☆シェラだけのキャンプふたたび
小旅行は、結局、清里になった。四季を通じて足繁く通った場所である。
わが家の泊りがけの旅はテント泊のキャンプと決まっている。わんこと泊まれるペンションやホテルがあることも知っているが、施設のスタッフやほかの泊り客に気を遣うのが面倒なのでキャンプしかやったことがない。
シェラもむぎも物心ついたときからキャンプをやっている。清里にあるそのキャンプ場は主に早春のころと初冬のキャンプでお世話になってきた。9月とはいえ、晩夏あるいは初秋の陽気のキャンプははじめてかもしれない。
ウィークデーではあったが、初日の8日(木)のテントサイトにはぼくたち以外に3組がテントを張っていた。しかし、同じテントサイトでも、ぼくたちが借りた電源付サイトは2日ともぼくたちだけのキャンプとなった。
☆やっぱりむぎが忘れられない
こんなことははじめてだった。もし、むぎがいたら、ノビノビとキャンプ・ライフが楽しめたのに……。想いは家人も同じだった。
夜、家人がむぎの思い出を語りながら泣いた。このキャンプ場での思い出はあまりにも多い。
どこのキャンプ場でも同じことをやっていたのだが、テントの入口でむぎが前半身を外へ出し、後半身をテントに入れたまま見張りをしていたことが思い出される。
いつの間にかテントを抜け出し、だからといって遠くへ出かけていくわけではないのだが、テントの周囲をパトロールしていた。気がついて呼べばあわててすぐに戻ってきた。
ぼくたちが恐れたのは、万が一、野生動物と遭遇し、むぎが襲われれてしまう事態だった。
本栖湖ではキツネがうろついていたし、この清里では、イノシシの接近があった。野犬に襲われる可能性もあるし、ムギなど野良ネコにだって負けてしまうかもしれない。
最初の夜は、むぎの思い出でしんみりと更けていった。それだけに二日目の夜が思いやられた。
だが、二日目は予期しなかったような事態が訪れた。午後7時からはじまった打ち上げ花火でシェラがすっかりおびえた。こんな静かな高原で、信じられないような花火大会だった。
☆災い転じて……
花火は断続的に続き、特に9時からの30分間は尋常ではなかった。
静けさが魅力の清里にあって、花火など「まさか!?」との思いもあって、ぼくはおびえるシェラを置いてクルマで花火を打ち上げている場所を探しに出かけた(翌日、キャンプ場の管理人さんから聞いた話では、近所の集落のお祭りだったという)。
花火が終わってからもおびえるシェラをなだめるのが精いっぱいで、ぼくも家人もしんみりとむぎを偲ぶ余裕などなかった。呼吸を荒くし、ときおり、悲痛な鳴き声を洩らすシェラを抱いて家人は自分たちが寝るまで花火の非常識さを怒った。
「むぎちゃんだって、あんなひどい花火だったら怖がっていたはずよ」
彼女はそういうが、弱虫むぎも花火や雷にはまったく動じなかった。
シェラが怖がらずにむぎだけが怖がったのにどんなことがあったのかを思い出そうとしたが、また悲しみが湧いてきそうになり、あわててやめた。
もう悲しむのはやめにしようと決意したばかりなのだし……。
シェラには気の毒なことをしたけれど、あの花火大会のおかげでぼくたちの気持ちにバックギアが入らずにすんだのだから、かえってよかったのかなといまは思っている。
最終日の今日、シェラは朝からサイトで眠そうだった(写真=上)。帰りに寄った清泉寮のキープファームショップ(写真=下)でも……。
ここにもむぎのビジョンがいっぱいある。