シネマ見どころ

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「PLAN75」(2022年、日本)

2022年08月10日 | 映画の感想・批評
♪リンゴの木の下で、明日また会いましょう♪
この歌が耳から離れない。

舞台は近未来と称する日本の、たぶん神奈川県。
ホテルの清掃の仕事を高齢ゆえにと奪われ、住んでいる公団住宅らしきアパートも取り壊されるのか、住まいも奪われようとしている主人公ミチ。生活保護は受けたくない、深夜の道路工事の交通整理もしてみるが、やはり疲れ果て、国が勧める「PLAN75」のチラシを受け取り、その気になる。
「75歳以上の人はいつでも申請すれば支度金10万円をもらって、あとくされなく最期を迎えることができますよ。若い人に迷惑をかけたくないでしょ?」

倍賞千恵子の自然なたたずまいが演技には見えず、「ああ、こういう凛とした生き方をしてきた女性、いるよね。上品でつつましく、まじめに生きてきた、これぞ日本人女性の鑑。」

大いにネタバレになるが、ご容赦を。

たった10万円の支度金なの?
最期はあんな薄っぺらなカーテンしかないの?
寒ざむしすぎるやん。
主人公は家もお金もみな失って、どうやって生きていくのだろう。
東南アジアから出稼ぎ労働のマリア、遺品整理のカバンからそっと抜いた現金を手にしたのか、それだけでは娘の治療費も賄えないだろうに。
市役所職員の青年は叔父の遺体を車に乗せていて、スピード違反だけでは済まないだろう。PLAN75の勧誘を疑いなく進めてきた彼は、この後どうするのだろう。

「生きていていいですか?」
どうか、こんな問いかけをしないですむ社会であってほしい。
自分で生き方を選べるのはもちろん大事なのだけれど。
結局この制度の対象者となるのは、住む家も仕事も失って、先が見えなくなってしまった人たち、ホームレスになる寸前。
PLAN75のCMで裕福そうな女性がにこやかに、「じぶんで選べるって素敵」などと言っているが、およそ彼女は絶対にこの制度を利用しないだろうというのが見え見えで、嫌味にしかならない。

この映画が文化庁の支援も入って制作されているらしい。そこがまた皮肉というのか。。
鑑賞者に問題を投げかけてくる作品だった。
とても疲れた!
1回目は6月末、「ベイビーブローカー」のあと。春雷さんと同じ行動パターンだったのも面白い。
赤ちゃんと老人、生の始まりと終わりを1日で考える。
ちょうど初孫を迎えたばかりの我が家。「ベイビーブローカーって、とんでもないタイトルやわ。観る気がせんわ!」と吐き捨てるように言う娘。それを振り切って母は内緒で観に行った。
2回目を見たのは滋賀県で最後の上映日。結構な人の入りだったことも印象的。若い人の姿は少なかったかとおもう。

あと10年でこの制度の対象者かあ、私、どうするんやろ・・・・
それにしても、これほど疲れる映画も珍しいか?嫌いじゃないのだけど。
身につまされるから?
いや、ちょっと待てよ!
後期高齢者の医療保険がこの10月から負担割合が1割から2割、つまり2倍になる。おちおち病院にもかかれない。年金も減らされた。この酷暑の日々に節電ポイントなど考えつくような首相。とっとと高齢者は死んでくれと言わんばかりの政治。近未来の話でなく、ひょっとして水面下でひそかに進められているのじゃないかしら。
真夏の怪談、ホラーである。けっして「法螺話」とは言えないところが、また恐ろしい。
(アロママ)

脚本・監督 早川千絵
撮影 浦田秀穂
出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、大方斐紗子