愛する犬と暮らす

この子たちに出逢えてよかった。

もっと食べさせてやればよかった

2011-08-09 12:51:18 | 残されて
 むぎの月命日だった昨日、夜にかかる打ち合わせの予定が入ってしまい、約束の花を買って帰れなかった。家人も仕事が長引いて買い物へいかれなかったので、結局、むぎの最初の月命日はなにもしてやれないで終わった。

 一日遅れになったが、きょう、小さな花束を買って帰るといったら、家人の「いいわよ。わたしがステーキ用のお肉を買ってきて供えるから…」との、ぼくからみると意外な言葉。
 「むぎちゃんはお花よりもお肉でしょう」
 「しかし…」と、反論を試みようとするぼくに彼女は、「わたしも最初はお花を…と思ったけど、食事制限をさせていたあの子にもっとお肉とかの好きなものを食べさせてやりたかったから……」。


 昨年、腎結石で手術をして以来、むぎはたんぱく質の摂取を制限されてきた。ドッグフードも腎臓に石ができにくいヒルズのu/dという療法食に変わった。だが、それをひどく嫌っていた。
 手術まで食べていた同じヒルズのw/dにしても、ダイエット用の療法食のドライフードであり、繊維質が多いということで美味しい餌ではなかったはずだが、むぎはシェラが食べている元のw/dを欲しがった。

 シェラもむぎも太り気味で、だいぶ前からともにw/dを食べてきた。シェラは高齢期とともに太り気味の身体は解消しているが、むぎのほうは結石摘出の手術以後、また太りはじめてぼくたちを悩ませた。

 今度のU/Dは硬すぎて、顎が細いために噛む力が弱いむぎには噛み砕けず、毎回、家人がお湯でふやかして与えていたが、それでもよほど不味いらしく、毎回、半分近く食べ残して、最後はシェラのお腹におさまった。見かねた家人は、U/Dを半分、残り半分にW/Dを混ぜて与えはじめた矢先だった。

 手術以来のこの一年、肉を食べさせるにしてもむぎには形程度しか食べさせなかった。肉以外にも、およそ犬が好物とするものの大半を、むぎに隠れてシェラにやったり、むぎの量を極端に調整せざるをえないのがなんともやるせなかった。

 12歳という高齢期に入り、また石ができて手術を繰り返すのだけはなんとしても避けたい。もう二度とむぎの身体にメスを入れたくない。それだけの思いで心を鬼にして食事制限をしてきたが、ぼくたちは鬼になれきれず、いつも心が揺れ動いていた。

 動揺は家人のほうが激しかった。
 「この子たち、食べるくらいしか楽しみがないのよ。それなのに欲しいものを食べさせてやれないなんてかわいそう過ぎる!」
 さすがに、「少しくらい寿命が縮まってもかまわないから美味しいものを食べさせてやりたい」との本心を口にすることはなかったが、彼女にしてもそれが偽らざる気持ちだっただろう。

 ぼくの本音もまた同じではあったが、ぼくがそれをいってしまったら、ふたりそろってタガが外れてしまいかねない。ぼくは決して本意は見せず、揺れながらも鬼のままの心を貫いた。それが正しかったのかどうか、いまとなってはわからないが……。

 「こんなことになってしまうのだったら、もっといろんなものを食べさせてやりたかった」
 いまにして、想いは家人と同じだが、鬼の心を捨てずにきたぼくのほうが未練は深い。それだけに、いまさらむぎの霊前に思い切り食べさせてやりたかった肉を供えてやるのがかえって辛くてならない。

 鬼の心を解いて、せめて一度だけでも、久しぶりに美味しい肉をたっぷり食べさせたかった。