猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

少女ムシェット

2021-04-24 22:26:55 | 日記
1967年のフランス映画「少女ムシェット」を観に行った。

14歳のムシェット(ナディーヌ・ノルティエ)は、病気の母親とアル中で暴力的な
父親、兄と赤ん坊の妹とフランスの片田舎で暮らしていた。家は極貧で、学校でも
教師や同級生からひどい扱いを受け、友達もいない孤独な毎日だった。ある日の学
校の帰り道、森へ迷い込み、密猟の男アルセーヌ(ジャン=クロード・ギルベール)
と出会ったことをきっかけに、更なる破滅へと転がり落ちていく。

バルタザールどこへ行く」に続いてロベール・ブレッソン監督作品のリバイバル
上映へ行った。本作もまた救いのない物語である。ムシェットの父親は酒の密売で
その日の糧を得ていたが、家は貧困である。母親は病気でほとんど寝たきり。乳飲
み子の妹の世話はムシェットがしなければならない。まずここから不条理さを感じ
てしまう。母親はあんなに病身なのに何故子供を産むのだろう。育てられないのな
ら産まなければいいのに。家のことは14歳のムシェットの肩に全てかかってくる
し、父親は彼女に冷たくすぐに暴力を振るう。ムシェットは着替えも持たないのだ
ろう、毎日同じ服を着て通学し、カバンは壊れかけている。友達もおらず、家でも
学校でも居場所はなかった。ある日学校からの帰り道道草をしていると森の中で迷
ってしまう。そのうち雨になり、ムシェットは密猟の男アルセーヌから自分の家で
服を乾かしていけと言われる。
絵に描いたような不幸な身の上の少女の話である。ムシェットは全く笑顔を見せな
い。唯一笑ったのは遊園地のゴーカートに乗ったシーンだ。日頃娯楽のない彼女に
とってはとても楽しかったのだろう。ネットのレビューを読むと「難解」とか「訳
わからない」とか書いている人たちがいたが、わかりにくい映画ではないと思うの
だが。少女の不幸を淡々と描いた物語だ。ムシェットがアルセーヌの家で火に当た
っている時、酔ったアルセーヌはてんかんの発作を起こす。口から泡を吹いて倒れ
ているアルセーヌに驚いたムシェットは、どうしていいかわからず、とりあえず歌
を歌って聞かせる。その歌声がとても澄んでいて印象的だった。けれどもムシェッ
トは落ち着きを取り戻したアルセーヌに襲われてしまう。
リアルなまでにムシェットの悲惨さが描かれる。裕福で明るい同級生たちとの対比
が悲しい。「バルタザールどこへ行く」のロバの視点を少女の視点に変えたような
映画である。とことん容赦なくムシェットに不幸が降りかかってくる。私はアキ・
カウリスマキの「マッチ工場の少女」を思い出した。主人公にまるで救いがないの
だ。ムシェット役のナディーヌ・ノルティエは少女の頃のシャルロット・ゲンズブ
ールにちょっと似ている。反抗的な表情とか幸薄そうな雰囲気とか。本作も「バル
タザールどこへ行く」もとてもおもしろかったので、ロベール・ブレッソンの他の
映画も観てみたい。


ノエルがベルにちょっかいを出して、ベルがよけたところ。