秋彼岸のころ、墓地や日陰の荒地の何もないところからから、突然姿を現し真っ赤な花を咲かせる野草がある。人はそれを彼岸花と呼ぶ。
別名を「死人花」「地獄花」「幽霊花」「仏花」「狐花」「捨子花」などなど、ありがたくない名前が多い。日本での別名・方言は千以上が知られているという。その中でも最も一般的な名前が「曼珠沙華」。古代インドの『梵語』で、赤い花を意味するそうだ。
巣鴨の染井霊園に隣接する永代供養の墓「すがも平和霊苑」に眠る友の墓参りに行った。例年ならトップ画像のような、真っ赤な曼珠沙華が咲いているのに、今年はまだ芽を出したばかりの、捨てられた子どものように恐る恐る顔を出した姿が見えるだけ。これも猛暑のせいだろうか?
曼珠沙華は花と葉が同時に出ることはないことから「花は葉を思い、葉は花を思う」という意味で「相思花」とも呼ぶそうだ。花言葉に「あきらめ」「悲しい思い出」の他に
「情熱」「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」など、名前からは想像もしないようなことばを持つのもうなずける。
若い頃、楽器の演奏曲と間違えて買った「山田耕筰作品集」という合唱曲のレコードがある。その中の一曲に、北原白秋作詞の「曼珠沙華(ひがんばな)」という曲があり、そのおどろおどろしく妖しげな詩とメロディーが耳から離れないほどの衝撃的な歌だった。
ゴンシャン ゴンシャン 何処へ行く
赤い お墓の 曼珠沙華(ひがんばな) 曼珠沙華(ひがんばな)
きょうも 手折りに 来たわいな・・・
ゴンシャン ゴンシャン 何本か
地には七本 血のように 血のように
ちょうどあの子の 年の数・・・
ゴンシャン ゴンシャン 気をつけな
ひとつ摘んでも 日は真昼 日は真昼
ひとつあとから またひらく
ゴンシャン ゴンシャン 何故泣くろ
何時(いつ)まで取っても 曼珠沙華(ひがんばな) 曼珠沙華(ひがんばな)
恐や赤しや まだ七つ
この歌を聞いていると、此岸(しがん)の煩悩が真っ赤に染まるようだ。山口百恵さんも「曼珠沙華(マンジュシャカ)」で歌ってる。“白い夢さえ 真紅(まっか)に染める”と・・・