元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「父の恋人」

2023-07-08 06:04:30 | 映画の感想(た行)
 (原題:SONS)89年作品。地味ながら、とても情感豊かな佳作だと思う。公開当時はほとんど話題にはならなかったはずだが、あまり予備知識がない状態でスクリーンで接した観客にとっては、思わぬ拾い物をした気分になったことだろう。また主役のサミュエル・フラーは好事家の間では絶大な人気を誇った映画監督でもあり、コアなファンにとっては堪えられないシャシンでもある。

 ニュージャ一ジー州に住むフレッド・ジュニアとマイキー、リッチーの3人は腹違いの兄弟だ。彼らが気にかけているのは、年老いて在郷軍人病院で車椅子の生活を送る父フレッドのこと。もう長くは生きられず、失語症も患っているらしいフレッドのために、3兄弟は父を病院からこっそりと連れ出す。そして第二次大戦中にフレッドがフランスに従軍した際に知り合ったかつての恋人を探すため、大西洋を越えてノルマンディまでの旅に出る。



 3兄弟の母親がすべて違うことから父親はかなりの放蕩者だったことが窺えるが、それでも彼らはフレッドを慕っており、何とか最後の願いを叶えようと奮闘する。その意気がまず好ましい。やっとのことで探し出したその相手フロランスが、その後別に悲惨な人生を送ったわけでもなく、パン屋の夫と一人娘と共に平穏に暮らしていたことも悪くないモチーフだ。これがもしフロランスの側にもドラマティックなエピソードが用意されていたら、作劇のバランスが危うくなってきたところである。

 そして終盤、フレッドが3人の息子それぞれに(思わぬ形で)メッセージを伝えるシークエンスは出色で、鑑賞後の余韻を高めることに貢献している。監督のアレクサンダー・ロックウェルはS・フラーの信奉者のようで、主人公をとらえるショットの一つ一つに思い入れが籠っているようだ。ただ、S・フラーのファン以外は楽しめないかというとそうではない(かくいう私もフラーの映画はわずかしか観ていない)。普遍的な家族のドラマとして良く練られている。

 3兄弟に扮するロバート・ミランダにウィリアム・フォーサイス、D・B・スウィーニーはそれぞれ個性を前面に出した好演だ。ステファーヌ・オードランにジュディット・ゴドレーシュら脇の面子も申し分ない。ジェニファー・ビールスが顔を出しているのも驚いた。ステファン・チャプスキーのカメラによる映像はとても美しい。

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