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最近上映されて良かった映画、以前見て心に残った映画、感銘をうけた本の自分流感想を。たまには旅行・山行記や愚痴も。

『橋下主義(ハシズム)を許すな!』-独裁者の野望と矛盾を衝く!(補足)

2011-11-23 08:11:56 | お薦めの本
                             講演する内田樹神戸学院大学名誉教授    


 前回の記事で、『子供を教育産業の消費者にした結果は』の項をもっと書きたかったが、書ききれなかったので、その部分を補足する。


 前講で書いたように、橋本主義(ハシズム)の本質は、競争第一の市場原理主義と民営化・規制緩和の『新自由主義』と議論抜きの専制と恫喝・脅迫の『独裁主義』であるが、一部に「橋下知事の掲げる政策を実行するために、そう手法もやむをえない(理解できる?)のでは。」みたいな論議があるが、とんでもない話である。

 何人にとっても当てはまるのだが、特に橋下元知事の場合は、『目的が正しければ、手段は問わない』という論法は成り立たない。というのも、目的も手段も間違えているし、以下に見るように、こと教育に関しては、この国の国の将来の根幹のにかかわる問題であるが、その大問題への考え方が根本的に間違っている上に、その誤った目的のために乱暴な手段を使うなど許される訳が無い。
 
 
 報道等で断片的に入ってくる「橋本府政」の《乱暴ぶり》を、改めてこの本で整理して見ると、憤りとともに危機感を更に大きなものに感じた。

 特に、本書の第一章『おせっかい教育論』(内田樹講演)の【子供を教育産業の消費者にした結果は】の項は、最近の教育現場の状況に疎い自分にとっては、衝撃的な内容であった。想像はしていたものの、《ここまで来ているのか》と言う実感だった。


 以下、非常に長い引用になるが、現状を理解する上で重要なポイントなので、あえて列挙する。

『・・・知識や技術で得る免状や資格といったものが、教育の目的だと考えるのは完全な誤解です。どうして、そんな誤りが起こるのか。それは、ビジネス・マインドで教育を考えるからです。教育を商品とみなしているからです。子供たちが50分間黙って授業を聞くとか、校則を守るとか、教師に対して恭順な態度を示すとか、そういうことは彼らにとって「苦役」だと考えられている。これが子供たちが学校に差し出す「代価」です。これだけの代価を払っているのだから、それにふさわしい商品を出せ、と。そういう「商取引」のスキームで今の子供たちは教育を見ています。実際に、「子供たちは消費者です。彼らクライアントのニーズに見合うようなよウ質の高い教育商品教育サービスを提供するのが学校の使命です」と平然と言い放つ学校関係者がいます。』(P-27)
 

 『もし教育が商品だとしたら、誰にもわかる使用価値や交換価値のある商品だとしたら、子供の「学び」という「苦役」が貨幣であって、それを差し出す代償に知識や情報や技術や資格や免状のようなかたちで教育商品が手に入るのだとしたら、何が起きると思いますか?・・・それは「最も安い代価で、最も価値のある価格を買おうとする人」のことです。最少の学力、最少の学習努力で最高の教育商品を手に入れた子供が「最も賢い消費者」だということになる。・・・最低の努力で得られる最高の結果をめざしている。費用対効果のことだけ考えているんですから授業に出るのは出席日数ぎりぎり。授業中もそれ以上意識を散漫にしては理解できないずずまで意識の集中を控える。レポートや試験では六十点ぎりぎりを狙ってくる。この「六十点ぎりぎりを狙ってくる」ための努力の真剣さに、僕はほとんど感動するのです。「素晴らしい」と思ってしまう。まさに彼らにとっては、それこそが一番真剣な競争なんです。六十点で済む試験のために、七十点分、八十点分の勉強をするのは、恥ずかしいと思っている。それは百円の価値しかない商品に二百月、三百円を払う消費者と同じように愚かなことだと思っている。』(P-28)


 『教育を商取引の枠組みでとらえる人々が陥るもう一つの誤謬は、学校とは子供たちを選別し、格付けする場だと思うことです。-そういう人がたくさんます。子供たちは格付けされねばならないと考えている。一斉テストで一番からビリまで順番に点数をつけて、差別化する。そして、上位者には報償を与え、下位の者には罰を与える。そうすると、学力が上がると思っている。
 人間というのは報酬を約束すれば喜び、罰を与えれば縮み上がる。そう思っている。「人参と鞭」です。』(
P-29)

 ここでは、教育を民間企業並みの経営方針に任せると、どうなるかということが述べられている。本来の教育機能は失われ、子供は他人を押しのける《技術》だけを身につける事になる、と。


 『今どきの中高生は、他の生徒の学習を妨害するのに全力を注いでいます。電車の中で、高校生たちが「TPPに参加すべきか否か」とか「プーチンの対日外交はどうなるだろうか」とか、そんな話しているの聞いたことあります?ないでしょう?・・・そういう話したってよさそうじゃないですか?でも、絶対しない。子供同士で話すときに、それが少しでも学校の成績の向上にかかわるような話題は絶対に選ばない。アニメの話とか、アイドルの話とか、そういうのはいいんです。いくらトリヴィアルな知識を披渥してもかまわない。成績に関係ないから。成績に全く関係がないことがわかっているトピックについてなら、子供たちは異常に能弁になる。逆に、その話題に触れることによって、自分の周りの子供たちの成績がちょっとでも上がりそうな話題は徹底的に回避する。・・』 (P-32)

 

 『これはまさに教育に競争原理と市場原理を持ち込んだことの結果です。閉鎖集団内の相対的な競争の侵劣にだけに子供たちを熱中させたことの結果です。そのせいで、お互いに足を引っ張り合い、お互いの学力を下げることに懸命な子供たちが大量生産された。』(P-33)

 このあと、「市場原理主義」、「競争原理主義」者たちが、勉強の動機付けに「自分の利益ために」という飴を使うと、教育が無力化されることが述べられている。


 『彼らを学習させるために、市場原理主義者たちは.「自己利益」を道具に使いました。「勉強するといいことがあるよ」と利益誘導した。勉強すると、高い学歴が手に入るよ、いい会社に入れるよ、高い年収が取れるよ、レベルの高い配偶者が手に入るよ……というふうに教え込んだ。 自己利益の追求を動機にして学習意欲を引きだそうとした。その結果何が起きたか。』

 『中学生が学校不登校になって、家でインターネット使って株の売買して数億円儲けたということになったら、・・・』(P-34)
 
 勉強を回避して、上のような事態になっても、それに対する言葉を対置できない、と。それでも良いという意見もあるかもしれないが、これでは日本の将来が見えてこない。



 ここに述べられていることは、おおかた真実であると思う。「そんなことはない、ここで言われていることは、極端な例だ。もっと真摯に勉強に打ち込んでいる」という反論もあるかもしれない。そうかもしれない。一部の例外かもしれない。
 しかし、そうだとしても看過できないのは、維新の会が成立をねらっている『教育基本法』は正に、このような教育現場を何の反省もなく、更に普遍的に作ろうとしていることだ。

 
 以下、前稿でも引用したところだが、

『この維新の会の基本条例にも、「学び」とか「成熟」とか「公共の福利」といった言葉は一度も出てきません。一万五千字もある条文の中に一度も出てこない。「市民」も「公共性」も出てこない。出てくるのは「競争」とか「人材」とか「グローバル」とかいう言葉ばかりです。』(P-37)


 『日本は世界三位の経済大国ですよ。これだけの経済大国でありながら、世界に対して
強い指南力を発揮できないでいる。国際社会で侮られている。それは事実です。でも、それは日本に「金がない」からじゃありません。軍事力がないからでもない。日本に大人がいないからです。』
(P-39)


 『「バスに乗り遅れちゃいけない」というような言葉を政治家が口走るということは、自分でバスを設計して、路線を決め、運転し、乗る人を集めるという発想が彼らにはまったくないということを暴露している。すでに他人がルールを決めたゲームの中でどうやってうまく立ち回るかだけ考えている。』 (P-40)


 自分で考え、困難に立ち向かう力がなくして、どうしてこれからの世の中を生きていけるか。
 
 マハティールやリー・クワン・ユーと違って、首相までが他人の顔色をうかがい、その尻尾に付いていくことだけしか考えが及ばない日本の現状を、更に望みのない方向に貶める教育方針には、No(ノー)というしかない。



 すでに、一部にこうした現状があるということに、すでにその元で育った《次代を背負うべき若者》が多数いるということに、不安を覚えると同時に、そうした状況を許してきた責任を感じる。
 橋下徹は、そうした教育をうけて、そうした価値観を持った《先駆的》人間の一人なのかもしれない。

 このような教育環境に育った人間が、『独裁』を『独裁とみなさない』という感覚を持っているとしたら、そら恐ろしい気がする。


 気になるのは、これからの世代を受け持つ若い人たちの動向である。



   『橋下主義(ハシズム)を許すな!』-独裁者の野望と矛盾を衝く!』(その1)へジャンプ






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1 コメント

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橋下批判はもっと必要 (人の親)
2012-02-25 11:25:23
ブログ主様のご指摘は本当にその通りだと思います。
橋下氏は。自分が母子家庭の逆境から早稲田大学に進み、司法試験にも受かり、タレントとしても莫大な金をかせぎ、知事と市長を両方やってきている超・超勝ち組です。お子さんだって7人もいますね。
世の中の競争に勝ちまくってきたこういう人間がえてして、まったく弱者の気持ちを理解できなくなっているという、典型的な例だと思います。
最近、小中学生にも留年制度を、と勉強の出来ない子供やその親の心情をふみにじるような発言をしました。
橋下は立身伝中の人物かもしれませんが、親の立場からすると、たんなる思い上がった生意気な男の子にしかすぎません。
彼をたしなめ、いいかげんにしなさいと叱りつける本当の大人がもっと増えてほしいです。
ここで引用された内田先生、そしてブログ主様にはもっと発信していただきたいと願っています。
いまマスコミは翼賛報道ばかりして、気持ちわるので…。
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