イラク映画って、意外と
ないんだと気づきました。
「バビロンの陽光」66点★★★
2003年、フセイン政権崩壊から3週間後。
イラクのクルド人自治区から
おばあさんと12歳の少年が歩き出す。
1991年に無理やり兵士にさせられ
いまも帰らない
おばあさんにとっては息子、
少年にとっては父親を探す旅だ。
クルド語しか話せないおばあさんを助けながら
少年はさまざまな人と出会い
助けられて、
旅を続けていく。
二人は旅の最後に、何を見るのか――。
寡黙だが激しやすいおばあさんに
辛抱強くつきあう少年がいじらしい。
ヒッチハイクで二人を乗せた
運転手が歌う
「ああ神はなぜクルド人を傷つけるのか、
なぜアラブ人を悲しめるのか」
という切ない調べと
その彼が少年に
「どうせなら偉大なマイケル・ジャクソンを(笛で)吹いてくれよ」
という
そのギャップにも驚かされる。
けっこう市民は普通に
アメリカ文化に触れているんだとか、
すごく基本的な
イラク人の日常を知ることができました。
この国はずっと戦争、戦争ばかりで、
しかもフセイン政権下で
マイノリティーであるクルド人の
大量虐殺という悲劇も起こっており
主人公の少年たちの父親のような
行方不明者は150万人以上もいるそうです。
そうした遺体を葬った
集団墓地がたくさん発見されているそうで、
行方不明者を捜す肉親たちが
大勢そこを訪れているそう。
監督はそのニュースに触発されて、
この映画を撮ったのだそうです。
映画には
悲しみのなかで助け合ったり
家族の不在を嘆き悲しんだり
慟哭したりする人々の姿が映っていて
いまの日本人にとっても
格別に胸を痛めるものであり、
また共鳴するものだと思います。
ただ、映画としては
描きかたがストレートすぎて
もうひとつ味わいがない。
海外の作品には
婉曲のなかに現実と悲劇を浮かび上がらせる良作が多いので
少々物足りない、と感じてしまった。
表題にある「バビロンの空中庭園」も
見てみたかったし。
でも、イラクって映画館もないそうで、
そもそもイラク映画って
あまりないんですね。
イラン映画はちょくちょくあるけれど。
そんな状況を考えると、
クオリティは十二分。
これからに、期待も高まります。
★6/4からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
「バビロンの陽光」公式サイト
来週発売の『週刊朝日』ツウの一見で
イラク情勢に詳しい
日本エネルギー経済研究所中東研究センターの
吉岡明子さんに
この映画について解説していただいてます。
専門家である吉岡さんにとっても
市井の様子がとても興味深かったそう。
ぜひご一読ください。
少ない誌面でもれてしまったお話のなかで
吉岡さんは
「ずっと戦争続きだったこの地に
いま一番必要なのは、人材の育成」とおしゃってました。
現地の人材を育てないと
本当の復興はできない、と。
映画人も、そうなのかもしれません。