「ハイパーインフレ」
借金を簡単に返済するにはどうすればいいかといえば、借金を少な
くするか、或いは稼ぎを増せばいい。そんなことは解っていてもどち
らも簡単たんじゃないと言うかもしれないが、しかし、金融を握って
いる政府ならそんなことは簡単に行えるようだ。例えば、お金の価値
を暴落させて百円のモノが千円になれば、たとえ一千兆円を超える借
金も実質百兆円になる。ハイパーインフレにすれば、借金の元本その
ものはそれほど増えなくても税収が桁違いに増えて簡単に返せると言
う訳だ。ただ、当然国民貯蓄も相対的に価値を減らすので、つまり、
国民の資産で国の負債を返済することになる。私は大分以前から、政
府が国の債務を指摘される度に、国民総資産を持ち出して言い訳して
いたので、いざとなればそれで埋める魂胆に違いないと思っていたが、
いいよ現実味を帯びてきたので以下の記事を載せます。少し古い記事
で読んだ方も多くいらっしゃるとは思いますが、金融に詳しい藤巻健
史氏の提言です。
(4月18日 ロイター)
「提言:急激なインフレは不可避、
ハードランディングに備えよ=藤巻健史氏」
日本の財政問題を解決するには、もはや「インフレ税」という大
増税しかないとフジマキ・ジャパン代表取締役の藤巻健史氏(元
モルガン銀行東京支店長)は語る。
ロイターの「日本再生への提言」特集に寄せられた同氏の提言は以
下の通り。
<消費増税は時すでに遅し>
政治家の責務は、たとえ不可能だとわかっていても、問題解決に向
けて最後の最後まで努力すること。その意味で、消費増税の実現に
政治生命を賭けて臨むと宣言した野田佳彦首相の姿勢を、私は素直
に評価したい。
しかし、その努力が報われるかは別の話だ。残念ながら、政府が掲
げる5─10%程度の消費増税で、日本の財政問題は解決しない。
確かに、国の借金が今の3分の1程度だった14─15年前ならば、
なんとかできたかもしれない。財政構造改革を掲げた橋本政権の頃
には、歳出入改革による財政再建路線にはまだ説得力があった。し
かし、時すでに遅し。小泉政権の一時期を除き、放漫財政に身を任
せた日本の借金の累積残高は1000兆円超に膨れ上がり、単年度
の財政赤字は44兆円に達している。
消費増税1%分の税収はざっと2兆円程度。単年度の赤字を消費税
だけで穴埋めしようとしたら、ラフに計算しても、22%以上の税
率にする必要がある。試算の詳細は省くが、1000兆円もの大借
金を100年で返そうとすれば、さらに10%前後の引き上げが必
要となるだろう。30%以上の消費税率など、10%で大騒ぎして
いる日本国民が今すぐ受け入れるとは到底思えない。
では、どうなるのか。非常に厳しい現実だが、私は、日本に残され
た道はもはやインフレというかたちの実質大増税しかないと考えて
いる。
経済学では、財政赤字を解消するインフレを「インフレ税」と呼ぶ。
インフレで貨幣価値は下がり国家債務は実質目減りするが、同時に
汗水垂らして稼いだ国民の財産も失われる。実際には課税されない
ものの、言い方は悪いが、お上に召し上げられる(行儀よく言えば、
国民から国家への富の移転)という意味では、税と同じだ。
誤解してほしくないが、私は何も経済弱者を直撃するハイパーイン
フレを政策として掲げろと言っているわけではない。結果としてそ
こに追い込まれると申し上げている。
例えば、日本銀行の国債引き受けが政策として掲げるべきでない文
字通りの「禁じ手」であることに、私も全く異論はない。しかし、
福島第1原発事故で、高濃度の放射性物質を含む汚染水の流出を防
ぐために低濃度汚染水を放出せざるをえなかったように、その禁じ
手を使わざるをえない状況に陥るのではないかと心配している。
これほどの借金は、もはや200年をかけても返せない。いまだ歳
出カットで財政を再建できるかのように言い続けることは、はっき
り言って、無責任極まりない。
国の一般歳出の4割は社会保障関係費であり、世界に類を見ないペ
ースで高齢化が進んでいるこの国で、本当にその聖域に大きくメス
を入れられるというのか(本当にできるならば、私もハードランデ
ィングのシナリオを取り下げよう)。また、経済成長でなんとかな
るような議論も聞かれるが、景気が回復すれば金利が上がり、金利
負担増で税収増など吹き飛んでしまう。景気がどちらに転ぼうが、
財政は火の車。ハードランディングはもはや不可避なのだ。
<郵貯問題と財政赤字問題の深いつながり>
その厳しい認識の上で私の提言を申し上げれば、日本は、経済破綻
という第二の敗戦を経て「真の資本主義」に目覚めるしかないと考
えている。
海外の企業で要職を務めた経験から言わせてもらえば、日本という
国は、外から見れば見るほど、海外の人たちと話せば話すほど、中
国をしのぐ最大の社会主義国家だ。歴史が証明しているように、社
会主義国家は儲からない。この体質を修正することが一番の課題だ。
日本が社会主義国家だという理由はいくつもあるが、代表的な例を
挙げれば、ゆうちょ銀行だ。最大の銀行が「国営」とは、社会主義
そのものだ。
郵貯問題は財政赤字問題とも直結している。普通の資本主義国家な
らば、バラマキ政策を続ければ、長期金利が上がり、政治家に警告
する。ところが日本では、国民のお金を集めた国営銀行が日本国債
をどんどん買うので(投資の80%が日本国債)、まったく警戒警
報が鳴らない。政治家はいくらバラまいても痛みを感じないから、
放漫財政にどんどん拍車がかかってしまう。しかし、社会主義国家
がやがてグシャッとつぶれる運命にあることは歴史が示しているこ
とだ。
過去10年あまりを振り返って、社会主義国家から真の資本主義国
家への変革を目指した政権は、郵政改革を進めた小泉政権ぐらいだ
ろう。その郵政改革も、先日の郵政民営化改正法案の衆院通過で事
実上白紙に戻された。もはや、政治が自発的に資本主義国家への脱
皮を図れるとはとても思えない有様だ。
<国債未達が起こる可能性>
率直に言って、国債未達が起こる可能性は日増しに高まっていると
思う。
国債未達ともなれば、それは財政破綻と同義だから、円は暴落する
だろう。そして取り付け騒ぎが起きようものならば、日銀による国
債引き受けが行われるだろう。そうなれば、ハイパーインフレが結
果として引き起こされることになる(政策として掲げずとも)。
だが、絶望する必要はない。韓国の例を見てほしい。1997年に
事実上の経済破綻を経てIMFの緊急支援を受けた際に「あの国は
終わった」とも言われたが、その後の復活には目を見張るものがあ
る。理由は、ひとえにウォン安による国際競争力の向上だ。
同じことは、日本でも可能である。痛みを伴う非常に辛いプロセス
となろうが、やがて円安による国際競争力の回復で日本経済も息を
吹き返すはずだ。
そもそも今の日本の問題点は、通信簿にたとえれば、経済の実力は
「1」にすぎないのに、通貨では「5」の最高点がついていること
だ。円高とはそもそも円で売るモノ・サービス・労働力の値上げで
あり、円安とはその逆の値下げだ。不景気で値上げを継続して、儲
かるはずがない。
日本企業が米国企業の十分の1も百分の1も儲からない最大の理由
はずばり円高なのである。諸悪の根源である円高さえ修正されれば、
多くの企業の収益は改善される。日本の法人税収はざっと7.8兆
円。企業業績が10倍になれば、ラフに考えても、78兆円に跳ね
上がる。それだけで単年度の財政赤字は穴埋めできる。製造業が日
本に戻ってくれば、地方経済や若年層の雇用の問題も今よりずっと
解決しやすくなる。
むろん、政府は極端な円安政策を積極的に取ることはできない。そ
んなことをすれば、資本の海外流出を加速させ、国債未達を自らの
手で招くことになるからだ。だから、結果としてのクラッシュとな
る。クラッシュを政策というわけにはいかない。
最後に補足すれば、われわれ日本人一人ひとりにできることは、日
本経済のハードランディングを覚悟し、国際分散投資などを通じ、
来るべき嵐に備えることである。自分の身は自分で守る。くれぐれ
も運を天に任せてはいけない。
(4月18日 ロイター)
*藤巻健史氏は、フジマキ・ジャパン代表取締役。米モルガン銀行
在籍時、世界トップクラスのディーラーとして名をはせ、1995年に
当時外銀では日本人唯一となる東京支店長に抜擢された。2000年
に退社。ジョージ・ソロス氏のアドバイザーを務めた経験もある。
*本稿は、個人的見解に基づいています。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの「日本再生への提言」
特集に掲載されたものです。(here)
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