例によって人物相関図はぐちゃぐちゃ。
タイトルからすると太宰治のように人間の弱さ、切なさを書いたものかと思えばそうではなく、北杜夫のようにその弱さをユーモアで表したものでもない。
なんとこれが探偵小説(今で言う推理小説)。
だからネタは明かさない。
人間の内面やその時の社会情勢を盛り込んであり、一説によると松本清張に影響を与えたらしい。
途中、読者に対する挑戦状があったりする。
犯人はなんとなく予想できたが、暗号の解読はできなかった(つーか無理)。
昭和11年の作品なので旧仮名遣い、旧字体。誤字もあるし慣れるまでちょっと大変だが、案外すらすら読める。
序文の最後にこんなことが書いてある。
作者はこの小説の表題を「人生の阿呆」と名付けた。この言葉は、正當な意味に於て、何を意味するのであろうか。「獄中推理」の章に於て、良吉が荐りにこのことを考へて、これには深い意味が無くてはならぬと言ふてゐる。正に然り、これには、深い意味がなくてはならぬ。作者が、最も愛して書いた、一人の女性が、その死の際に、この深い謎を、良吉と、そして、この物語を讀まるるなべての讀者の前に、投げかけてゐる。良吉は、これを様々の意味に介するのであるが、まだ、その自殺して果てたる女性の、眞の意味に迄は、到達して居らぬのであつた。
良吉は、その書の結末に於ては、尚未だ正しく解き得なかつたが、然し、讀者諸君は、良吉に代わつて、それを解く可き、あらゆる鍵を與へられてゐるのである。
作者は、この序文に於て、この謎を、掲げる。本書を読み終りたる讀者は、再び、かへつてこの序文を讀みかへし、その終らざる一生に隠された謎を、是非に解き給へとこそ願へ。
つまり、「タイトルには深い意味があるから、それがなんなのか、答えを見つけなさい」ということ。
還暦を過ぎてもまだまだ阿呆の私には重たい問いかけだなぁ。