シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「逆転のトライアングル」(2022年 イギリス・スウェーデンほか)

2023年03月01日 | 映画の感想・批評
 カンヌ国際映画祭金賞(パルムドール)のブラックコメディである。
 まず冒頭の男性ファッションモデルをネタにしたギャグがおかしい。
 オーデション控え室に集まる男性モデルを相手にいかにもナヨッとした感じの若い男性レポーターがインタビューを試みるあたりからもうお笑いムードなのだが、高級ブランドを着たときの顔、そうでないときの顔の使い分けをやってほしいというリクエストに応えて、居並ぶ半裸のイケメンモデルたちが、関西人なら誰でも知っている551の肉まんのCM(551のあるとき、ないとき)さながらに居丈高な顔、満面笑みの顔を使い分ける場面に思わず呵々大笑してしまった。要するに全編そんな感じなのだ。
 原題は「悲しみのトライアングル」という。その意味するところはラストで解明される。
 男性モデルのギャラは一般的に女性の三分の一だという前ふれがあって、やがて映画は主人公の男性モデルのカールと女性モデルのヤヤが高級レストランでデートする場面に移る。
 ここでひと悶着起きる。デザートを食べ終わったふたりの間に伝票が置かれてある。カールは知らん顔しているヤヤに気色ばむ。「きのう明日は私がおごるといったのはきみだ。この伝票が目に入らないのか」と。目に入らなかったというヤヤにカールは「そんなはずがない。男が払うべきだという先入観を持っているからだろう」と言葉を荒げると、ヤヤは意地になって「私が払えばいいんでしょ」と喧嘩腰にいう。
 まあ、ふたりは結局仲直りするのだけれど、ヤヤが役得で手に入れた豪華クルーズ船旅に出たふたりを待ち受けていたものはとんでもない災難だったというおはなしである。
 船長室に引きこもったまま出て来ないトンデモ船長を演じるウッディ・ハレルソンがキャプテン・ディナー(船長主催の晩餐会)に無理やり引っ張り出されてようやく姿を現す。これは、たぶんこの映画の唯一の有名スターであるハレルソンをジラしにジラして登場させるというサービス精神とみた。そのアル中気味で無責任極まりない船長が嵐で海に揉まれる中をロシアの成金富豪と飲んだくれている間、船中は船酔いで戻したりぶっ倒れる客が続出し、ほとんどドタバタ喜劇の様相を呈するのである。
 最終章では、事情があってサバイバル生活を強いられる7人の男女(もちろんカールとヤヤも含まれる)の人種構成が白人、黒人、アジア人となっていて、富豪から客船の清掃作業員に至るまで属性は様々で、人種や階層・階級の縮図がみごとに浮き彫りにされている。その皮肉は強烈だ。
 監督のリューベン・オストルンドは「フレンチアルプスで起きたこと」(14年)で国際的に注目を集めたものの、ブラック味では同じスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソンには及ばぬ未熟さが目立ったし、カンヌ金賞の「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(17年)も私にはつまらなく感じた。しかし、カンヌ連続金賞に輝いたこの映画は、私の最近のお気に入りだ。また、主演のディキンソンは当ブログでも取り上げた「ザリガニの鳴くところ」で強い印象を残した期待の新人である。一方、みごとなプロポーションで魅せたヤヤ役のディーンは撮影後に急死するという悲劇に見舞われたときく。哀悼の意を表したい。(健)
 
原題:Triangle of Sadness
監督:リューベン・オストルンド
脚本:リューベン・オストルンド
撮影:フレドリック・ウェンツェル
出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ウッディ・ハレルソン、ズラッコ・ブリッチ、ヴィッキ・ベルリン、ドリー・デ・レオン