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『憲法と人権を考える集い-刑事裁判の現在~それでも冤罪は起こっている』(京都弁護士会主催)に参加する

2013-11-19 23:53:52 | 世の中の状況について

 
                【2013年11月17日(日曜日)】  京都産業会館シルクホール


 11月17日の日曜日に、京都弁護士会主催の第43回「憲法と人権を考える集い」が京都産業会館シルクホールで開かれ、参加してきた。第1部の『講演』と第2部の『パネルディスカッション』で構成され、第1部の講演は映画『それボク*1の監督である周防正行さんである。第2部では監督に加え、元裁判官で現弁護士の木谷明さん、それに『ショージとタカオ*2の桜井さんも参加するというから、是非話を聞きたいと思い、出かけた。

 註*1 『それでもボクはやっていない』の略で 2007年に公開された【痴漢冤罪】を扱った周防正行監督の映画。痴漢冤罪事件を通じて、日本の被疑者取調べと刑事裁判の、人権軽視の実態を映像化している。

       それでもボクはやっていない』の解説ページへ

 註*2 『ショージとタカオ』は、2010年に井出洋子によって制作されたもので、『布川事件』で冤罪を着せられ、刑事裁判で無期懲役の刑を受けた2人の被告が、再審請求から無罪を勝ち取るまでの経緯を追ったドキュメンタリー映画。京都では、2011年7月に『京都みなみ会館』で公開され、私はそれを観て、初めて『布川事件』とその冤罪の概要を知った。

             
               【『布川事件』の冤罪再請求裁判で無罪を勝ち取った
                 桜井昌司氏(左)と杉山卓男氏(中央)と井出洋子監督】
 

       ショージとタカオ』-公式サイトへジャンプ



 講演は対話形式で行われた。講演のテーマは『冤罪』と『刑事裁判』である。そしてそのキーワードは【取り調べの可視化】、【証拠の全面開示】、【疑わしきは被告の利益に】となる。

 周防監督は、はじめに『それボク』を作成したいきさつ語り、その中で刑事事件の実態を調査すればするほど疑問はわいてきて、“並みの”弁護士より勉強したとの経験を語る一方、「映画の影響か、痴漢冤罪事件の被疑者の勾留ケースが少なくなってきたことも感じる」と話されていた。
 同時に、氏は現在、内閣の法制審議会特別委員会の委員を務め、その中でも奮闘しているということだが、話の方向がなかなか前に向かないことが、もどかしいと言っている。
 
 たとえば、刑事事件の密室での取り調べで《自白を強要》され、冤罪事件されるケースが後を絶たないが、それを防止するには、取り調べ過程の「全面録画」が不可欠なのだが、《屁理屈》を並べて認めようとしないという。逆に、《若干の譲歩》と入れ替えに《新手の操作手法》の導入をねらい、論点をそちらに移そうと企んでいるという。それは、《監視カメラの活用》や《通信の傍受の合法化》など無視できない問題をはらんでいる。*3
 註*3 『監視カメラ』の恐ろしさや『通信の傍受』がいかにプライバシーを侵害し、個人を国家の監視下に置き、自由を奪うのかという分かりやすい実例は、映画『エニミー・オブ・アメリカ』でリアルに描かれている。



 第1部と第2部の間に行われた寸劇は、上手だった。罵声と拷問だけが自白強要の手段だとの先入観を持っていたが、そうではない《上等》手段も持っているのだ。
 そういえば以前、周防監督の『終の信託』を見たとき、今思えば少し的外れの評を書いてしまった。大沢たかおの演じる検察官が、草刈民代が演じる医師を《殺人罪》と認めさせ、《自白調書》をとる手口の見事さにだけ関し感心したが、あれは実際には見えない部分で、『映画中だけで可視化した』との解説で、なるほどと思った。本当に巧みに誘導されるのだ。ブログの評価を訂正しなければならない。

       終の信託』に関するマイブログ記事

 

 『証拠の全面開示』で言えば、桜井さんが怒りを持って語っていたが、検察側は冤罪裁判の当初から、「桜井さんが無罪であるアリバイ」の証拠を握っていたという。それが、再審過程の証拠開示請求でようやく明らかになったという。そもそも、自分らのメンツを守ることだけで「真実を明らかにしよう」という態度など無いのだ。


 木谷明さんは、元裁判官としての経験から、裁判官と検察官との《癒着》しやすい問題点や、冤罪が起こり得る環境など、示唆に富んだ発言があった。やはり一番の問題は、裁判官の中で『疑わしきは被告の利益に』という意識が浸透していないことだという。保身の意識から『疑わしきは有罪』と傾いてしまうらしい。
 参加者からの質問で、「死刑判決は出すということになったとき、どんな心境になるか」との質問に、「幸いというか運がいいというか、死刑求刑のされた刑事裁判には1度もあたっていない」とのことだったが、「死刑は取り返しがつかないことであるし、死刑判決はあってはならない」と答えておられた。死刑はやはり廃止すべきであると。

 死刑裁判で思い起こすのは、ドキュメンタリー映画『死刑弁護人*4である。今日の講演でも、《金にならない》刑事裁判の弁護士を扱う人は多くないという。刑事裁判などしたことのない弁護士の方がむしろ多いという。ましてや、『国選弁護人』などすすんでやる者は多くない中、あの安田弁護士という人はどんな人だろうと、改めて驚く。

  註*4 『死刑弁護人』は2012年、東海テレビ制作のドキュメンタリー番組。世間一般で言う《凶悪事件の死刑囚》の弁護を引き受ける安田弁護士の生き様を追う。劇場映画化され、京都では『京都シネマ』で2012年9月に公開された。2013年に『ベストテレビ』に民間部門ドキュメンタリー部門で選出され、NHKBSで放映された。

          『死刑弁護人』-公式サイト

          『死刑弁護人』-マイブログへ



 『裁判員裁判』について、かつてからその意義が分からなかったが、今日の講演で、少しはその意義が分かったのも収穫だった。法曹界内部だけで《隠語》で語り合っていたモノが、《素人》が裁判に加わるようになり、「裁判官らがその《素人》に分かる言葉で説明をしなくてはいけなくなった」という事と「証拠開示請求が若干改善された」という事だ。なるほど。



 最後の質疑応答で、最も印象的な発言だったのは、「冤罪で29年も自由を奪われ、人生を台無しにされたことに関しどう感じているか」の参加者の質問に対し、桜井さんの言葉だった。

 『自分みたいなしょうもない人間を支援してくれる人がいると知って、嬉しかった。・・・当時自分は不良でしたから・・。自分の場合は、冤罪に巻き込まれて、失う物より得た物の方が多かったです。・・・』と、くったくない笑顔で話す言葉が心に残った。











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