この暖かさ 先週、都心でも朝、急に「雹」や「雪」が降り出し、びっくり仰天したことがウソのようです。いよいよ、全国から桜開花の便りも始まりました。それでも、この時期の気候は不安定。「花冷えの日」もあるので、今年は比較的、長く桜が楽しめるのでしょうか
昭和の時代、平成の初期には、桜は「入学式のお花」でしたが、気候変動のせいで、今ではすっかり「卒業式の時期の開花」となっていましたよね。でも、今年は早い時期の入学式ならば滑り込みセーフかもしれません
前回、オマケのお話として、少しだけ保税展について触れましたが、最終日の4月6日までまだあと1週間は会期中なので、ちょっとした「雑学」として、ジュエリーのお話をさせてくださいね
今回の保税展にも出展されている香港からのブランド。「ピュリティジュエリー」というのがそのブランドです。あとはもう一社、極々わずかですが、ダイヤモンドの特殊加工のブランドから出展されているだけです。
昔を知っている私としては、この状況をとても寂しく感じています というのは、昔の保税展では、香港からの出展ブランドは数社あり、それらのケースを眺めているだけでもぜんぜん飽きない…うっとり時間でした
美しいヒスイを中心としたジュエリーを扱うブランドや、ダイヤモンドジュエリーを得意とするブランド。また、ルビーやエメラルド、サファイアに代表されるような色石(ダイヤモンドと区別するためにこのように呼ばれます)を中心に扱うブランド、etc. これだけでも3社ですからね。
こういう香港からのジュエリーの人気が高かったのは、ヨーロッパのブランドと比較した時、ほぼほぼ価格設定がかなり「お買い得感のあるものばかり」というのも大きな理由だったことでしょう。
それには理由があります たとえば… 「品質の面で、ヨーロッパ勢には劣るからですか?」No
No
とんでもありません、それは大きな見当違い
香港ジュエリーにリーゾナブル感があったのは、あくまでも人件費や工賃の安さと、宝石そのものの流通量が非常に多かったから、ということが理由でした。
「流通量」に関して、違う観点から説明をしてみましょう。
2020年の年末、私は白内障の手術をするついでに、眼内レンズを入れたため、それまで約10年近く楽しんだ遠近両用のメガネライフを終えました。みなさんご存知のように、とってもメガネ好きだった私は、何本ものメガネを使っていましたでしょう?素敵なフレームを見つけると、あれこれと悩みつつも、熟考の末に購入
でもね、そんな風にあちこちのメガネ屋さんでメガネを作ると、ほぼ同じ会社の、同じ「レンズ」を使うのに、支払う代金には大きなバラツキがありました もちろん、フレームの値段の違いが価格に反映されるのは当然です。でも、仕上がり価格の違いは、同じ種類のレンズを入れるにも関わらず、「レンズそのものの値段の違い」から生じる価格の違い、だったのです
初めてメガネを作るメガネ屋さんでは視力検査をし、その上で「度数もすべて、了解しました それでは、レンズは「ニ〇ン社」の薄型の遠近両用レンズにしましょう。」とか、「うちでは「HO〇A社」の遠近両用を使っていますので…」のように、使うレンズについてお話をしてくれました。大抵が「同じ種類のレンズ」でした。
でも… とてもとてもオシャレなフレームを扱っている小さなお店、知る人ぞ知る的なメガネ屋さん、そういうお店では、総じてレンズそのものの価格が高い
それに対して、テレビで頻繁にCMが流れているようなチェーン店の場合、海外で買ったフレームを持ち込み、レンズを入れてもらおうとすると…同じ種類のレンズでも、かなりお安く出来上がります
不思議さにやっと気づいた私は、ある時、思い切ってたずねてみました。すると、お答えは「なるほど~」と合点がいったことを今でもよく覚えています。
つまり、オシャレなお店、知る人ぞ知る系のお店では、「ニ〇ン社やHO〇A社」のレンズを、1年間で100本程度しか仕入れない。それに対し、チェーン店では、1店舗でひと月に100本近いオーダーをする。そして、オーダーは個々の店舗からではなく、チェーン店でまとめて発注をする…となると、同じ会社の同じレンズであっても、その時点で発注数が大きく違うため、仕入れの価格も大きく違ってくるということなんですよね。
大口の発注をかけるチェーン店のメガネ屋と、小さな小口のメガネ屋とに、レンズメーカーが同じ価格でレンズを卸すわけがない、ということ、だったわけです。こんなことは当たり前のことでしょうが、私はその時、妙に「おー、物の価格というものは、こんな風に決まっていくのですね」と、身をもって大発見をした気分になったのでした。
ということで、これは宝石業界でも同じ、ということです。
香港には昔から、たくさんのジュエリー加工業者があり、たくさんのジュエリーを扱う企業があります。そして、ジュエリーの製作に、それぞれが高い技術のしのぎを削っていました。そんな香港には、大量の加工前の宝石が流れました。チェーン店のレンズが安いというのと同じ理屈です。
そして、それを加工する工賃、人件費も安い…こういう理屈で、なーんにもマイナスの要因などはないけれど、香港のジュエリーは欧米のものに比べて安価だった、わけなのですね
そんな香港のジュエリーには、昔は、ものすごく素晴らしい品質の「ヒスイ」のジュエリーがたくさん出展されていました。「香港からのジュエリーはヒスイ、翡翠ですよね」というほど、たくさんのヒスイのジュエリーが紹介されました。指輪も、イヤリングやピアス、ペンダントトップ、そして大ぶりの高価なブローチもありました。
でも、ある時を境に、ヒスイのジュエリーはどんどんと減っていき、とうとう、ここ10年くらいは全く見られなくなりました 香港は中国に返還されましたし、どんどん中国本国が豊かになっていき、富裕層と呼ばれる人達が増えいきましたからね
中国は、ヒスイの産出国ではありません。そんなふうに思っている人は多いですね
けれど、むかーし昔の様々な王朝の時代から、中国ではヒスイが珍重され、人の大きさほどあるような「置物」にも使われました。
そんな中国では、文化的に、伝統的に、ヒスイの装飾品の代表は「太い腕輪」。ブレスレット、という音からイメージされるような華奢なものではなく、ドドーンと腕にはめる「腕輪」です。富裕層の人達が、「富の証」として手にいれ、装われるのがそんなヒスイの腕輪だとしたら…きっとリングであれば10個以上、ピアスであれば5個以上のピアスが出来るじゃないでしょうか はっはっは。
今では、ペニンシュラホテルに座っても、昔のような「摩訶不思議な、独特の雰囲気」「ひとひねりある感じの、イギリス由来の空気」をあまり感じられることがなくなり… 香港は「中国の大都市」となっていきました。
世の中は、いろいろとかわっていくもの、ですね
よく「古き良き時代」という言い方をします。それでは、今は良い時代ではないのか?と問われれば、もちろん、そういう訳ではないでしょう。けれど…
今回、出展されているピュリティジュエリーは、ヨーロッパの「ジュエリー好き」の人達の方を向いているのではなく、中東や、今や発展途上国ではなく、新興国となってきたアジアの国々の富裕層の方を向いているのかもしれないな…なんて思いました。
いくつもの小さな石を「1粒石」のようにセッティングする集合石の高い技術。洗練された、一工夫のあるオシャレなデザイン。ダイヤモンドを爪と呼ばれる金属で台座にセットするのではなく、ダイヤモンドの石そのものにレーザーで穴を開ける技術で生まれるネックレスやピアス。その輝きたるや、すごいですよ
あんなに美しかった素晴らしいヒスイに出会うことはなくなりましたが… 私は今も「香港のジュエリーファン」です