ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

演劇1、演劇2

2012-10-18 19:27:32 | あ行

総上映時間5時間42分。
しっかしこれは面白い!

「演劇1」「演劇2」80点★★★★


「選挙」「精神」の想田和弘監督が
平田オリザ氏と、その劇団を撮った観察映画。

演劇論をぶつわけでもなく、
しかも普段、演劇に親しんでいないワシのような人間も
夢中にさせるドキュメンタリーでした。

まず「1」では
平田氏と彼の率いる劇団「青年座」が
ある舞台を作り上げる過程を撮っている。

平田氏の舞台って、未見なんですが
実に普通の会話のような、
いわゆる“舞台舞台していない舞台”なんですね。

しかし、その自然な会話は
そのリズムも間合いも、実はコンマ一秒まで
平田氏がコントロールしてるんだそうです。

平田演劇では
役者は「自分を出す」必要などなく、
何度も何度も何度も繰り返される稽古に耐え、
その緻密な計算の土俵にのる、というわけです。すげえ!

だからホントに稽古が
何度も何度も何度も繰り返されるんですよ(苦笑)
えらいなあ役者さん。

「俳優とはお客さんを騙すのではなく、自分を騙すのだ」という
いまや看板役者となった
古舘寛治氏の言葉も深く

応募してきた劇団員を面接したり、
おそらく平均睡眠時間2、3時間?!という生活や、
なんと自ら経理もやる(!)日常も面白く

それに
練習風景と実際の公演を
うまくクロスして見せる監督はなかなかしたたかにうまかったす。


そして「演劇2」。

こちらでは
政治家との付き合いや、
全国津々浦々まで演劇セミナーやワークショップに出向く
平田氏の様子が映し出される。

演劇にどう社会性を持たせるか、
ひいては“商売”にできるか、という方法論のパートでもあります。

なかでも出張授業先の高校生たちに
脚本を書かせるシーンが最高におかしかった(笑)

平田先生に創造のツボをうまく引きださられ、
みんな面白いものを作るんですねえ。
平田氏は教員経験もあり、教えかたがうまいんだよねー。

子どもたちに教えることで演劇の未来を、
シビアに言えば
自分たちの存続意義を生み出しているわけでもありまして。


点数的には
「演劇1」が80点。
「演劇2」が71点。続けて見ると、さすがに疲労感もあったし。

もちろん両方観るといいと思うけど
あえて言うならば
「演劇1」は演劇を知らない人に
「演劇2」は演劇を知る人にオススメかな。


★10/20(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「演劇1」「演劇2」公式サイト
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ペンギン夫婦の作りかた

2012-10-16 20:03:06 | は行

想像以上に、よかったですねえ。

「ペンギン夫婦の作りかた」71点★★★★


***********************

東京でフリーライターをしている歩美(小池栄子)は、
同じく東京の出版社でカメラマンをしている
中国人男性ギョウコウ(ワン・チュアンイー)と出会い、国際結婚する。

が、ギョウコウが勤めていた出版社が倒産!

まあなんとかなるさ、と
どっしり構える歩美は
気晴らしに沖縄・石垣島に旅行を提案する。

そしてすっかり島が気に入った二人は
さっそく移住を決意。

島での暮らしが始まったのだが――?!

***********************


“食べるラー油”ブームの火付け役である
石垣島ラー油を生み出した
実在夫婦の自伝を基にしたお話。

番長は個人的にもファンで
毎年取り寄せており(笑)
お二人のバックボーンもなんとなーくは知っていた。

でも、こういう映画になるとは
ちょっと思わなかった。

もっと
ほんわか、ふんわか、に終始するのかと思ったら
意外にサスペンスな雰囲気?!(笑)もあり

帰化申請と夫婦の成り立ち、
さらにラー油の成り立ちをうまく絡めた脚本がしっかり締まっていて、

雰囲気だけの映画になってない。


それに
しっかり者の妻・小池栄子と、
優しいけれど、たまに見せる顔に“大陸系”な男っぽさのある
台湾俳優ワン・チュアンイーの息がとても合ってました。


彼がイケメンではなく
しかし角度によっては松田優作に見え・・・なくもない
素朴系なルックスであるのも加点材料。


料理、部屋などの美術もオシャレすぎてないし、

憧れの移住先が、住めばやがて日常になって
少~し熱が冷めていく様子、

ピーカンじゃなく、ちょっと曇りがちな石垣島の空も風景も
すごーく自然でリアルだと思いました。
(意外と、そんなに晴れないんだよね。笑

ただひとつ、異常にお腹が空いてくるので注意!(笑)
帰りは絶対中華ですぞ。


★10/20(土)から全国で公開。

「ペンギン夫婦の作りかた」公式サイト
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希望の国

2012-10-14 21:08:24 | か行

ワシ的には「ヒミズ」より断然いいかと。

「希望の国」70点★★★★

************************

20XX年。原発を有する“長島”県。

酪農家の泰彦(夏八木勲)は、認知症の妻(大谷直子)を抱えながらも
息子(村上淳)と嫁(神楽坂恵)に支えられ
平穏に稼業を営んでいる。

が、その日。
いつもと同じく牛舎にいた泰彦を大地震が襲う。

「原発、大丈夫だよな?」――

泰彦の不安は果たして現実となり、
周囲は警戒区域に指定され、住民たちは避難させられる。

杭1本でギリギリ警戒区域外になった泰彦の家だが、
しかし妊娠中の嫁は
放射能への不安を募らせていく――。

************************


1年に2本、いや2.5本くらい撮ってるんじゃなかろうかという
ハイペースな園子温監督の馬力と
このテーマにいち早く、果敢に取り組んだことに
まず敬意を表したいです。


芝居がかったセリフは“園流”だし
微妙にシラケるところもあるんだけど、

とにかくドキュメンタリーではなく劇映画として、
これをやったことがすごい。

当然かもしれないけど、
映像にも刺激的なところはなく、
表現はソフトに、非常に配慮されている。


それでもリアリティはいやというほどあって、
いつもの風景のなかに飼い犬や牛たちがいるのを見るだけで
胸が苦しくなってしまう。


つまり観客のほうが
映っている以上のものを想像してしまってるわけで

そんな観る人の想像力と、それをさせている現実のほうが
よほど凄惨で暴力的かもしれない。


見ていくうちに
これが「福島原発事故より後の世界」の設定だとわかってくるんですが、

そうなると避難の方法など、
もう少し経験からスキルも上がっているのでは?とか
若干のちぐはぐさもあることにはあって。

ただ
妊娠をきっかけに異常なまでに放射線に神経を尖らせる嫁など、
ホラーみたいだけど、これ真実だよな、とか。

あくまでも「そこにまだある現実」を見せて
「あなたたち、もう忘れてませんか?」という警報にしてるのだと思います。

だって、その場所にはいまも
ミイラ化した動物たちが放置され、
野良牛や犬、猫らが、道を横切っているのだから。


それに
ソフトでマイルドなまま表現のまま終わっていたらイマイチだったけど
ラストが思いっきり苦いのがよかった。


圧倒的な現実のなかで、フィクションの持てる力とは何か。
考えさせられる1本です。


★10/20(土)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。

「希望の国」公式サイト
コメント (2)
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ミステリーズ 運命のリスボン

2012-10-13 14:45:03 | ま行

休憩ありの267分。
さあ、がんばっていきましょう!(笑)

「ミステリーズ 運命のリスボン」67点★★★☆


***********************

19世紀前半のポルトガル。

修道院で育った14歳の少年ジョアンは
ディニス神父(アドリアヌ・ルーシュ)の計らいで
実の母と対面する。

母は裕福な伯爵夫人だったが、
夫の子ではないジョアンを産んだことで
夫の逆鱗に触れ、長年軟禁されていた。

ジョアンは次第に
自身の出生の秘密を知り

さらにジョアンを助ける神父も
ひょんなとこから自分自身の出生の秘密を知ることになる。

やがてジョアンはパリに渡り、
年上の未亡人に恋をする。

だが実は彼女はディニス神父と
ある接点を持つ人物だった。

運命の糸は
まだまだ複雑に絡みあっていく――。

***********************


いや~、これは長かった!

神父に育てられた孤児の少年(美形!笑)の生い立ちから、
少年の母親、そして神父自身と、
人々の身の上話が、数奇に絡み合う4時間26分。

監督はチリ生まれでフランスに亡命し
「クリムト」(06年)などを撮ってきた
ラウル・ルイス氏。2011年に70歳で亡くなっていますが、

これが
非常に特異な作風というか、
脚本も映像もリズムもなにもかもが
既成のものとはまったく違うので

その世界に入るまでは、正直退屈でたまらない(苦笑)。

しかし中盤~後編になり、
ようやく運命の糸の繋がりが見えはじめ

行き着く先の、因果の皮肉が見えてくると
「人の人生は、かくも複雑なのだ」を実感できて、

意外にしっかりした鑑賞後感を得ることができます。

映像も美しいし

ほぼ全て、男女の愛と感情から物事が起こっているのに、
濡れ場が一切ないのも徹底してるというか
美学なんでしょうね。

少し辛抱が必要だけど、
入り込めば、めくるめく魅惑の世界・・・かな。


★10/13(土)からシネスイッチ銀座で公開。ほか全国順次公開。

「ミステリーズ 運命のリスボン」公式サイト
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フタバから遠く離れて

2012-10-12 19:53:51 | は行

原発事故が、いかに重く深い傷かがわかって
心にずしーんと。

「フタバから遠く離れて」69点★★★☆

福島県双葉町から、町まるごと埼玉の廃校となった高校に避難した人々を
9ヶ月間追ったドキュメンタリー。

同じ避難所の定点観測でも
「石巻市立湊小学校避難所」とはがらりと違い、
いたってシリアス。

原発、放射能という問題の重さもあるだろうけど
作り手の個性も多分にあると思う。

人々の声も入ってはいるけれど、
対象人数はあまり多くなく、そこまで深くない。

そこには
「原発による風評や差別」の影響もある気がしますね。
つまり
子どもがいじめられたり、結婚が制限されるかもしれないなんて言われるように
「放射能被害にあった」ことを知られたくない人が意外と多いのかも、とか。

で、
一般の声よりも町長の苦悩や、
政治の対応などに軸足を置いている印象があり
ゆえに硬質さや、悪くいえば“重さ”ばかりを感じてしまうのも事実。

それでも
地震や津波に比べて
「私たちは復興できないんだもん」と嘆く人の声はリアルに痛く

町長が
原発に依存し、原発マネーで町が潤った過去を語り、
それを経て
「原発はやはりいらない。誘致は失敗だった」と言う証言など
非常に貴重だと思いました。

置き去りにされ、物言わぬミイラ化した牛たちにの姿こそ、
目に焼きつけるべきメッセージがあるしね。
辛いけどね。

坂本龍一による悲しいピアノ曲もけっこう残る。


見ながら
園子温監督の新作「希望の国」(10/20公開)をまんま思い出したりもして。

同じ題材のドキュメンタリーとフィクション、
合わせて観てもいいかもしれません。


★10/13(土)からオーディトリウム渋谷ほか全国順次公開。

「フタバから遠く離れて」公式サイト
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