(原題:Salt)つまらない。そもそも、アンジェリーナ・ジョリーにはアクション映画の主演は務まらない。スクリーン上で見る限り、彼女は運動神経がそれほど良くないように思える。「トゥームレイダー」シリーズでもそのことが大いに気になったものだが、本作も同様。身体能力が低いので、こなせるアクションのパターンが限定化される。結果としてカメラを頻繁に切り替えての“格闘もどきシーン”と、CG合成がミエミエの“あり得ない展開”の連続になってしまった。
例を挙げれば、ヒロインが高速道路を走るトラックの屋根に飛び乗る場面だ。とりあえずは逃げる途中にトラックの上に乗ってしまったという段取りまでならば、まあ許せる。ところがどう見ても10メートルは離れた下の車線を走る別のトラックに、ひょいと飛び移るというのは人間技ではないだろう。終盤での、飛行中のヘリコプターから数十メートル下の川に飛び込むというのも無謀極まりない。
リアルな肉体アクション篇においては、荒唐無稽な場面を特殊効果によって並べてみても効果はないのだ。観客に“相当な鍛練を積めばギリギリ出来るかもしれない”と思わせるレベルをキープしておかないと、ただの絵空事になってしまう。
さらに、A・ジョリーには愛嬌がない。たとえば「ダイ・ハード」シリーズでのブルース・ウィリスなんかは、少しばかり無茶をやっても“笑って許してくれよォ”と平然と言ってのける余裕があると思う(爆)。しかし本作のヒロインにはそれが全くない。だから観ている側も笑って許す義理などないのだ。結果として、仏頂面した女がバタバタと走り回るだけの、興趣に欠けるシャシンに終わっている。
もちろん、アクションは低調でもストーリーが面白いのならばある程度の評価は得られるのだが、こっちの方も壊滅的だ。だいたいCIAの中にロシア人のスパイが潜入していて、しかもそいつらは旧ソ連の復権を狙う不穏分子であり、東西対立を再び巻き起こすために核ミサイルの中東への発射を画策している・・・・などという設定からして馬鹿臭い。
先のサミットでも、専ら議題は経済ネタだ。逆に言えば経済方面から攻めれば国際情勢はどうにでもなる。たとえば、日銀に金利を上げさせるだけでグローバルマネーの逆流が起こって金融市場の混乱を招くだろう。わざわざ危ない橋を渡って核兵器にアプローチする必要なんかない。つまりは、この映画の敵役は相当に頭が悪い。それとマトモに付き合っているヒロインも頭が悪い。つまりは全体として頭の悪い映画だと言うことが出来る。観る価値はない。