資料によると、コミックス史上最も多く実写化され続けているヒーローといえば、バットマンだそうで、1939年「ディティクティブ〈探偵〉・コミックス」に連載が始まって以来、何と80年以上にわたり世界中の人々の注目を浴びていたことになる。自分も中学生になった頃、アダム・ウェストが演じるTV版の「バットマン」を毎週欠かさず見ていた記憶があり、軽快な主題歌と共にバットマンとロビンが活躍する姿を見るのが楽しみだったが、コメディ色が強く、ジョーカーやペンギン等のヴィラン(悪役)達も、恐ろしい敵というよりは、コメディアンの一人のように感じていたのも確か。そのイメージが一転したのはティム・バートンが監督した映画「バットマン」(’89)で、見ていて初めて「恐怖」という感覚を覚えた。その後クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」3部作を始め、「ジョーカー」などの優れたスピンオフ作品も誕生したが、今回はマット・リーヴス監督が描く“新たなバットマン”。そのダークさ加減は想像を遙かに超えるものだった。
幼い頃の両親殺害の復讐を誓い、夜になるとマスクをかぶって犯罪者を見つけては制裁を加え「バットマン」になりきろうとしている青年ブルース・ウェイン。ある日ゴッサム・シティの市長が殺され、その後権力者を狙った殺人事件が次々と発生する。犯人を名乗るリドラーは、犯行の後必ず?マークと“なぞなぞ”を残して警察やバットマンを翻弄し、挑発する。はたして彼は何のためにそのような犯行を続けるのだろう。その真の目的とは、いったい⁈
今回のバットマンはとにかく悩む、悩む。なかなか自分の気に入った仕事が見つからず、転職を繰り返す今の若者達と同じように。復讐心から「正義の味方バットマン」になろうとしているのはいいのだが、なかなか世間は認めてくれず、警察の中でも協力してくれるのはゴードン警部補だけ。さらに優秀な探偵としての自分も大事にしたいものの、探っていくとリドラーの犯行により明らかにされる「嘘」がいっぱいの腐敗した政治や社会に絶望。父親との関わりも明らかになって、自分自身の「闇」の部分を知ることに。
この悩めるバットマンを演じるのは「トワイライト」でブレイクしたロバート・パティンソン。一見華奢な体つきなのだが、バットマンのマスクをかぶり、スーツを着込むと見事に変身‼トレードマークのバットモービルに乗る姿も絵になる。変身といえば、恋愛関係になりそう(?)なキャットウーマンや、マスクならぬ黒いフードをかぶる正体不明のリドラー、ゴッドファーザーを彷彿させるコリン・ファレル演じる太っちょペンギンも見もの。
コロナ禍がまだまだ収まらないパンデミックの状況下、ますます悪化するウクライナとロシアの戦いも先が見えず、国内ではいつまでたってもなくならない汚職や犯罪、そして分断。「こうなるとよい」というのはわかっているのだが、なかなか解決に向かっていかないこのご時世、暗闇を照らすバットシグナルに新たな自分の方向性を見つけ出したバットマンのように、人々の希望の光となるものの登場が切に待たれる。
(HIRO)
原題:THE BATMAN
監督:マット・リーヴス
脚本:マット・リーヴス、ピーター・クレイグ
撮影:クレイグ・フレイザー
出演:ロバート・パティンソン、ゾーイ・クラヴィッツ、ポール・ダノ、ジェフリー・ライト、ジョン・タートゥーロ、アンディ・サーキス、コリン・ファレル