「震える牛」では、巨大ショッピングモールを展開する企業と狂牛病について
取り上げていましたが、本作ではネット通販の世界的プラットフォーマー企業と
ベトナム人技能実習生を取り上げています。
事件の始まりは、秋田県能代市で高齢者施設勤務のベトナム人女性介護士が、
入居している高齢者の末期がんの女性に依頼され、車いすごと冬の水路に突き落としたとして、
自殺ほう助として逮捕されたことです。
そして警視庁捜査一課継続捜査班の田川信一警部補が捜査を始めます。
自殺にしては不審な点があったので、キャリア組の女性警視と共に、
ベトナム人介護士が技能実習生として最初に働いていた
縫製工場のある神戸に聞き込みに行きます。
そこでは実質賃金が300円程で実習生たちを酷使し、反抗的な態度を取ると
大型犬用の檻に監禁するなど、人権無視の扱いが横行していました。
デフレ経済下の日本では、アパレル製品は安くてさらに品質も良いものしか
売れないので、下請けである縫製工場も、単価の低い仕事しか回って来ないので、
人件費圧縮のためにベトナム人実習生を呼び寄せて働かしているのでした。
捜査を続けるうちに、田川警部補はネット通販企業の管理職にも事情聴取して、
事件の真相を探るのでした。
そして真相が明らかになっていくのですが、「震える牛」と同じように、
犯人が実際に自ら手を下す動機がいまいち説得力のない展開になっていました。
社会派小説とミステリー小説とを組み合わせて作ることの難しさが
伝わる展開でした。
しかし社会派小説としては出色の出来になっていたので、十分な読み応えのある
小説でした。
著者の相場英雄氏は地方の経済に詳しい方のようなので、
それが十分に活かされた一冊になったのでしょう。