「N」
冒頭に「本書は六つの章で構成されていますが、読む順番は自由です。はじめに、それぞれの冒頭部分だけが書かれています。読みたいと思った章を選び、そのページに移動してください」
とありました。
6!通り(720通り)の物語ができるという実験的な小説です。
各章の物理的なつながりをなくすため、一章おきに上下逆転された状態で印刷されています。
私は2→5→4→3→1→6章の順に読みました。
各章の登場人物(人間だけでなく動物も)が他の章にも出てきますので、物語としての繋がりはあります。このあたりは、伊坂幸太郎さんの小説に近いかもしれません。
ただ読む順番によって、事実を知ってからその背景を知るのか、あるいはその逆なのかに変わりますので、全く違った印象になります。
今度は逆の順番に読んでみようか、なんて思ったりします。
海上に現れる光の花が繰り返し出てきます。滅多に見ることのできない光が存在するかもしれない、この小説を読んで、生きる希望を与えてくれる光を感じ取ってほしい、そんな作者の願いがあるような気がしました。
印象に残った文章です。
何もない人生のほうが ----- つらくて悲しいことが起きない人生のほうが、特別なのだということを。 「落ちない魔球と鳥」より
好きなことを仕事にできるのは幸せだと、誰もが言う。でも、何かを好きであるほど、人はその世界で夢を見る。夢と現実が一致することなんてなく、大抵は夢のほうが綺麗で大きいから、両者の差がそのまま落胆に変わる。 「飛べない雄蜂の嘘」より
海で溺れそうになったとき、自分の手を自分で引っ張っても意味がないって、パパは言ったでしょ。誰かに引っ張ってもらわないと駄目だって。 「消えないガラスの星」より
「ほとんどの動物は、仲間内で殺し合ったりなんてしねえのに。手加減の仕方とか、降参の合図とか、お互いわかってるから」 「眠らない刑事と犬」より
「不満を意識する生き物なんて、人間だけだよな」 「眠らない刑事と犬」より
教え子に心をひらかせるには人格というものが必要だなんて、知らなかったのだ。 「名のない毒液と花」より
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