我が家の庭で育ちました。今年の初みかんです。
京極夏彦氏のデビュー作「ウブメの夏」を読んだ。デビュー作はその作家の思想、人間観が顕著に現れるので、京極氏の人となりを知るのにいいと思ったのだが、まさにまさに。
彼の評価は世の中の評論家諸氏が述べていることと思うが、私の素人的感想を言えば、「おどろおどろしいものの上品な知的探究心をくすぐられる推理作家」であろうか。横溝正志的な因習を題材にしてはいるが、横溝作品に時として表れる低俗さ、泥臭さがない。科学的に実に細やかに考察しており、彼の繊細で確固たる基盤に立った思想は、揺るぎが微塵も見えなくて気持ち良いほどだ。
といって、本自体にはかなりのミスというか、序盤に風呂敷をあまりに広げすぎたために、それを収斂するのに無理が生じていると思えたが、許される範疇だろう。
宮部みゆきもそうだが、実に心理描写・情景描写に長けている。これは推理作家にとって不可欠な特質かもしれない。犯人の思想や動機などを微妙な表現で埋没させることが必要だろうから。
ただ、この本で紹介される個性豊かな人たちがどのような行動をするのか、非常に興味がある。「世の中には不思議なことなど何も無いのだよ」と言い切る科学的思考の人と対極をなす超能力的思考を有する人物。作者はどちらの思想を現代の我々に提供するのか知りたい。シリーズ物らしいから次作で分るかもしれない。「モウリョウのハコ」を買ってきた。