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「逆光」(2021年 日本映画)

2022年04月13日 | 映画の感想・批評
 尾道を舞台にした作品といえば真っ先に大林宣彦監督作品がうかぶ。大林監督が鬼籍に入られて2年になるが、新たな尾道作品が20代半ばの監督の手によって生まれた。初監督作品であり、自ら主演もつとめている。従来の公開ルートとは異なり、まず尾道で公開され広島県内を経て全国へ。そして今また京都の出町座で上映されている。監督自らが映画館に足を運び配給や宣伝活動を精力的に行っている。
 1970年代の真夏の尾道に、東京の大学に通う22歳の晃(須藤蓮)が大学の先輩である吉岡(中崎敏)を連れ帰郷する。吉岡のために実家を提供し彼が退屈しないようにと幼なじみの文江(富山えり子)に、ちょっと風変わりなみーこ(木越明)を加え、四人で遊びに出掛けるようになる。四人で行動を共にするうちに、やがて晃の心に少しずつ変化が起こる。
 冒頭、静止画にロープウェイのアナウンスが流れ、映像が動きだす。尾道へ、この作品世界にいざなわれていく。坂道をのぼっていくと、中庭のあるゆったりとした日本家屋、晃の実家に辿りつく。
 前髪を下ろした晃は弟キャラが似合っている。長髪に髭を生やした吉岡には大人の色気がある。吉岡は正面からアップで映ることがなく表情が見えづらい。それが何を考えているのかわからないミステリアスな印象を一層強めている。この二人に絡む文江とみーこの存在が興味深い。みーこは不思議な女性だ。ある日四人で海に行った時、突然みーこが海に落ちる。驚く三人に構わずそのままぽっかりと浮かんでいる。身につけている物がカラフルで、キラキラ光る水面に包まれみーこ自身も輝いている。まるで海に手向けられた花束のように…。看護師の文江は子どもの頃にいじめられていた晃を庇ったことで一目置かれていたが、成長するにつれ立場が逆転していった。文江には周囲を見渡す冷静な目があり吉岡の本質を見抜いていた。晃に吉岡との関係を母親のように諭すその顔には諦観の美しさがあった。
 月明りの下、吉岡の日焼けした背中を氷枕で冷やす晃と、薄暗い病室で亡くなった患者の身体に氷枕を当てる文江。この場面は二人の置かれている状況の違いを表すだけでなく、生と死は隣あわせだとも語っている。
 この作品は光と闇の描写が効果的に描かれている。塞がっていた五感が研ぎ澄まされていくようだ。その光と闇の狭間には小さな喜びや悲しみや憂いが潜んでいるに違いない。
 エンドロールで流れる大友良英のギターの弦の音が、出演者・スタッフ・エキストラに至るまで作品に携わったすべての人々を紹介するかのように響きわたり、いつまでも耳に残る。(春雷)

監督:須藤蓮
脚本:渡辺あや
撮影:須藤しぐま
出演:須藤蓮、中崎敏、富山えり子、木越明