チエちゃんのお母さんは、年中行事の中で、この「えびす講」を一番大切にしていたように思います。
「今日は、えびす講だから・・・」
毎年きまって、そう言うお母さんは、どこかイソイソとした感じがしたものです。
しかし、えびす講という行事は何の楽しみもなく、ただ、お膳を作り、神棚にお供えするだけなのです。
いつも神棚にお供えするのは、炊き立てのご飯を白木のお皿にほんのちょっとだけ盛ったものでしたが、その日は、2人前のお膳を作るのです。
ご飯と味噌汁、煮物などのおかず、そして、尾頭付き。
本当は、恵比寿さまといえば、鯛なのでしょうけれど、お母さんは、尾頭付きなら何でも良いのだと、チエちゃんの家では、いつも秋刀魚でした。
チエちゃんが不思議に思っていたことは、いつも神棚にお供えをするのは、おじいちゃんの役目だったのですが、この時ばかりは、お母さんが神棚にお供えをすることでした。
えびす講は、ちょうどこの時期であったような気がして調べてみると、旧暦の10月20日に行う行事のようです。
神無月に出雲に出かける時期に、留守を預かる留守神として竈神(かまどのかみ)をまつり、一年の無事を感謝し、五穀豊穣や大漁を祈願する民間行事ということです。
なるほど、台所を預かる主婦としては、一番大切にしたい神様のお祭りだったわけですね。
2009年の旧暦10月20日は、12月6日のようです。