【 2017年5月18日〜25日 記 】
本書が刊行されたいきさつに関して、巻頭に以下の文言がある。
『本書は、2016年6月4日に東京大学本郷キャンパスで行われた、公益社団法人自由
人権協会(JCLU)70周年プレシンポジウム「監視の“今”を考える」を完全翻訳の
上、加筆修正を行い、詳細な注釈と追加取材を付し書籍化したものです。』
知ってのとおり、スノーデンはCIA(アメリカ中央情報局)やNSA(アメリカ国家安全保障局)やその下請け関連会社で《アメリカ政府のために働いていた》人であったが、2013年にNSAが大量盗聴を行っている事実等々を暴いて以降、現在アメリカから逃れてモスクワにいる。アメリカ政府からは《スパイ》容疑で追訴されている身である。今、アメリカに連れ戻されたら【有罪】は免れず、終身収監されないとも限られないと言われている。あるいは、居場所が公になったら、リトビネンコのように【暗殺】されるかもしれない。また、今保護されているロシアからいつ【追放】されるか分からない。
だから、本来ならなかなかインタビューなどできる状況ではないと思われるが、そうではなかったのだ。
この本を読むに先立って、私は映画『シチズンフォー』(ローラ・ポイトラス監督、2016年7月公開)と『スノーデン』(オリバー・ストーン監督、2017年2月公開)を見て、また関連書籍で『暴露-スノーデンが私に託したファイル』(グレン・グリーンウォルド著、2014年新潮社刊)と『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』(小笠原みどり著、2016年毎日新聞社刊)を読んでいた。
だから、「同じような内容の本をまた改めて購入する必要はないかも」と、買うのを躊躇していたが、買って読んでみたら、【目から鱗】だった。
映画も本も悪くはなかった。しかし、いずれも【とてつもなくエライことをしでかし】てその見返りに【国家から追われて】いたスノーデンが、いかに【自由がなく危険な国・アメリカから脱出できたか】という【劇的な出来事】の、支援者の援助やジャーナリストの協力を含めた、スリルに飛んだ【脱出劇】の内容が主であった。安定的な収入や、恋人のこと、家族のことも含めた、今後の人生を全て棒に振ってまで、【社会正義】のためにスノーデンが告発した事の【重大性】と、それを理解し支えた人たちの熱意や努力、それは伝わってくる。
しかし、日本に住んでいる自分たちにとって《どのような影響があるのか》ということに関しては、事があまりに大きく掴みどころがないので、理解しずらい点があった。
スノーデンがフェイクした大きなことは、【グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、ヤフーなどのアメリカの通信事業者関わる大企業から、SNAがメール・データや電話記録を大量に盗聴する許可を得て実行していた】という事実である。それがどのような意味を持つのか。
盗聴する側は、《すべての通話を聴いたり、内容を観たりしているわけではない》から問題はないと《言訳》をして正当化するし、盗聴される側は、《別にやましい事をしているわけではない》から何ということはないと《他人事》を決め込むかもしれない。
しかし、スノーデンは言う。
『あなたがどこに行くか、何をしているか、どうやってそこに行くのか、誰と一緒にいるかなど、探偵が一日中あなたをつけまわしたらわかるようなデータ、それを[メタデータ]というが、(中略・・・現在それらは、リスクの伴う探偵を着けなくても、インターネットや携帯電話などの光ケーブルを傍受したり、あるいは《IoT》機器から発信される《ビッグデータ》を集約すればいとも簡単にデータが集められて)あなたがあった人があなたとあった後にどこに行ったかもわかるでしょう。こういった事柄について長期間にわたってフォローするが可能なのです。』(P-30〜31)
『グーグルの検索ボックスにあなたの入力した単語の記録は永遠に残ります。・・検索記録が無くなることはないのです。・・アドレスバーに入力したすべての事項はメタデータであり、携帯電話会社に保管されます。携帯電話会社は、あなたがどのサーチエンジンを使っているのかわかります。』
『NSAの仕事というのは個人の“生活パターン”をつかむことでした。かつては手作業で行われていました。犯罪活動にかかわっているかもしれないという情報をもとに、裁判所を説得し、記録を収集し、行動を監視していました。昔と異なり、今はそのような監視活動を行う必要はありません。監視は常に行われているためです。すべての記録は自動的に収集され、傍受され、保管されるのです。』
『アメリカ政府は、・・・日本人やフランス人やドイツ人などの外国人に関するものであれば、フェイスブックやグーグル、アップルが保管する情報を裁判所の令状なしに得ることができます。』(P-33)
『・・・インターネットのコミュニケーションは、海底ケーブルを使って伝達されていますが、・・・最終的にはアメリカを通ることになります。アメリカの通信事業者はこうした情報に関して、NSAに対し収集・利用などのあらゆる権限を与える無制限のアクセスを許可しています。』(P-35)
冒頭、スノーデンは、自分の生い立ちを述べつつ、トップシークレットにもアクセスできる特殊な地位から得られた、こういた機密情報を《無節操》に公表しているわけではない。テロ対策や暴力団・マフィア等に関する捜査情報等《政府として公表すべきでない事項もある》といいつつ、この間のリークに関しては、民主主義に関わる重要な問題と位置づけ《合衆国憲法に明らかに反するような事項》だけにしぼっているような、極めて慎重で控えめな態度をとっているように思われる。(その点、「ウィキリークス」とは少し違うように感じられる。)
その後、日本とアメリカの関係に関する質問に答える部分があるが、「特定秘密保護法」のことも「安倍政権の憲法改正」の動きや『後藤健司』さんの事件のことも詳細を理解して言及している。更に、日本のメディアの現状-政府に批判的なキャスターを降板させた事柄にも触れて《危機的な状況》とコメントしている。そして、公表するにはその影響を道徳的に考慮しなければと断ったうえで、次のように応えている。
『アメリカと日本が、他の国々と同様に、インテリジェンス情報を交換する関係にあるということです。』
『日本の、こういった国際的な光ファイバーをアメリカと共有しています。・・・日本の通信会社も日本を経由する通信については同じように傍受することができます。』
『今回のスキャンダルにおいて最も重要な問題は、政府が法律を破らなくとも権利を侵害する活動ができてしまうことにあるのです。』
それなら、《共謀罪法案》が一昨日衆議院を通過してしまった日本ではどういうことになるのだろう。その日の『毎日新聞』の記事にあったことが思い出される。
この記事で《岐阜県警による個人情報収集問題事件》が取り上げられていた。被害者は告発したが、結局《不起訴》なってしまった。今度は、こした事柄に関しても《国のお墨付き》があり堂々とできるということだ。しかも無差別に大規模に。
盗聴と監視は《対テロリスト》にとどまらず、すべての人を対象にしている。誰が《犯人》か《怪しい人物》可かは関係ない。上の発言にあったように、あとから《怪しい》と思えば、いつでも遡って《長期にわたってフォローすることが可能》なのだ。
政府が関心を持つ対象には、マスコミや人権団体も含まれるし、上の記事のように自然保護団体の活動家も含まれる。
『現代のインターネット・コミュニティーにおいては、我々の社会が何世代にもわたって享受してきた法的な保護や人権保障が新たな方法により崩壊しつつあるということをひとりの技術者として感じています。』、とスノーデンは語る。
そして、
『政治的な状況や、私たち自身の無関心と知識の欠如がもたらす脅威に目を向ける必要があります。』
と。
【ビッグデータ】と世間は大騒ぎしているが、その裏でこのようなことも起きているのだ。
わずか、100ページにも満たないインタビューであるが、控えめで含蓄のある言葉は、示唆に富んでおり、多くを教えてくれた。
最後に、『アメリカに戻れるかどうか』-その希望も含めて-の応答があったが、頭脳明晰であり、しかも冷静さを失っていない受け答えには、ただただ感心した。
他のどれよりも、圧倒的な内容を持った本だった。
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