「二元論」
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初期のハイデガーが「現存在が存在を規定する」、つまり「人間
は世界を変えてもいい」と考えたことと、転回(ケ―レ)を余儀なく
されてからはそれとは正反対に「存在が現存在を規定する」、つま
り「人間は世界の一部である」へと思想転換したことの形而上学上
の明確な根拠は存在しない。人間が世界を了解する視点に立って、
自分の思い通りに世界を作り変えてもいいのか、それとも自分は世
界の中の一部、つまり〈世界=内=存在〉として世界と共に在るべ
きなのか、の認識の選択は、世界がグローバル化(globe-al:金魚鉢‐
化)によって限界に達した近代社会において経済成長か、それとも環
境問題かへと転化される。つまり、経済成長を求めれば環境破壊が
進み、環境破壊を意識すれば経済成長が失われる。そして、そのど
ちらの選択にも明確な根拠が存在しない、とすれば、いわゆる環境
問題はハイデガーが転回(ケ―レ)を余儀なくされた、まさに根拠の
ない形而上学的二元論の延長線上にある。つまり、成長か環境かの
問題は、存在(世界)か現存在(人間)かの二元論に端を発する。
(つづく)