読売新聞に連載された後に単行本として出版され、大きな反響のあった本作ですが、
そのメインの登場人物の一人である黃美子さんに関して考察してみたいと思います。
【作品の中での黃美子さんについて考えるポイント】
1 主人公の花の家を訪れた際に、冷蔵庫を食べ物で一杯にしておいてくれた。
2 掃除をして身の回りの物を整理整頓している。
3 風水が好き。
4 主人公と同居する十代の少女が口論となった際に、額縁の絵を襖に突き立てる。
【考察】
1から考えるに、黃美子さんも親の育児放棄やネグレクトなどで、自分も子供時代に食べ物がなく、飢えに苦しんだ
経験があるのだと思います。
2から考えるに、児童養護施設や矯正施設などで、掃除をして自分の身の回りの物を整理整頓しておくように
指導されたことが身についているのでしょう。
3から考えるに、風水などの占いなど、不合理なものを馬鹿にするような人が身近に少なかったと考えられます。
4から考えるに、ずっと同居している十代の少女たちが口論しているという状況で、自らも情動的に
巻き込まれても、それを言語化するなどではなく、壁に掛けている大きめの額縁を持ち上げ外し、
襖に突き立てるという、未分化な行動になるというのは、日頃から様々な事柄を秩序立てて認識し、
整理して理解するということができていない事の結果なのでしょう。
そのこともあり、花たちがやっている犯罪行為もそれほど気にかけておらず、自分たちの使っている
お金がどこから来るのかについても、考えるということがあまりなかったのだと思います。
総合して考えるに、子供時代に自分をまともに育ててくれる人が居ず、飢えるなどの苦労をして、
何らかの施設に収容された経験があり、様々なことの理解や認識に遅れている部分がかなりあるのでしょう。
作者の川上未映子さんは、貧しい家庭で育ち、14歳くらいから働いていて、その後は大阪の北新地という
高めの店が多いところで働いていたとのことなので、その頃に黃美子さんのような方を
見ていたのでしょう。
様々なところに境界を作り、自己と周囲を分化させ、様々な物事を秩序立てて認識して理解していくということは、
本人のみの努力では難しそうです。
ある程度恵まれた育ちならば、周囲の人と本人との間で何となくそのようなことは行われていき、
いつのまにか様々なことが出来るのでしょうが、それ以外の人にとっては、どこかで誰かに教えてもらわなければ、
身に付かないことなのでしょう。
本作でも様々なところで黃美子さんの周囲への関心の薄さが描かれていますが、恵まれない育ちの人には、
学校での勉強以前に、日常的な様々な事柄を教えていくことが必要なのでしょう。
そうでなければ、日常の様々なことに参加できず、その後も苦労することに繋がりそうです。
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