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「カティンの森」-忘れてはならない歴史-アンジェイ・ワイダの渾身作

2010-01-18 23:14:53 | 最近見た映画
     【2010年1月17日】 京都シネマ

 中学や高校で世界史を勉強したことのある人なら誰でも知っていると思うが、18世紀後半から周辺の国により、たびたび国土を分割され国家消滅の歴史を持つポーランド国民に襲いかかる悲劇は、第二次世界大戦以降、さらに凄まじいものがある。1939年の9月、西からはナチス・ドイツが、東からはソ連が相次いで侵略し国土を喰いちぎっていきポーランドの国が地図上から消える。

 
      



「カティンの森」事件は1940年にソ連によって引き起こされたが、当時はポーランド将校1万数千人が行方不明になったということしか伝わらなかった。
 ドイツが独ソ不可侵条約を破ってソ連側に侵攻し、独ソ戦線が東に移動することにより、それまでソ連領だったカティンがドイツに占領され、たまたまその地で虐殺された数千のポーランド将校の遺体が発見され、事件が明るみで出る。しかしそれで済まなかった。
 再びカティンはソ連側に渡り、そこでソ連は事件をナチス・ドイツの仕業だと宣伝を始める。

 
                            


 戦後、ポーランドはソ連の衛星国となり共産圏に取り込まれるが、あらかじめ国の再興の指導的柱となる愛国的なポーランド将校を抹殺したり、ドイツに対して「ワルシャワ蜂起」で立ち上がった人民を「見殺し」にし、着々とソ連のいいなりになる指導部養成の下準備をしていたのだ。

 

     


 映画の中でも、「カティンの森」事件が、1940年に起きたのか、それとも1943年に起きたか-すなわちソ連の仕業なのか、ドイツの仕業なのか-どちらなのかを、事件の遺族らに「踏み絵」のように試す場面が何度も出てくる。

 「1940年だ」と信念を通せば、収容所おくりであることは目に見えているが、真実を曲げない強さを、ワイダは美しく感動的に描く。(レジスタンスの闘志・アグニェシュカと、校長を務める現実的なイレナ姉妹の対照的な生き方はあるが、ここでは触れない。)



         


 1990年に時のソ連邦大統領、ゴルバチョフ大統領が「カティン事件は、ソ連の犯行だった。」と正式に認めるまでは、虐殺の日付を墓碑に刻むことも、ソ連の犯行であることを言及することも不可能だった。

 当然、アンジェイ・ワイダの過去の映画にも「いいたいことを言えない」もどかしさ-そんな甘いものではない!-、やるかたない悔しさがにじんでいる。


 戦後60年以上たって、ようやく自由に真実が語られるようになった今、80歳を過ぎた監督がどんな思いでこの映画を作ったか、計り知れない。

 聞けば、監督の父親も「カティンの森」で犠牲になったそうである。



           
        「カティンの森」-公式サイト

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