして強権発動もし易
かったのではないだろうか。前都知事がそれもわざわざアメリカで
発言した都による尖閣諸島の土地の買い取り話が国有化へと推
移して、中国当局による9.11の反日デモを仕掛けるきっかけを
与えた。われわれはつい目の前の対立に目を奪われてしまうが、
中国国内に目を遣れば、様々な問題が表面化していて、もし経済
状況が悪化すれば忽ち国民の不満が一気に噴出して国内は混乱
し隣国との領有権争いどころではなくなるだろう。共産党一党独裁
政権が最も恐れているのは国民による民主化運動なのだ。それは、
ソ連崩壊時のような民族国家独立の乱立さえ生まれるかもしれない。
われわれは、中国国民の反日感情を煽って領土拡大を目論む中国
政府とは面と向かって覇権を競わずに、豊かさを知った国民が民主
化と自由を求める運動で指導するであろう活動家たちや、自治権を
奪われて民族の伝統文化を蔑ろにされた自治区の指導者たちを支
援する方が、つまり、中国のゴルバチョフ、いや明日の孫文たちの
活動を支援する方が、わが国の領土領海を守るための最も効果的
な方法ではないだろうか。
(おわり)