ぼくは夏の数ヶ月のあいだ、海岸に食べのこしや、忘れられた宝物を見つけた。クラッカー、クッキー、レモネード、桃、干し葡萄、ドライ・シリアル、ポテトチップ、りんご、バケツ、手おけ、雑誌、鉛筆、凧、風船。
ぼくは砂丘の端にある自分の小さな隠れ家に、いろんなものをもち帰った。
わけもなく空を飛べなくなったリトル・ターン(こあじさし)は、海岸の住人となり、星と語り、花とふれあい、目にうつる色彩に心うばわれる。思索にふけり、夢みることに熱中し、ある種のコレクターになった。
時はゆっくりと過ぎてゆき、ユウレイガニと出会い、友情が生れる。ユウレイガニは言う。
「きみは飛ぶ能力を失ったんじゃない。ただどこかに置き忘れただけだ」
「どういうこと?」
「きみが集めてるものの中で、何がほんとに重要で、何がそうでないかに気づかなくっちゃ」
もののない時代に育った僕は、使わないとわかっていても、着ないとわかっていても、形あるものは棄てることが出来ない。長くない残りの人生で必要なものだけを残し、不用なものは処分することにした。スリムに生きることも必要だと考えた。
まずはじめに、衣類の整理。山になった衣類を袋に詰め、隅田川の青テントへ持っていった。彼らを助けようなどという大それた気持ちなどさらさらない。ゴミとして捨てるよりは、役に立つならという、自己満足に過ぎない。これからの寒い冬を過ごす彼らにも、飛べなくなった事情があるのだろう。いつか飛べる日が来るまで、しのいでくれればそれでいい。
ぼくは砂丘の端にある自分の小さな隠れ家に、いろんなものをもち帰った。
-五木寛之訳 「リトル・ターン」 から
わけもなく空を飛べなくなったリトル・ターン(こあじさし)は、海岸の住人となり、星と語り、花とふれあい、目にうつる色彩に心うばわれる。思索にふけり、夢みることに熱中し、ある種のコレクターになった。
時はゆっくりと過ぎてゆき、ユウレイガニと出会い、友情が生れる。ユウレイガニは言う。
「きみは飛ぶ能力を失ったんじゃない。ただどこかに置き忘れただけだ」
「どういうこと?」
「きみが集めてるものの中で、何がほんとに重要で、何がそうでないかに気づかなくっちゃ」
もののない時代に育った僕は、使わないとわかっていても、着ないとわかっていても、形あるものは棄てることが出来ない。長くない残りの人生で必要なものだけを残し、不用なものは処分することにした。スリムに生きることも必要だと考えた。
まずはじめに、衣類の整理。山になった衣類を袋に詰め、隅田川の青テントへ持っていった。彼らを助けようなどという大それた気持ちなどさらさらない。ゴミとして捨てるよりは、役に立つならという、自己満足に過ぎない。これからの寒い冬を過ごす彼らにも、飛べなくなった事情があるのだろう。いつか飛べる日が来るまで、しのいでくれればそれでいい。