『かわせみのマルタン』
リダ/文 ロジャンコフシキー/絵
石井桃子・大村百合子/訳
初版:1977年 福音館書店
復刊:2003年 童話館
森の、清らかな川岸に住み着いた青くつややかな羽をもつかわせみのマルタン。
マルタンの生活が、そこに存在する動植物とともに細やかに描かれている絵本です。
ある日、マルタンは妻のマルチーヌと水辺の土手に穴をほって、巣を作り始めます。マルタンがくちばしで穴を掘り、マルチーヌがその土や石を遠くまで運びます。
「とうとう家はできました。ほんとうに美しく、せいけつで、土のにおいのする家です」
マルタンとマルチーヌはどんな時も離れません。いつでも寄り添っています。飛ぶ時も、眠る時も、漁をする時も。
マルチ-ヌが卵をうみました。ずっと、じっと卵をあたためています。マルタンはいったりきたりして、マルチーヌにえさを運びます。
「ティイック、ティク、ティク」「ティク、ティク、ティイック」と体を寄せ合っていろいろ話をします。
こうして、二週間が過ぎ、15日目。マルタンは魚ではなく虫を取りはじめました。ひなのためにです。虫の羽までもむしってあげます。可愛いひなの喉につまってはいけませんから。
季節は巡り巡ります。毎春、マルタンたちは卵をかえし、秋になると、こどもたちは、親から離れていきました。
ある日、マルタンは悲しいことに病気になってしまいます。「セイクス、セイクス」悲しいなげきの声です。マルチーヌが魚を小さくちぎってももうつつく力さえなくなりました。枝に止まっていることもできません。
マルタンは死んでしまいます。
そして、二三日すると、また、あのなげきの声が聞こえてきます。それは、マルチーヌです。
「一羽が死ねば、あとの一羽は生きていかれないというほど、かわせみたちの愛情はふかく強いのです。残った一羽は、ただひとりきりになり、飛ぶことも、食べることもしないで、とうとう、その心臓はとまってしまうのです。マルチーヌもそうしたのでした。」
次の春、森に明るい声がひびきます。どこからか、二羽のかわせみが飛んできました。楽しそうに歌っています。
マルタンとマルチーヌのこどもたちなのかしらね。
この絵本は、かわせみの一生を描きながら、自然の営み、命のつながり、明るい明日を想うことができます。心は、静かに優しくなれます。
ブルグミューラの曲に「清い流れ」という美しい曲があります。
私は、この絵本を何度か繰り返して読みながら、この曲が浮かび上がり、読みながらずっと響いていました。
この絵本の自然描写はそれほどに、生き生きとしています。
ぜひ、読んでくださいね。
私は今、かわせみに会える場所を発見したので、また会いに行くのが楽しみです。
そういえば、あの時も、二羽でした。
私もあの二羽に名前をつけよう。
瑠璃色の羽を持っているので、瑠璃色の地球からとって、ルナとルリにしよう。
もうすぐひなにも会えるはずです。