昭和38年から45年まで続いた地方の税理士事務所と税務当局との裁判闘争、いわゆる“飯塚事件”を描いた高杉良の同名実録小説の映画化。
主人公の税理士飯塚(滝田栄)は、中小企業の経営者に合法的な節税指導をしていたが、それを面白く思わない税務署および国税庁は、手段を選ばない理不尽な圧力を彼の事務所とその顧客達に加えるようになる。だが、飯塚は逆境をものともせず、真正面から立ち向かう。
非常に力強い映画である。彼を支える家族や同僚・恩師、そして意外な協力者など、敵役の面々も含めてどれもキャラクターが“立って”おり、展開も質実剛健でまったく浮ついたところがない。泣かせどころもバッチリ押さえ、それだけに事件の重大さを観客に無理なく伝えることに成功している。また、カメラワークや舞台セットなどにも細心の注意が払われている。私自身、税務調査の対応で苦い思いをしたことがあるので、主人公達の奮闘にはグッと来るものがあった。
しかし、この映画が幅広い層にアピールするかといえば、それは無理だ。なぜなら、雰囲気が古臭いから(もちろん、それは映画自体の出来とは関係ない)。
本作はTKCという税理士の元締めみたいな法人が製作をバックアップしているが、一般の観客はそこに“PR映画”の臭いを感じ取ってしまう。所詮は映画業界にとって“外様”であるTKCみたいな法人は、自分達の主張こそ正しいとばかり(事実、今回は正しいのだが ^^;)、愚直なまでの正攻法な映画作りを要求する。結果として、限られた客層しか集められない非スマートな映画が出来上がる。逆に言えば、外部の圧力団体によってでしか社会派のマジメな映画が作られない日本映画界の“後ろ向き”の態度が透けて見えるのだ。
アメリカに目を向ければ「グッドナイト&グッドラック」や「ミュンヘン」といった厳しい映画が有名監督・俳優によって作られ、それが商業ベースにも乗り、アカデミー賞候補にもなっている。それに比べて日本は何だ? もっと世相を反映したハードな題材をエンタテインメントに昇華させて幅広い観客に問うような、そんな見上げた製作者はいないのか。あるいは“日本の観客に難しい話をしたって無駄だよォ”と最初から世間をナメきっているのか。
いずれにしろ、テレビ局とのタイアップや、チマチマとした自分の趣味の世界に閉じこもるような作品ばかりを垂れ流していては、今は好調でもいずれは先細りになることは目に見えている。