☆湿った天気に打ちのめされて
結局、むぎに逢えるかもしれないとの妄想を訪ねるドライブは、きょうにかぎってはいかなかった。理由はいくつかある。たしかに理性がまさった側面は否定できないが、何よりも天候に左右された日だったことが大きい。
南方の洋上で、またしても停滞する台風の影響で、朝からまがまがしい雲が空に垂れ込め、気分が湿ってしまった。外気はそれ以上に湿って外出の足を鈍らせた。
昨日の朝から、シェラの散歩のとき、むぎネコが姿を見せていないのが、ぼくと家人には気になってならない。
餌は食べているのだろうか? 水は飲んでいるのだろうか? 用心深いネコではあるが、事故に巻き込まれているのではないか?
ぼくも家人もわざわざ口にはしないが、同じ思いでいる。家人のほうが、きっと、ぼく以上に気にしているだろう。
☆なぜかショパンの調べに
シェラの散歩から戻ったあと、せっかくの休日だというのに動くのも億劫でテレビの前でうたた寝をする。シェラもぐっすり寝ていた。
朝食を終えたあとからは、テレビで不思議とショパンの曲を次々に聞いた。こんな憂鬱を運んでくる天気の日には、ショパンの調べが妙にしっくりとハマる。最後は盲目の天才ピアニスト辻井伸行さんの特集番組『世界の辻井伸行』に釘づけになった。
彼の素晴らしい演奏の数々の中で、ショパンが心に響く日だった。
むぎのビジョンを訪ね、そこにむぎがいないことはわかっていながらいってみて、やっぱりむぎはいないと打ちのめされる日を、とりあえず先送りにした。
いつもの休みの日のように、夕方近く、買い物を兼ねて「こどもの国」近くのスーパーマーケット横にある公園を訪れた。スーパーの駐車場へクルマを入れ、隣接する公園を散歩し、スーパーの軽食コーナーのテラスでシェラのために休憩する。
☆シフォンなひととき
休みの日は、どこのカフェであれ、テラス席でお茶をするのがシェラの楽しみになっている。ここではドトールコーヒーのシフォンケーキに最近はハマっている。むろん、シェラも大好きである。
むぎにも食べさせてやりたかったといつも思う。
ここのテラス席にいると、目の前を公園へ向かうイヌたちをたくさん見る。10年ほど前は少なくともいつも数匹のコーギーがいたのに、めっきり見なくなった。みんなどうしてしまったのだろうか。ほとんどの子がむぎよりも若かったはずなのに。
「わたしね、もし、また次の子を飼うことになってもコーギーはやっぱり飼わないわ」
家人がいった。「むぎと比較しちゃうだろうから……」
「それはたしかだね。でもね、オレはやっぱりコーギーが大好きなんだ。あのフォルムが可愛くてならない。だから、もう飼わない」
☆コーギーに魅せられて
本心は少し違う。
コーギーが可愛くてならない。あの体型のフォルムが可愛くてならないから、もし、コーギーのパピィが売られていたら、あとさきのことを考えずに買ってしまうだろう。
きょうもむぎがいた店にいくのを躊躇した理由のひとつはそれである。
それにしても、あんなにたくさんいたこの公園のコーギーたちはどこへいってしまったのだろうか? むぎもまたここにいない。