痛快な映画だ。出口の見えない不況に加え、何の手だても打ち出せない政府。希望を持つことが難しい世の中だが、この作品は“だからこそ頑張るしかないじゃないか!”という開き直りともヤケクソとも受け取れるスローガンを何の衒いもなくブチ上げる。
もちろん、ただ頑張っても報われるとは限らない。骨折り損のくたびれ儲けになることだってある。しかし、頑張らなかったら何も得られない。まずは頑張ってみてから考えろ!・・・・といったストレートなメッセージが横溢する(陳腐な表現だが)まさに“元気をもらえる映画”なのである。
ヒロインの木村佐和子は十代の頃に駆け落ち同然で上京したものの、その後は男に捨てられ、5年経った今では目的意識も持てずに漫然と日々を送る冴えない派遣OLでしかない。そんな時に父親が病に倒れたとの連絡を受け、彼女は故郷のシジミ工場を継ぐために茨城県の実家に戻るハメになる。
折からの不景気によりシジミの売り上げは落ちる一方。他の従業員からは“駆け落ち女”と揶揄される。彼女にくっついて東京から来たバツイチで子持ちの中年男は、あろうことか佐和子の幼なじみと浮気。かねてより“どうせ私なんか中の下。何やったってダメ”と諦めモードに浸っていた彼女だが、中の下どころか“下の下”にまで転落しそうな逆境だ。
ここまで追い込まれれば、とにかく頑張るしかないではないか。その強引なまでの内面的転向を観客に納得させてしまうのは、主演女優の満島ひかりの力によるところが大きい。当初、女子高生みたいな童顔が頼りなさを強調させるが、やがてアグレッシヴな本性を発揮してみるみるうちに逞しくなっていく過程を、天晴れな演技力で見せきっている。
彼女は間違いなく現在最も注目される若手女優の一人だが、特筆すべきはコメディに適性を持っている点だ。ボケとツッコミの両方をこなし、自身はほとんど笑わないのに周囲のシチュエーションを丸ごと引き受けて“笑いの空間”に転化させる技量には舌を巻いた。
監督の石井裕也はまだ二十代だが、商業映画は初めての新人とは思えないほど演出は達者だ。プログラム・ピクチュアの普遍性を持ちながらも確実に作家性をアピールしている。特に、オリジナル脚本でこれだけやれるというのは大したものだ。
さて、同じ“ダメな若者”でも前に観た「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の登場人物達と本作のヒロインとの相違点は、佐和子にはちゃんと見守ってくれる者達がいたことだ。それは5年も音信不通だった娘を許した父親であり、何かとバックアップしてくれる叔父であり、彼女を慕う交際相手の幼い娘である。最初はぶっきらぼうだった職場のオバサン連中だって、最後には彼女を認めてくれる。
ちゃんとコミュニケーションを取れる相手がいるからこそ頑張れるのだ。そんな作者のポジティヴな視点を代弁するかのように、テーマ曲とも言える“木村水産社歌(第二)”が高らかに響き渡る(笑)。とにかく、今年の日本映画を代表する作品だ。