☆あの夜以来どこへ
むぎネコが消えてしまった。
ぼくたちが散歩をしている隙にシェラのマンション内の移動に使っているクレートの中に入り込み、植え込みの茂みに逃げたのはいいが、尻尾だけ不用意に出していたあの夜を境に忽然といなくなった。
朝の散歩のときも、夕方、あるいは深夜の散歩でもまったく姿を見せなくなった。
外へ出るたびに舌を鋭く鳴らして呼んでみるのだがどこからも反応がない。家人もぼく以上に気にかけていて、夕方の散歩時はかなりしつこく探しているようだ。
シェラにしてみれば、朝も昼も、そして、たまに夜中まで外へ出ればストーカーのようなネコ探しにつきあわされるなんて迷惑千万であろう。
飼猫であれば心配などしないが、家なきネコだから気になってしまう。あの子にかぎってはクルマにはねられるようなことはあるまい。ちょっとでもクルマの音が聞こえると物陰に走り込んでいるような用心深さを備えていた。
☆復活のそのときは
それじゃどこへ?
むろん、野良という身軽さゆえ、どこか他所へ移動していった可能性もあるだろうが、考えられる唯一の可能性は、近所の家のご主人に捕まり、強制的に去勢手術を受けさせられているという可能性である。
家人が、むぎネコの素性を調べる過程で、ご近所のご主人から、いずれ捕まえて去勢手術をやろうと思っていると聞いている。そのご主人に家人もなかなか出逢う機会がないので確認できずにいる。
ひょうきんなむぎネコが、どこかへいってしまったのではなく、やっぱり去勢手術でいっとき留守にしていたが、無事に手術を終えて復活してきてくれる日を楽しみにしている。大事なタマを抜かれてしまい、性格まで変わってしまわないことを願いつつ……。