(原題:Frozen)正直言って、同時上映の短編「ミッキーのミニー救出大作戦」が凄すぎて“本編”が霞んでしまった。ミッキーマウスが登場するディズニー作品は95年の「ミッキーのアルバイトは危機一髪」以来18年ぶりということだが、過去の音声アーカイブから取り出されたウォルト・ディズニー自身の声でミッキーを吹き替えているのをはじめ、細部まで凝りに凝った技巧が駆使されている。
圧巻はミッキー達が劇中のスクリーンを抜け出してビートとの追いかけっこを“文字通り”三次元的に展開するくだりで、あらゆるアイデアが詰まった映像のアドベンチャーには驚嘆せざるを得ない。ここだけで入場料のモトは取れるだろう。
さて、ディズニー映画では珍しいダブル・ヒロインの起用や、女流監督(ジェニファー・リー)の参画などで新味を出した“本編”の出来はどうかというと、個人的には“中のやや上”といったあたりの評価だ。なお、その採点の大半は見事な映像処理と素晴らしい音楽で稼いでおり、ストーリー面では乱雑な点が目立つ。
そもそもこの話が成り立つためには、アレンデール王国の国民が王室を慕っていなければならない。もしそうでなかったら、国王夫妻が死去してから3年もの月日が大過なく送れるはずがないし、新女王のエルサが国中を凍らせた時点で暴動の一つも起こっていただろう。ところが本作には国民の側をフォローしたような描写は皆無だ。とにかく“国民は黙って王室を敬うものだ”という御題目が何の問題意識も提示せずに横たわっている。
斯様に物語の根幹がしっかりとしていないので、アレンデール王国とウェーゼルトン国の貿易品目は何なのかとか、雪と氷しかない宮殿でエルサはどうやって生きていくつもりだったのかとか、そんな些細なことまで気になってしまう。さらに終盤では主要登場人物の一人が思いも寄らぬ“悪の面”を見せるに及んでは、まるで昔の香港映画みたいな乱暴な作劇だ。
ならばアクション場面は盛り上がるのかというと、そうでもない。単発的な場面はハデだが、それが“線”となって大きなうねりになる様子は最後まで見られなかった。各シークエンスを入れ替えたり、それぞれの長さを調節するだけで随分と違ってくるようにも思えるのだが、どうにも段取りが悪いようだ。
さらに言えば、主人公二人の性格付けに今ひとつ踏み込みが足りない。基本的に子供向けのアニメーションにそこまで要求するのは酷であるのは承知しているが、かくも表面的な捉え方しか出来ないとなると、クライマックスの“真実の愛”の何たるかが観る側に迫ってこないのだ。
しかしまあ、深いテーマ性なんかを織り込んでしまうと“引いて”しまう観客も少なくないだろうし、大ヒットを狙うには、この程度の“さじ加減”でちょうど良いのかもしれない。