【 2017年2月9日 】 TOHOシネマズ二条
グレン・グリーンウォルドの本『暴露・スノーデンが私に託したファイル』を初めて読んだのは2014年の7月で、その本に沿ったドキュメンタリー映画『シチズンフォー』が公開され、見たのは昨年の7月だった。その映像、《紙面で描かれていた事実の再現》を見てハラハラ、ドキドキしたが、今回はその《映画版》である。早く見たいと、公開が決まった作年暮れから、今か今かと待っていたが、観に行くのが遅くなり、今日になってしまった。
この映画では、スノーデンがどのような境遇で、どんな葛藤をへて決断するに至ったかが物語風に、オリバース・トーンの脚本、映画化によって描かれている。
『米国最大の機密を暴いた男-スノーデンは英雄か、それとも国家の裏切者か』
というのが、一般の最大の関心事だと思うが、彼がいわゆる《スパイ》とか、衝動的に個人的な利益をを求めてとかの、安易な考えで行動したものではない。自分のこれからの《全人生をふい》にしてまでも、やらなければならないという固い信念があり、あえて実行したのであって、その行動に対して、驚くと同時に敬服するほかない。
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彼、スノーデンがどうしてそのような《大胆な》行動をとるに至ったかという経移が、この映画に描かれていくのだが、冒頭は『暴露』や『シチズンフォー』で描かれていた、香港での緊迫した状況の場面から始まる。スノーデンもグリーンウォルドも《実写版》とは違い、俳優であるが、緊迫感は変わらない。
映画で綴られる彼の遍歴をみれば、最初から《歴史的大事件》を引き起こすような《過激な思想》の持ち主でないことが分かる。現政権の政策に対敵するどかろかむしろ保守的でさえあるし、多くのアメリカの青年が抱くように祖国を愛し、アメリカの平和を脅かす者に対しては身をもって戦うという、ごく普通の精神の持ち主である。だから、9.11のテロに際して、自ら兵役を志願しテロと戦う姿勢さえ見せているのだ。
【 兵役 - 映画『ジャー・ヘッド』での海兵隊の訓練を思い起こす 】
しかし訓練中のけがで、除隊を余儀なくされる。軍隊がだめでも、彼には特別の才能があった。折から世界はIT全盛の時代を迎えており、直接的軍事力より情報力がモノを言う時代に入っていたの。NSAやCIAに所属し、自分の能力を開花させる。と、同時にそれは《国家機密》にスノーデンをより近づける機会ともなった。
映画『ドローン・オブ・ウォー』では、コンピュータとIT技術を駆使して、《 地球の反対側のアメリカ本土にいながら敵から攻撃を受けることもなく、マイホームから職場に出勤するサラリーマンがゲームをするような感覚で、ミサイルをピンポイントで敵に打ち込むことができる様子 》が描かれていた。本作でも、同様のシーンが描かれている。
スノーデンは、自分の切り開いた技術がそのような使われ方をしているのに直面し、思い悩む。
同時に、NSAやCIAが推し進めている盗聴活動は《テロ防止対策》とは名目で、その情報収集プログラムはテロリストだけでなく民間企業や個人におよび、日本を含む同盟国までをも含む《全世界のすべての人々》が対象となっていて、《アメリカの世界支配》を貫徹し維持するものであること悟る。
NSAは、アメリカのIT大企業のMicroSoft、Yafoo,Google,Facebook 等のサーバーにアクセスし、一般市民のメール、チャット、SNSからあらゆる情報を収集し、それをCIAは利用してテロ活動とは無関係の人物をスパイとして抱き込むという、汚い手口とセットになっていたことを、スノーデンは知ったのだ。
【 恋する若者 】
前作の映画や本ではあまり描かれていなかった《普通の若者》の姿が、この映画では描かれている。ごくありふれれた《愛国青年》であり、挫折もあったりしながらも仕事に成功し、彼女との楽しい時間もあった。
彼よりむしろ彼女の方が《進歩的》にも映画では描かれている。その彼が、重大な決断を下すに至る過程が、生々しく映画に描かれている。
そしてその決断が《愛国者》か《反逆者》を全世界に問われる大事件になる。
【 愛国者 】
【 反逆者 】
《スパイ》という語感には《裏切者》《卑怯者》《反逆者》という響きがあるが、はたしてそうなのだろうか。「ゾルゲ」や「尾崎秀美」は《スパイ》として告発され処刑されたが、《国家的反逆者》かと今、問われればそうとも言い切れない。ある意味、純粋な《愛国者》ではなかったのかと思う。
スノーデンは『内部告発者』なのだ。それも、自分の人生-豊かで確かな収入、恋人との楽しい将来をも棄て、その上、敢えて実名を明かし国家までも敵に回して【公表】を決行したのだ。どうして《スパイ》などと呼べようか。
『かつては政府のために働いていました。いまは人々のために働いています。』
現在ロシアに亡命しているスノーデン自身が語る言葉が現在の状況を正しく言い表していると、強く思う。
彼自身、個の告発で多くを失ったかもしれないが、金銭的な利益は何もない。ロシアに匿っていることを捉え《祖国を裏切った売国奴》扱いをする人もいるようであるが、彼は《民主的なアメリカ》を今でも愛しているはずである。
(一方、ロシアもスノーデンをかばうことによって【アメリカに対抗】するが、このことによって【ロシアが正義でアメリカだけが悪者である】ということはない。ロシアはアメリカ以上に【恐ろしい国】であることには間違いない。この辺が、国際関係の難しいところである。)
オリバー・ストーン監督の映画は『プラトーン』くらいしか観ていなかったが、今回はやってくれた。
【 オリバー・ストーン監督 】
以下の本のことを書こうと思ったが、もう眠くなってしまった。つづきは改めて書くことにしよう。
【『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』
小笠原みどり著 2016年 毎日新聞出版刊 】
映画『スノーデン』-公式サイト
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